コロナでリモートワークが普及し、人々の働き方やライフスタイルは大きく変化している。いま湘南・鎌倉では、東京都内から脱出し移住や2拠点居住先を求める人々が殺到している。リポートの後編は、18年前鎌倉に本社を構えた「面白法人カヤック」を取材した。

「満員電車に乗りたくない」から鎌倉に本社

18年前から鎌倉に本社を構えるIT企業「面白法人カヤック」は、ソーシャルゲーム市場やアプリ向けにコンテンツの発信を行っている。「鎌倉資本主義」や「リビング・シフト」などの著書があるカヤックの創業者で代表取締役の柳澤大輔さんは、「毎日満員電車に乗りたくない」という想いから鎌倉に本社を置いた。

面白法人カヤックは18年前鎌倉に本社を置いた
面白法人カヤックは18年前鎌倉に本社を置いた
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「リモートワークの普及が進んだことで、皆さんも多分、満員電車に乗らないで働く素晴らしさを気づいたのではないでしょうか(笑)。コロナで商習慣がガラッと変わってオンラインで対話することが失礼じゃなくなったので、確実にリモートワークが進むなという手応えを感じています」

カヤックではフルリモートにはせず、社員は週3回オフィスに来ることを推奨している。

「ほとんどの社員は鎌倉に住んでいて職住近接なので、リモートの恩恵はほかの会社よりも高くないです。ただ一部の関連会社はフルリモートです。本社では毎月2回集まって、チームビルディングをするスタイルになっています」

「リモートには向く仕事と向かない仕事がある」と柳澤さんは語る。

「我々は何か大事なことを決める議論し尽くしたい会議や新しいものを生み出すブレスト、新たにチームビルディングしたい場合はオンラインではやりません。すでに作業が決まっているタスクや進捗確認などはオンラインですね」

カヤック代表取締役の柳澤さん「リモートには向く仕事と向かない仕事がある」
カヤック代表取締役の柳澤さん「リモートには向く仕事と向かない仕事がある」

海・山と文化、人との関わりを求めて人は移住する

いま鎌倉には移住や2拠点居住を求める人々が詰めかけている。

実はカヤックは2018年から地方移住を進めるサイト「SMOUT(スマウト)」を運営している。このサイトでは、登録者が地域情報を探すのと同時に、地域が登録者の情報を見てスカウトするマッチングを行っている。

コロナのステイホーム以降登録者数が急増しており、今年4月までは月間登録者数が平均450人だったのが5月に初めて千人を超え、累計でも4月まで1万人だったのが半年で2万人に倍増した。

本社ロビーに置かれている面白法人像は社員の平均顔を算出し制作
本社ロビーに置かれている面白法人像は社員の平均顔を算出し制作

「登録者数がめちゃくちゃ増えて、移住関連サイトの中で1番大きくなりました。いま自治体も1700程度あるうち約600が利用しています。もともと移住のニーズがあったところに、コロナでさらに増えました。ただいきなり遠くにはいかないですね。東京で働いている人がリモートワークになっても月に1,2回は出社しますし、このままずっと会社がリモートワークさせる保証もないですから、近場で千葉とか湘南に移住が増えているのですね」

このサイトからは人々が移住する地域に求めるものが見えてくると柳澤さんは語る。

「共通なのはやはり自然ですね。山とか海とか。あとは文化的なにおいがするお寺とか、そういうものをもともと持っている地域は優越性がありますね。ただ、それだけでは弱くてやはり人なんです。その街の人との関わり、つながりが強く、来た人を受け入れる仕組みがあるところは人気ですね」

オフィス間の私道には『仲間を助ける力をもて。 仲間に助けてもらう勇気をもて。』のスローガン
オフィス間の私道には『仲間を助ける力をもて。 仲間に助けてもらう勇気をもて。』のスローガン

ワーケーションを失敗しない秘訣とは

いま小泉進次郎環境相を筆頭に政府では、新しい働き方としてワーケーションを提唱している。バケーションを取りながらリモートワークをするスタイルだが、カヤックでは創業した22年前から「旅する支社」という仕組みをつくっていた。つまり社員が自由に居住地を移動しながら働くというもので、元祖ワーケーションといってもいい。しかし柳澤さんは、ワーケーションの実現性について疑問をもつ。

「インターネットが普及し始めた時代ですけど、ISDNがある場所にみんなで行って、1か月から3か月間『仕事は平日にしながら土日はバケーションする』という実験をやりました。そこでわかったのは、やはりバケーションに行くのと仕事に行くのは微妙に違っていて、気をつけないと中途半端になると。仕事に行ったのにハワイみたいな観光地に行くとやはり遊びたくなって生産性は確実に落ちるというのが結論でしたね(笑)」

であればワーケーションは空理空論なのか?柳澤さんは「やり方次第」だという。

「日本人の感覚で1、2週間のワーケーションをやろうとすると仕事もバケーションもどっちつかずになります。家族を連れて行ったら逆に満足度が下がりますね。『なんでこんなところにまできて仕事をするんだ』という話になるので。滞在期間は成否を分ける要因のひとつではないでしょうか」

カヤックでは社員が焚火を囲んで議論できる屋外空間も
カヤックでは社員が焚火を囲んで議論できる屋外空間も

今後も鎌倉の街づくりと関わり合う

最後にコロナ後、鎌倉はどう変わったか?鎌倉在住歴18年の柳澤さんに聞いてみた。

「移住者が増えたという意味での変化はコロナ後にありましたけど、コロナ後に住んでいる人たちの意識が変わったかというとそこは変わっていませんね。カヤックではこれまでやってきたことに確信をもった感じもあるので、新しいことをやるというよりはもっと進めていこうと感覚です。会社も鎌倉の街づくりに関わりながら、ここでの取組をほかの地域にも展開できたらと思っています」

カヤックは今後も鎌倉を拠点に、移住の情報発信を続けるという。移住も2拠点居住も成功するかしないかは、最後は人と街との関わり合いなのだ。

移住も2拠点居住も成功の可否は人と街との関わり合い
移住も2拠点居住も成功の可否は人と街との関わり合い

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。