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「あちゅい」炎に巻かれ亡くなった2人の我が子「被害者は泣いてばかりではない」東名高速飲酒運転死亡事故 両親の27年の軌跡|FNNプライムオンライン

「あちゅい」炎に巻かれ亡くなった2人の我が子「被害者は泣いてばかりではない」東名高速飲酒運転死亡事故 両親の27年の軌跡

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27年前に飲酒運転で犠牲となった3歳と1歳の女の子の両親は、危険運転致死傷罪の成立に尽力し、被害者や遺族への支援の輪を広げる取り組みを続けている。

多くの人に、被害者や遺族が置かれた実情を知ってもらいたいと訴えている。

警察政策学会の部会でスピーチする井上さん夫妻
警察政策学会の部会でスピーチする井上さん夫妻
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井上保孝さん(76)と郁美(57)さんは8月26日、犯罪被害者支援を研究している警察政策学会の部会にスピーカーとして出席した。

長女の奏子ちゃんと次女の周子ちゃん
長女の奏子ちゃんと次女の周子ちゃん

1999年11月、箱根への家族旅行からの帰路、東京・世田谷区の東名高速の料金所付近で、11トンの大型トラックに追突され、後部座席で眠っていた長女の奏子(かなこ)ちゃん(当時3)と次女の周子(ちかこ)ちゃん(当時1)が亡くなった。

後部座席から「あちゅい」の声が

当時、三女を妊娠中だった郁美さんは運転席から自力で脱出したが、後部座席はすでに激しい炎に包まれ、近寄ることさえできなかった。

事故当時の様子 白い煙が上がっている 1999年11月撮影
事故当時の様子 白い煙が上がっている 1999年11月撮影

背中と左腕に大やけどを負った保孝さんは、背中に火がついたまま助手席から引っ張り出されたが、そのとき奏子ちゃんの「あちゅい」という最後の声を聞いた。郁美さんも追突直後の周子ちゃんの泣き声が耳から離れないという。

井上さん一家が乗っていた車
井上さん一家が乗っていた車

トラックを運転していた当時55歳の男は事故前にサービスエリアで、自分で持ち込んだウイスキーと焼酎を飲み、高速道路の3車線をまたぐジグザク走行をしていて、近くを走っていた車から通報が相次いでいた。

被害者の声で危険運転致死傷罪新設

運転手は業務上過失致死傷の罪で起訴され、求刑は法定刑の上限の懲役5年だったが、判決は懲役4年で控訴も棄却されて刑が確定した。

裁判では運転手が事故の十数年前から飲酒運転を繰り返していたことが分かった。

井上さん夫妻は、「飲酒運転を繰り返し、酒を飲んで起こすような事故は偶然や過失ではない」と、全国で法改正を訴える署名活動を行い、37万余の署名を法務大臣に提出した。

井上さん夫妻は街頭で署名活動を続けた 2000年12月撮影
井上さん夫妻は街頭で署名活動を続けた 2000年12月撮影

そしてちょうど事故から2年がたった2001年11月28日に刑法が改正され、危険運転致死傷罪が新設された。

現在、人を死亡させた場合は20年以下、負傷させた場合は15年以下の拘禁刑となる。

「奏子、周子が私たちのことをいつまでも忘れないでいてほしいと主張している、という思いで取り組んできました」と保孝さんは話す。

法改正後、飲酒運転の死亡事故は大きく減ったが、飲酒事故を起こしたあとに現場から逃走し、アルコールが抜けた後に出頭したり、酒をさらに飲んで「事故のあとに飲んだ」と主張したりする「危険運転逃れ」が目立つようになった。

井上さんらはこうした逃げ得は許さないと活動を続け、その後、そうした行為が発覚すると罰せられる法定刑12年以下の発覚免脱罪が2013年に成立し、道交法のひき逃げが加わると18年以下の拘禁刑となる。

長女の奏子ちゃんと次女の周子ちゃん
長女の奏子ちゃんと次女の周子ちゃん

部会を主催した元警察大学校長の田村正博京都産業大学名誉教授は、「交通事故は殺人のように故意ではなく、過失が原因のため、それまでは死亡事故も罰金刑が多かった。井上さんたち被害者の声が、裁判官や学者の世界だった刑法を変えた。法律における専門家と市民の関係を変えたといってもいい」と話す。

被害者は泣いてばかり、怒っているばかりではない

井上夫妻が代表を務める「ハートバンド」は全国約20の犯罪被害者団体のネットワークで、ゆるやかな連携を目指している。

全国大会は宿泊形式にして時間をとって、事故や事件で家族を亡くした人から話を聞く。

ハートバンドの大会では被害者の声を聞く(撮影細萱俊太郎)
ハートバンドの大会では被害者の声を聞く(撮影細萱俊太郎)

