コロナでリモートワークが普及し、人々の働き方やライフスタイルは大きく変化している。いま湘南・鎌倉では、東京都内から脱出し移住や2拠点居住先を求める人々が殺到している。現地を取材し、2回に分けてレポートする。

湘南で暮らす夢をかなえて2拠点生活開始

「湘南で暮らしたいという長年の夢がありました。ただ子育てとか日々の生活に追われているうちに忘れかけたり無理だなと諦めたりしたんですけど、やっぱりこっちの方に暮らしたいという思いであらためて探したんですね」

河本ここのさんは2014年5月に江ノ島のシェアハウスに入居して以来、家族が暮らす東京の自宅との2拠点生活を始めた。その翌年には鎌倉の隣の逗子市に自らシェアハウスを建て、オーナーとして2拠点生活を続けている。

河本ここのさんは東逗子にシェアハウスを建て夫と2拠点生活をしている
河本ここのさんは東逗子にシェアハウスを建て夫と2拠点生活をしている
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シェアハウスの居住者は河本さん夫妻も入れて現在12人だが、そのうち7人が2拠点居住者だ。コロナ前は東京に通勤する人が多かったが、いまはリモートで都内に行くのは週2日程度だという。

「私はいま仕事が2つあって、1つは東逗子のシェアハウス『#910(ここのつ島)』の運営、まあ大家さんですね。”拡大家族”というコンセプトでやっています。もう1つは統計心理学『i-color』と傾聴をもとに自分のあり方を探る講座の主催。リモートや都内、このシェアハウスで開催しています」

シェアハウス「ここのつ島」のコンセプトは”拡大家族”
シェアハウス「ここのつ島」のコンセプトは”拡大家族”

コロナになって以降、このシェアハウスでは入居の問い合わせが引きもきらない。

「やっぱり増えていますね。不動産会社のサイトには『満室』と出していますが、それでも『空室になる予定ありますか?』みたいな感じで結構問い合わせがきます。以前から湘南方面に興味があった人が、コロナ以降は本当に住みたいところに住みたいと。仕事がリモートになったことも後押ししていると思いますね」

シェアハウスでは居住者以外も参加できるイベントを開催
シェアハウスでは居住者以外も参加できるイベントを開催

鎌倉の宿泊施設にシェアオフィスをつくる

鎌倉材木座で2016年から宿泊施設「Goodmorning Zaimokuza」を経営している坂口弥寿久さん。多くの外国人観光客が訪れたこの施設もコロナ後は宿泊客が激減し、しばらく休業せざるを得なかった。

「僕の本業はスポーツイベントのディレクターで6年前に鎌倉に移住したのですが、友人が遊びに来ても鎌倉は宿が少ない。鎌倉は毎年2千万人くらい観光客が訪れるのですが、当時は宿が40軒程度でした。じゃあ自分で宿泊施設をつくろうということで始めたのです」

鎌倉にある宿泊施設「Goodmorning Zaimokuza」はビーチが目の前
鎌倉にある宿泊施設「Goodmorning Zaimokuza」はビーチが目の前

そしてコロナ禍の中施設を移転した際に、坂口さんはシェアオフィスも作ることを思い立った。

「この半年間ずっと家にいて自分に向き合う時間があったので、仕事についてちょっと考えたんですよね。そこで仕事と遊びが一緒にできる場所っていいなと思って、海があって仕事場もあるという環境をつくろうかとシェアオフィスをつくりました」

海があって仕事場もあるシェアオフィスをつくった
海があって仕事場もあるシェアオフィスをつくった

今月オープンしたシェアオフィス「Good Working Zaimokuza」には、湘南にオフィスを持ちたい個人事業主やフリーランス、東京の本社の他にサテライトオフィスを求める会社経営者、そして鎌倉在住だが「自分の居場所や時間が欲しい」という人達から問い合わせや契約申し込みが続いているという。

「鎌倉ではいま移住組が賃貸不動産を求めて列をなしている状態です。もともと鎌倉は移住者の割合がかなり高くて、特に我々40代の子育て世代が子どもの環境を考えて移住するパターンが増えていますね」(坂口さん)

「湘南にオフィスを持ちたい」「自分の居場所が欲しい」と問い合わせが続く
「湘南にオフィスを持ちたい」「自分の居場所が欲しい」と問い合わせが続く

脱東京組が海・山・文化を求め鎌倉移住へ

コロナ以降東京から湘南・鎌倉へ人の流れが起きている。鎌倉で不動産業を営む鎌倉R不動産株式会社の小松啓社長はこの地域の不動産市況をこう語る。

「脱東京の流れは活発で、特にリモートワークなどで出勤が少なくなった方々の湘南・鎌倉移住に対する需要は顕著です。弊社の契約件数は今年6月から9月までの4ヶ月間で150%増加しています。このエリアは東京まで電車で1時間程度、海・山・文化など豊かな生活環境が手に入るので人気の移住先になっていると感じています」

鎌倉R不動産の小松啓社長「湘南・鎌倉移住への需要は顕著です」
鎌倉R不動産の小松啓社長「湘南・鎌倉移住への需要は顕著です」

小松さんによると、まず動いたのは都内在住の富裕層と経営者層だった。彼らの多くは2拠点か多拠点居住を視野に入れていて、自分たちが安全で楽しく自由な空間を持ちたいという発想で拠点探しを行っていたという。

続いて動いたのは住居兼事務所を探すデザイン事務所の関係者。そして現在は会社勤めの家族や単身者層で、不動産市場が活況となっているそうだ。

自身も東京からの移住組である小松さんは、今後の不動産市場についてこう語った。

「このまましばらくは活況が続くと考えています。働き方も大きく変化し各企業も在宅ワークによる仕組みづくりを進めていくでしょうから。しかしコロナが収束すれば都心回帰の目線が芽生えるのではないかと感じますね」

後編では、今注目を浴びている「ワーケーション」と移住の動きについて、在鎌倉18年の面白法人カヤックから現地レポートする。

「Goodmorning Zaimokuza」から鎌倉由比ヶ浜を臨む(著者撮影)
「Goodmorning Zaimokuza」から鎌倉由比ヶ浜を臨む(著者撮影)
鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。