宮城県を代表する観光地・松島町。定番の松島海岸を中心とした観光スポットだけでない、新たな魅力を発信しようと、地元住民たちが動き出した。神輿を担ぎ、地元産米を食べ比べる。そんな体験ツアーを軸に、「立ち寄り先」から「泊まりたい町」へと松島を変えようとする挑戦が始まっている。
観光客は来るが、泊まらない

松島町を訪れる観光客の数は、2024年におよそ313万人を記録し、コロナ禍前の水準を超えて順調に回復している。遊覧船乗り場にはイギリスや韓国、台湾からの旅行者が集まり、「景色が良い」「島々を見たかった」と口をそろえる。

ところが、宿泊となると話は別だ。松島町内に泊まった観光客はおととしで約46万人にとどまり、コロナ禍前の水準には戻っていない。取材中に声をかけた観光客の多くは「仙台に泊まっている」と答えた。松島は「目的地」ではなく、「通過点」になってしまっているのが現状だ。
14人が集まって生まれた委員会
この状況を変えようと立ち上がったのが、松島で割烹料理店を30年以上営む樫崎希之さんだ。森林組合の職員、紫神社の宮司、漁業・飲食業の従事者など、松島で異なる職業に就く14人とともに「松島オプショナルツアー検討委員会」を結成し、自ら委員長を務める。
「松島っていうと、どうしても松島海岸の観光地だけが脚光を浴びるが、町内全部を使った何かできることはないか」と樫崎さんは語る。
神輿を担いで、米を食べ比べる

委員会が企画しているのは、外国人観光客をターゲットにした体験ツアーだ。舞台のひとつは、松島海岸から車で10分ほどの場所にある紫神社。高城克彦宮司が案内役を担い、参加者は装束をまとって実際に神輿を担ぐ体験ができる。
社務所では、松島町内で作られたコメの食べ比べも行う。30年以上農業を営む赤間善弘さんが丹精込めて育てたコメを釜で炊き、ササニシキとひとめぼれのどちらがどちらかを当てる趣向だ。
「本当にうれしいですよね。コメも頑張ってつくっているので、その中に仲間入りさせてもらえれば」と赤間さんは目を細める。渥美薫さんも「松島の米もうまいんだよってPRしないとね」と笑顔を見せた。
商談会で手応えをつかむ

このツアーを携えて、樫崎さんは仙台市が初めて企画した商談会に臨んだ。宿泊税を活用して開かれた商談会には、アジアやヨーロッパのランドオペレーターが集まり、東北・宮城への外国人誘致を進める場となった。
樫崎さんは初めての商談に「なんかちょっと緊張する」と話しながらも、8社と交渉を行った。イタリアからの観光客向け旅行会社のクローマ・ダニエーレさんは「日本の文化、日常生活にものすごく興味を持っている方が多いので、まさしくこのようなコンテンツがうってつけかなと思っている」と前向きな反応を示した。

「すごく反応が良かった」と樫崎さんは手応えを語る。「海外から来た人と一緒に何かをすることも大事なんじゃないかと。松島だからこそできるものを見せたいなと思います」
目指すのは地域産業の活性化ツアーそのものが最終目的ではない。樫崎さんが見据えるのは、農業・漁業・飲食業など松島を支える各産業が、観光を通じて強くなることだ。「農業にしても漁業にしても、それをひとつの商売としてできる、松島の主要な団体が強くなれるようなものになれば」と話す。
有名な景色に頼るだけでなく、そこに暮らす人々の仕事や文化そのものを観光資源にしていく。14人の挑戦が、松島の新たな顔をつくっていく。