事故で亡くなった息子が開業直前だった喫茶店を息子の意思を継いで営む両親や、娘を殺害した加害者と心情伝達制度を使って対話を続ける父親ら、被害者が置かれている状況は様々だ。

コーヒーを飲みながら、また音楽を聴きながらのくつろいだ雰囲気を作り、グループに分かれて世代も状況も違う被害者と話し、テーブルには弁護士や心療内科医、被害者を支援する行政の担当者らも座る。井上さんの三女のようにきょうだいを失った人たちだけで集まるセッションもあり、それぞれの思いを話しあうという。

大会ではグループディスカッションが行われる(撮影細萱俊太郎)
大会ではグループディスカッションが行われる(撮影細萱俊太郎)

井上郁美さん:
被害者は泣いてばかりでないし、怒っているばかりでもありません。乗っていたタクシーに飲酒運転の車が衝突し、夫を失った女性はバーゲンに行けなくなりました。「笑っている、楽しんでいることを見られる目が気になる」からでした。女性はほかの被害者遺族に会えると気持ちが楽になるそうです。

開催後のアンケートでは、「ほかの人の話を聞けて参考になった」「普段、人に言えないことを安心して話せた」という声など、8割近くがまた参加したいと回答している。

また全国大会に来られない人に向けて、地方でも地元の団体と連携して交流会を開いている。

地方の交流会では家族や夫婦での参加も増えていて、思いを家族間でも共有できるという。

一方で地方などでは加害者も同じ地域に住んでいることがあり、裁判など騒ぎが大きくなることはしてほしくないと親族らから言われるなど、被害者への偏見もまだみられる。

井上郁美さん:
死亡事故が減ることで新たな被害者は減っているかもしれませんが、遺族は、長年、無念の思いを抱え続けています。事件から20数年経ってやっと思いを話せたという人もいます。企業やメディアなどサポーターの輪を広げて、被害者や遺族のことを少しでも知ってもらいたいと思います。

被害者を理解し、支えていく取り組み

井上さん夫妻は娘2人が生きていれば18歳になる年から分割で支払われている賠償金を活動にあて、支援団体に寄付している。海外ではあるような、企業や個人が社会貢献としてこうした団体を支援する動きはほとんどなく、助成金や寄付金でまかなわれている。

田村氏はハートバンドの活動について、「遺族ら被害者が住んでいる地域を越えて、それぞれの思いを直接会って話をする、支援する専門家と話すことはとても大切。被害者同士だからこそ思いを共有できて、それぞれの生活を支えていくことにつながる」として、警察や行政も被害者のことを社会に理解してもらう取り組みを続けることが必要だと話す。

井上さん夫妻は事故の後、元運転手の家族宛にアルコール依存症の本を送り、元運転手の来宅を求めた。

2004年、出所の翌々日に井上さん宅を訪れた元運転手は子ども2人の遺影に手を合わせて、「大変申し訳ないことをした」「子どもは大好きで、まさか自分が命を奪うとは思わなかった」と、とつとつと話したという。

そして二度と運転はしない、酒は飲まないとその場で約束した。2015年、今度は夫妻が元運転手の自宅を訪ねた。もう酒は飲んでいないと答えた70歳を過ぎた元運転手は元気そうで、孫もいた。

「子ども2人の命を奪って服役して、それでも命があればやり直せる。まぶしいくらいに元気で、命があることは絶対的な勝者だと思いました」と郁美さんは複雑な心境を語った。

保孝さんは「事故の後は加害者への怒りよりも、刑事司法や法律への憤りが強かった。出所した後も、車の運転や酒を飲まないという約束を守り続けていてくれたのなら、反省と受け止めています」と話した。

ハートバンドの年1回の全国大会は11月末、千葉県習志野市で1泊2日で開かれる。リアルで会うことや、お互いの違いを尊重すること、被害者を取り巻く環境の変化に敏感であることを大切にして、活動を続けていくことにしている。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 青木良樹】                                     

青木良樹
青木良樹

フジテレビ報道局上席解説委員 1988年フジテレビ入社  
オウム真理教による松本サリン事件や地下鉄サリン事件、和歌山毒物カレー事件、ミャンマー日本人ジャーナリスト射殺事件をはじめ、阪神・淡路大震災やパキスタン大地震、東日本大震災など国内外の災害取材にあたってきた。

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