ライトアップの原点は取り壊しを免れるため

神奈川県・藤沢市にある江の島灯台。テレビなどで誰もが一度は目にしたことがある、この灯台が建てられたのは1951年。

ずっと海を見守り続けてきた灯台は、建設からおよそ半世紀が経った頃、老朽化のための取り壊しが検討され始めていた。ほとんどの人が知らないうちに、その姿が江の島から無くなろうとしていたのだ。

しかし、取り壊しの危機から救おうという声があちらこちらから上がり、1999年、市民の関心を集める事でその姿を残そうと、ある運動が始まった。

それが、「湘南の宝石」と呼ばれるイルミネーションの原点、「ライトアップ作戦」だった。

灯台を電飾し、ライトアップする事で、街のシンボルにして、地域振興を図ろうというものだ。市民に参加意識を高めてもらうため、装飾用の電球をJR藤沢駅前で「1個1000円」で販売をはじめた。電球が売れることで市民の関心を集めていこうというもの。今でいうクラウドファンディングと同じだ。売れ行きは上々で市民の関心もどんどんと高まっていき、短期間で集まった電球の数は、なんと3万8000個にも及んだ。

中には、亡くなった妻との思い出の場所だから無くなって欲しくないと50万円を支払った男性もいたという。

灯台は、市民の熱い想いと一緒に装飾され、夜の海を背景に美しく、華麗に浮かび上がった。

江の島シーキャンドル
江の島シーキャンドル
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この運動をきっかけに、企業(灯台を所有する江ノ島電鉄)・行政(藤沢市)・市民(地元商店街)が協力して、様々な運動やイベントが行われるようになった。そして2003年4月、ついに江の島灯台は建て直された。大勢の人の願いが形になったのだ。

「拡大と分散」でコロナ対策

地域一体となって作りあげてきたこのイベントは、2020年で21年目を迎えた。

コロナ禍での開催を決めた理由を「湘南の宝石実行委員会事務局」の村上 聡さんに聞いた。

「私たちのイルミネーションのイベント自体を知っていただいている方は全国的にも増えました。そんな皆さまにどうやったら安心安全を担保しながら実施できるかを委員会のメンバーで深く検討した結果が今回の拡大と分散でした。実施エリア拡大による人の分散期日拡大による集中の分散というものです。
お越しくださる皆さまの為に開催したいという気持ちは確かにありました。ただ、それ以上にこの”湘南の宝石”はこの時期にしか見られない湘南を象徴する姿です。
地元の方は、自宅や職場、通勤通学の帰りなど、日常の中でこの光に癒されてきました。こんな時だからこそ光を絶やしてはいけないとも思っていました。
そのため、お越しいただける皆さまが安心して楽しんで頂ける体制作りが重要になったのです」

老朽化の取り壊し危機から灯台を守った時から、企業・行政・市民からなる「三本の柱」は堅い絆で結ばれていた。コロナ対策も、迅速に実行された。アルコール消毒や、並ぶ際のソーシャルディスタンスに加え、イルミネーションエリアの拡大も行った。

亀ヶ岡広場
亀ヶ岡広場

メインスポットのコッキング苑の他に、正面入り口近くにある亀ヶ岡広場や、波の浸食で出来た洞窟、江の島岩屋。更に、周辺の片瀬弁天橋や新江ノ島水族館にもイルミネーションを施す事で、訪れる人が一か所に集まらなくても楽しめる工夫をした。

江の島岩屋
江の島岩屋

そして、もう一つ。ENOMAPを利用する事で江の島全体と周辺の混雑状況をスマホで即座に確認する事が出来る。

ENOMAP(読み:エノマップ)
ENOMAP(読み:エノマップ)

関東三大イルミの一つに

関東三大イルミネーションの一つとして知られる「湘南の宝石」の装飾は、従業員が手作業で取り付けている。それが見ている人に一番気持ちが伝わるやり方だからだという。

正面入り口を入るとまずイルミネーションの回廊が現れる。全体に装飾されたイルミネーションが光のトンネルを作りだし、訪れた人達を魅了する。

イルミネーションの回廊 湘南シャンデリア
イルミネーションの回廊 湘南シャンデリア

トンネルを抜け、見上げるとそこにはシーキャンドルがそびえ立っている。優しい光が辺りを照らし、その姿を目に焼き付けようとする人、スマホを上に向け撮影に夢中になる人など、各々が楽しんでいる。

エレベーターに乗って展望デッキへ登る。360°見渡せるこの場所からは湘南の街が一望出来、夜には、その綺麗な夜景を楽しむことができる。

湘南の街 夜景
湘南の街 夜景

何十年も前から灯台はこの場所から、街を見守り続け、市民はこの景色に心癒されてきた。

みんなの心が一つになってこの景色を残した、と言っても言い過ぎではない。心は人の原動力になるのだ。市民に愛され、守られてきた灯台。これからもずっと輝き続けていくだろう。

取材後記

例年ならば、この時期、きれいなイルミネーションを映像で伝えるはずだが、今回は違った。

調べていくと、コロナ禍で各地のイベントが自粛される中で「湘南の宝石」だけは、この光を絶やさないという強い想いで開催に至ったということがわかった。

取り壊しも検討されていた江の島灯台。多くの市民、企業がここまで愛し育ててきた「光」。

実際に撮影しているとその苦労を微塵も感じさせることなく、いつものように美しく光り輝いていた。

コロナ禍で今までとは違う日常がある中、それでもコロナに負けないという強い想いと、イベント開催を行う上でしっかりとした対策を取ってのイルミネーション。もちろん見に来る側の観光客もしっかりと対策していたように思えた。

そんな光の中で楽しむ家族たち。こちらの気分まで暖かくなるようなカップルなど、江の島灯台は、まさに人々の癒やしの空間となっていた。

今回「冬の光」というテーマで取材に望み「湘南の宝石」をとりあげたのは、単に綺麗なだけではない、コロナ禍で静かに戦っていた人々の想いの詰まった「冬の光」を伝えたかったからだ。

【湘南の宝石】
会期 2020年11月21日~2020年3月7日
会場 江の島島内・片瀬海岸エリア

執筆:撮影中継取材部 山下 高志・三浦 修

撮影中継取材部
撮影中継取材部