タイの首都バンコクで新種のドラッグを使用した若者が相次いで死亡し、社会問題となっている。
バンコク市内の一室で1月10日、ナイトクラブで働く22歳のタイ人女性が床で仰向けになって死亡しているのが見つかった。女性の遺体は死後数時間が経過していて、部屋には粉状の薬物が残されていた。また、女性の恋人とみられる男性も同じ室内のベッドで意識不明の状態で発見され病院に搬送された。

相次ぐ薬物による死亡事故
バンコク市内では年明け以降、こうした若者たちの薬物による死亡事故が相次いでいる。1月10日以降、7人の死亡が確認されたほか、10人以上が病院に搬送され治療を受けている。いずれも白い粉状の薬物を服用したことが原因とみられている。
このドラッグは、タイで「K(ケー)ノムポン」と呼ばれる違法薬物で、連日、地元メディアで取り上げられている。「K」は麻酔薬ケタミンの「K」、「ノムポン」とはタイ語でミルクの粉という意味を持つ。この粉ミルク状のドラッグは主に鼻から吸引して使用されている。

この「Kノムポン」はどのようなドラッグなのだろうか。
タイ警察病院が成分を調べると粉末にはケタミンだけでなくヘロインや合成麻薬MDMA(エクスタシー)、睡眠導入剤のミダゾラムが含まれていた。また、カセサート大学教授によると覚醒剤や別の睡眠導入剤が混合されている種類のものも出回っているという。「Kノムポン」は様々な薬物をブレンドしたことで毒性が増したとみられ、死亡した7人のうち6人は服用後に即死したと考えられている。
新型コロナ拡大による国境封鎖の影響も
こうした混合ドラッグは2020年以降、バンコク市内で急速に広がり始めた。その理由の一つに、新型コロナウイルス拡大による国境閉鎖が影響しているとの見方がある。
タイでは麻酔薬ケタミンが広く乱用されていて取締の対象となっている。そのケタミンの多くは隣国ミャンマーから密輸されている。ところが新型コロナウイルスの感染拡大で隣国との国境管理が厳しくなったためケタミンの密輸量は減少し、従来と比べて入手困難になってきているという。
ドラッグディーラーは不足するケタミンを補うため、別の薬物をブレンドした新しいドラッグ「Kノムポン」を開発し、1グラム400〜500バーツ(日本円で1400〜1700円ほど)で密売しているとみられている。また、複数の薬物を混ぜることでケタミンの効果を高める目的もあったとみられる。

タイでは近年、若者を中心にドラッグが蔓延していて社会問題となっている。こうした状況下で毒性が高いドラッグが出回ったため、相次いで死者が出る事態となった。タイ警察は1月13日までにドラッグを販売していた疑いで23歳の女など3人を逮捕していて、ドラッグの生産元や流通経路の解明を急いでいる。
【執筆:FNNバンコク支局長 佐々木亮】