昨シーズン、大量死の被害に見舞われた岡山県一の養殖カキの産地、瀬戸内市邑久町虫明地区。ここで今、カキの商品価値と知名度を高めようと、生産者が「ブランディング」に力を入れている。現状を取材した。
◆「虫明のカキですよ~」カキ料理の他、捨てられる殻までも客に提供しながらPR
「こちらのコーナーへお越しくださ~い!虫明のカキのアヒージョ、簡単にタコ焼きプレートで作れますからね!はい、どうぞ」
集まったお客さんにカキ料理をふるまい、PRするのは、邑久町漁業協同組合の松本正樹組合長だ。
「虫明のカキですよ~」
7月の「海の日」。地元・瀬戸内市の美術館が行ったイベントに邑久町漁協として初めて参加。提供したのはカキの身だけではなく、捨てられる殻も…。手作りキャンドルの土台にしてもらうのだそうだ。

◆カキ漁師歴20年の邑久町漁協組合長の「ブランディング」に対する思い
カキ漁師として20年、組合長に就任して9年。松本組合長が「今、全力で取り組んでいるのが、邑久町虫明産養殖カキの価値と知名度を高める「ブランディング」だ。
「邑久」の名前を知ってもらうために・・・
「いろんな取り組みをしていることを皆さんに少しでも知ってもらって、後は口コミで広がっていけばいい」と、松本組合長は語る。

◆ピーク時には約140軒が3000台のいかだで生産も現在は半分以下「いかだの枠があっても全部使えなくなる」
昭和20年代に始まった邑久町のカキ養殖。ピーク時には約140軒が3000台のいかだで生産していたが、現在は52軒、いかだの数も半分以下に減った。
松本組合長は「生産者の数があまり減ってしまうといかだの枠があっても全部使えなくなる。(今与えられている1339台を)フルに使って、たくさん生産できるのが産地の魅力なので、それを維持するためには最低でも40軒の生産者は維持していきたい」と実情を離す。
今から準備しないと間に合わない・・・という感覚で動いている。

◆環境に配慮し持続可能な方法で取られた水産物にのみ与えられる「MSC認証」を取得
後継者不足を解消し、産地として生き残るには商品の価値と知名度を高めていくことが必須。その戦略の1つとして2019年に取得したのが、環境に配慮し、持続可能な方法で取られた水産物にのみ与えられる「MSC認証」だ。
地元の海で卵を採取したり、カキ殻を肥料や飼料として再利用する邑久町漁協の養殖方法が評価された。いかだにカキを吊るす養殖での「MSC認証」は世界初である。

◆「邑久」もカキの産地!視察等の客を迎える場所づくりに、若い生産者に向けた認知度アップ
この国際的な専門機関のお墨付きをアピールし、邑久町虫明カキの知名度を上げようと漁協では2024年、古くなった事務所を資料館として改装した。
資料館には視察等の客を迎える場所が設けられている。
松本組合長は「邑久のカキのファンになってもらう。外食関係や販売店に「邑久」の名が付いたカキをいかに売ってもらうかが産地として生き残る方法」
松本組合長がブランド化戦略の一つとしてPRに力を入れるもう一つの理由がある。それは、「邑久」の認知度が低いことだ。
「邑久」もカキの産地。若い生産者たちにはその名前を知ってもらいたいという思いがある。

◆軌道に乗り始めたブランディング戦略に「カキ大量死」という大きな壁が…
軌道に乗り始めていたブランディング戦略。しかし、大きな壁が立ちはだかる。
2025年夏。猛暑の影響で上昇した海水の温度がなかなか下がらず、産卵期間が長引き、カキが弱ってしまった。
さらに、例年と比べ、雨の量が著しく少なかったことから海水の塩分濃度も上昇。このダブルパンチで、カキが大量死してしまったのだ。

◆「死んでいるカキが9割…」と大半の殻を捨てていた大ピンチの時期、知事に伝えた決意
シーズン最盛期の12月。若手生産者の伊東聖二さんはカキの殻から身を取り出す作業に追われていました。しかし、よく見ると、大半の殻を捨てている。
「死んでいるカキが9割。残った1割の中で半分以上、使いものにならないカキがある。なかなか厳しい状況が続いている」と伊東さん。
松本さんも「2代目3代目のカキ漁師はまだ若いので、これから先、長く続けていくためには大量死を乗り切っていかないといけない」と、視察に訪れた岡山県の伊原木知事に、このピンチを克服していく決意を伝えた。

◆邑久町漁協海域が国の「自然共生サイト」に認定 きれいな海を守るための活動が高く評価
そんな中、邑久町漁協に吉報が舞い込んだ。
漁協の海域が、国の「自然共生サイト」に認定されたのだ。
「MSC認証」に続く2つ目の勲章。きれいな海を守るために漁協が取り組んでいるアマモやスナメリの保全活動が国に高く評価された。
認定の決定と同じ日に竣工式が行われたのが、冷蔵荷捌き施設。これまで屋外で行っていた入荷・入札・出荷を冷蔵施設の中で行えるため、しっかりと衛生管理ができ、鮮度も維持できるという。
松本組合長は「目に見えてちゃんとしているのがわかってもらえて、産地の取り組みの一つとして皆さんにそれを伝えることで、安心して食べてもらえるカキとして出荷できると思っている」と語った。

◆消費者の「おいしいカキをたくさん食べられる?」という疑問には…
かき資料館を訪れた人の数は600人を超えた。2026年はおいしいカキをたくさん食べられるのか?消費者の疑問に松本組合長は・・・
「高水温と高塩分が同時に発生したから大量死が発生した。どちらかだけならカキは強いから死んでいない。塩分濃度が下がればカキは生き残る。雨台風が来て塩分濃度が下がればカキは普通に生産できる」と、力強く訴える。
担い手の減少と温暖化が進み、養殖カキの安定的な生産が年々難しくなる中、ブランディング戦略を成功に導くことはできるのか・・・。
かじ取り役、松本組合長の挑戦は続く。

