熊本地震発生から1カ月、復旧に向けた動きが進む中で、様々な課題が浮かび上がってきたが、その一つが、支援物資が必要なところに届かない「ミスマッチ」だ。
大災害の度に繰り返されてきた支援物資のミスマッチは、熊本地震でも発生。物資が届かない避難所があった一方で、届きすぎるケースもあった。
その背景を取材すると、ミスマッチ解消の切り札として国が導入したシステムが、十分に活用されていなかったことが明らかになった。
「何も食べない日があった」
7月28日、熊本県を襲った最大震度7の大地震。
1カ月後の今も61箇所の避難所に2400人以上の人々が避難生活を余儀なくされている。

私たちは震災から5日後、八代市で最も大きい避難所を取材した。日中は約200人がおり、避難者は数種類のカップラーメンを選んで手に取っていた。
こうした食料が行き渡った避難所があった一方で、ほとんど届かなかった避難所もあった。
9人が避難する別の避難所では、「1日なにも食べなかった時があった」との声が聞かれた。
発災6日後からの数日間は、パンなどの食料がほとんど届かなかったという。なぜこうなったのか?
難しい在庫管理
当時、避難所に物資を送る市の拠点では、職員とボランティアで食料の仕分けを行っていた。八代市の職員は、「入ってくる物資は箱単位で管理がされていたが、物資を配る方の管理が甘かった」と話す。

当時の避難所の映像を見ると、パンが入ったカゴを傾けて、パンを袋に流し込んでいる様子が映っていた。

食料の数に限りがあるなか、少ない人数で在庫管理が十分にできず、避難所への配分に偏りが起きた可能性があるのだ。

一方で、震災から10日後の宇城市の拠点「ウイングまつばせ」では、トラックから次々に飲料水入りの段ボールが運び込まれていた。この物資拠点には、保管場所がなくなるほど大量の水などが届き、他の物資の受け入れを断る事態になったという。
なぜ物資の「ミスマッチ」が起きたのか。
連携不足でミスマッチが
災害が起きると、国は、自治体からの要請を待たずに、被災した県の拠点に食料などの物資を緊急輸送する「プッシュ型支援」を実施する。

その物資が集まる熊本県の拠点「グランメッセ熊本」を取材すると、広大なスペースに大量の段ボールに入った物資が並んでいた。
物資を管理する内閣府の合田心平さんは、「発災1週間後のお盆の前ごろには、1日にトラック50台ほどが来ていた」と話す。

物資はこうした県の拠点から各市町村の拠点に送られ、そこから避難所に送られることになっている。しかし、県と市町村、避難所の間の連携がうまくいかず、「ミスマッチ」が発生していたのだ。
物資の「ミスマッチ」の問題は、31年前の阪神淡路大震災や東日本大震災など、災害のたびに起きていた。
ミスマッチ解消の切り札『B-PLo』
このミスマッチ問題を解決する切り札として、国が去年から導入を進めているのが『B-PLo』(ビープロ)と呼ばれるシステムだ。

このシステムは、物資がどこにどのくらいあるかを“見える化”し、国と自治体、民間で共有できるものだ。
例えば、熊本県の拠点に到着したトラックの中に熱中症対策の飴20袋入りの箱が250個届いた場合には、担当者はパソコンで『B-PLo』に5000袋と入力する。

市町村の担当者が、その飴が欲しい時には、『B-PLo』で「要請」ボタンを押せば、県から物資を求める事が出来る。
取材した際には、八代市から熊本県に対し、「子供用おむつ9枚」の要請が来ていて、県の在庫から無事おむつが送られていた。

内閣府の渡部正則さんは、「市町村から要請があったときに、ここの在庫を見ながら判断をするので、数量をきちんと把握しておくのが大事です」と話す。
これまでは、こうした要請は、電話やFAXで行っていたが、『B-PLo』では現場のニーズを瞬時に把握し、物資の「ミスマッチ」を防げるのだ。

しかし内閣府の渡部さんによると、今回の熊本地震では、初動は混乱していたため、メモやホワイトボード、電話やFAXで物流管理が始まったと話す。
『B-PLo』未利用の自治体も
私たちが、熊本地震で震度6弱以上を観測した自治体に『B-PLo』の活用状況を尋ねたところ、回答した9の自治体のうち、発災当日から利用したのは1つの自治体だけだった。

2~3日目に利用したのが4自治体。「利用していない」という自治体も2カ所あった。
発災直後、このシステムを十分に活用できなかったことが分かった。
宇城市の担当者は、「システム操作に習熟した職員が不在で、災害対応に追われていたことから、直ちに利用することが困難だった」と話す。
過去に被災した自治体でも…
一方、ほかの自治体では準備ができているのか。新潟中越地震や東日本大震災などで、過去に震度7を観測した15の自治体にきいたところ、回答があった13自治体のうち、『B―PLo』を使う職員についてガイドラインに記載しているのは7自治体に留まった。

国への希望を聞いたところ、新潟県長岡市は「どこまで準備すればいいのかわからない。プッシュ型支援をする際は、モノだけでなく人も手配してもらいたい」と回答した。
国の担当者である内閣府の渡部さんは、「『B―PLo』の運用を地道に改善して、研修の頻度をあげて、まずは理解していただく、それが課題だと思っています」と話した。
ラストワンマイルが届かない
一方、別の課題も見えてきた。
八代市の小野泰輔市長は「1番はやはり『ラストワンマイル』です。本当に必要な方に届けるということが、いまだに大きな課題として残っています」と話す。

在宅避難や車中泊などの被災者に物資が届かない、いわゆる「ラストワンマイル」の問題だ。
八代市に1人で暮らす60代の男性は11年前に脳梗塞を患い麻痺が残ったため、避難所に行くことも、物資を取りに行くこともできないという。男性は、「隠れ避難者みたいな状態になって何一つの支援の物資が届いてない。水一本こない」と話す。

取材した日、男性に水などの物資を届けたのは八代青年会議所のスタッフだった。
青年会議所のスタッフは、「実際に物資が手元に届かない方、SOSを出すことができない方が多いのかなと感じる」と話す。

さらに高齢者施設にも物資は届いていなかった。施設の職員は「役場に電話したら、物資はありますと言われたんですが、取りに行く人がいませんでした。利用者が寝てからじゃないと動けないんです」と証言した。
専門家「事前の準備を」
この施設に物資を届けたのは、ボランティアとして活動している元プロバスケットボール選手だった小林慎太郎さんだ。小林さんは10年前に熊本地震で被災し、物資が届かない実態を目の当たりにしたことから、活動をはじめたという。

小林さんは「物資をもらえる人はもらえるし、もらえない人はもらえない。10年前の熊本地震の時もそうだったんです。高齢者施設などの方たちのもとには行き届かないんです」と話した。
流通経済大学の矢野裕児教授は、「市町村レベルではノウハウがないということ。そして当然マンパワーが足りない。発災してから官民連携するというのはなかなか難しいので、事前にきちんと準備しておく事が重要」と指摘する。

災害のたびに繰り返されるこうした問題。
行政の新しい「システム」と民間の「人の力」を活用し、平時から備えておく必要がある。

