「この木も空っぽ…」
収穫を間近に控えたナシが、毎日のように食べられている。広島県三次市のナシ農園では、2026年に入ってクマによる被害が深刻化。人の生活圏にも近い農園で、生産者の緊張状態が続いている。
「今年は異常」毎日のようにクマ出没
三次市作木町森山西地区のナシ農園では、7月ごろから同じ地区の5軒の農園にクマが毎日のように出没している。朝になると、地面には食べられたナシが散乱。1軒あたり1日で50個~200個ほどの被害に遭う日もあるという。
三上観光農園の三上恵美子さんは、被害を目の当たりにしてきた。
「この木も空っぽ。枝ごとに実があったんですよ。だけど、全部なくなって、いっぱい枝を折って入って」
ナシ農園にクマが現れるようになったのは、10年ほど前から。山間の住宅に隣接する農園に、夜間を中心に姿を見せるようになった。今年は特に被害が深刻で、三上さんは「もうショックでしかないし、来年のこともどうするか考え中です」と話す。
8月には、農園近くに設置されていたイノシシ用の箱わなにクマが入り込んだ。しかし、クマは力づくでわなを壊して逃走。その様子を撮影した「クマレンジャー」の坂根憲昭さんは、その威力に驚いたという。
「やっぱりビビりますよ。全部ガバッとめくられて、出られた」
毎日農園をパトロールしている坂根さんも、今年は異常だと感じている。
「もうクマが出るのが当たり前という状況になっています。どこでも出ます。人身被害が出るのは、もはやすぐそこだろう」と話す。
木に登り30分、ナシを食べ続ける
テレビ新広島は、被害が相次ぐナシ農園にセンサーカメラを設置した。
8月24日午後10時すぎ、カメラが捉えたのは、ナシの木を慣れた様子でよじ登る黒い影。体長1m以上とみられるクマだ。
袋掛けされたナシを口でくわえ、袋の中身だけを器用に食べていく。クマは約30分にわたって同じ木に居座り、翌朝、木の上には食べ散らかした跡だけが残されていた。
後日、坂根さんとともに映像を見て、クマがナシをくわえる様子に驚いた。
「ナシだけ持ってきて食べるんじゃね」
三上さんは以前、農園の中でクマと鉢合わせになったこともある。
「夜中に、木の上から大きい声で、歯をむき出して威嚇してきたんですよ。すごく怖かったです。人間を見たら逃げるからいいですけど、目の前におったらどんなですかね。分からんけど、怖いです」
これまで、三次市内でクマが人を襲う事案は確認されていない。しかし、人の生活圏に近いナシ農園に毎日のように出没しており、人身被害への懸念が高まっている。
直立のまま2時間、ナシを食べ尽くす
さらに8月31日午後11時ごろ、別の食べ方をするクマもカメラに映っていた。
今度は木に登らず、後ろ足で立ち上がると、そのままナシの木を物色。直立した状態で、約2時間かけてナシを食べ尽くした。
毎朝、被害を見つけては片付けに追われる生産者たち。
「どのようにすればいいか分からんのですよ。どうすれば来んようになるんか。もう残念しか、悲しいしかないです」
クマが出没する夜間、生産者同士で警戒して回ったり、花火を打ち上げて大きな音を出したりと、クマを追い払おうとしている。しかし、クマはそうした対策にも慣れてしまったようだ。
「怖いですよ、やっぱり。でもここまでしたらナシを守らないと仕方がないけえ」
クマの生態に詳しい広島修道大学の奥田圭教授は、「一度エサ場として認識されると、クマが年間を通して人里に定着する可能性がある」と警鐘を鳴らす。
「真夏はクマにとって一番エサが少ない時期。そこでナシを見つけてしまうと、それに依存した生活になってしまう。今のところ深夜帯に出てきているので、人と遭遇することがない状態かなと思いますが、これから先、人の活動時間とクマの出る時間がバッティングしてしまうと、大きな事故につながる可能性があります。早急な対策が必要になってくると思います」
クマ捕獲の規制緩和、県に要望へ
三次市はこの夏、森山西地区にクマ用の箱わなを設置した。しかし、クマが「危ない」と学習したのか、捕獲にはつながらなかった。野生のクマは法律により、県の許可がなければ基本的に捕獲できない。
9月に開かれた三次市議会の一般質問でも、ナシ農園の被害がテーマとなった。三次市は近年の出没の多さを受け、クマを「捕獲」の対象にすべきと考えている。福岡誠志市長は、規制緩和に向けて近隣市町と連携し、広島県へ要望していきたい考えを示した。
一方、緊急時に銃器を使って捕獲する「緊急銃猟」については、出没が夜間で安全確保が難しいことなどから、慎重にならざるを得ないとしている。
危険と隣り合わせの中で、生産者たちは収穫本番を迎える。この日も、三上さんが農園で作業をしていた。
「きょうも被害がありました。もう、ナシがなくなります。今すぐなんかしていただきたい」
農家だけの努力では限界がある中、捕獲だけでなく、電気柵の導入支援などクマを近づけさせない対策も求められている。
(テレビ新広島)

