2026年4月の選挙で当選したものの、「市内に居住の実態がない」として当選無効を突きつけられた気仙沼市議の遠藤秀和氏(58)。重度の障がいがある次男の介護という事情を訴えたが、8月24日、県の選挙管理委員会も申し立てを棄却した。「介護は特別な事情に当たらないのか」。選挙制度が抱える課題に、専門家も警鐘を鳴らす。
当選から一転「居住実態なし」無効に
遠藤市議は宮城県気仙沼市出身で、市役所職員などを経て4年前の市議選で初当選。今年4月の選挙で再選を果たした。自身の住民票は気仙沼市に置いているが、家族は登米市で生活している。
市の選管が問題視したのは「居住の実態」だ。気仙沼市の自宅における夜間(午後7時〜翌午前7時)の電気使用量を調査した結果、待機電力を超える使用があった日は、1月が対象6日のうち2日、2月が28日間のうち9日、3月が31日間のうち13日にとどまった。寝泊まりする場所を生活の中心とする過去の判例に基づき、「気仙沼市内で生活しているとは認められない」と結論づけた。
公職選挙法では、地方議員への立候補には「投票日から逆算して3カ月以上、その自治体に住む必要がある」と定められている。
2拠点生活を余儀なくされた背景
なぜ遠藤市議は登米市との2拠点生活を送るようになったのか。そこには家族の事情があった。
登米市にある妻の実家には、重度の障がいがある次男の陽大さんが暮らしている。以前は義父が次男の面倒を見てくれていたという。「俺が次男を見ているから、とにかく頑張ってこい」と励ましてくれた義父だったが、2年前に他界。それを機に、遠藤市議が介護に加わる2拠点生活が始まった。
議員活動を終えると登米市へ向かい、デイサービスから帰宅する陽大さんの入浴や食事を就寝の午後9時までサポートする。「45キロの息子を86歳のおばあさん(義母)が抱っこすることは無理。妻とおばあさんだけでは難しい」と遠藤市議は話す。
「日中の活動は基本的に気仙沼で行って、登米には息子の介護をメインに帰ってきている」という生活スタイルだ。
県選管も棄却「生活の本拠の材料にならない」
遠藤市議は市選管の決定を不服として、今年6月に県選管へ審査を申し立てた。「介護という特別な事情があった」として決定の取り消しを求めたが、県選管は8月24日、棄却を決定。
翌25日に公表した理由では、「継続的に介護などを登米市内で行っている状況は、客観的な生活実態として捉えれば、気仙沼市の自宅が生活の本拠であったと捉えるための材料にはならない」とした上で、「被選挙権を有していなかったと認めるのが相当である」と結論づけた。
結果を受けた遠藤市議は、「議員活動や地域の活動も含めて、気仙沼市を中心として生活してきたという認識は今現在も変わっていない」と語った。
「障がい者への法的配慮がされていない」と会見で訴え
8月26日、遠藤市議は会見を開き、一連の経緯への思いを語った。
遠藤秀和気仙沼市議:
介護は特別な事情に当たらないと判断された。非常に残念でならない。障がい者に関する部分はまだまだ認識されていない。法的配慮がされていないと痛感した。
決定に不服の場合、仙台高裁への提訴も可能だが、「今後の対応についてはまだ結論を出していない」とし、「家族や支援者と相談し、9月議会の前には結論を出したい」と話した。
専門家が指摘する「制度のアップデート」の必要性
選挙制度に詳しい拓殖大学の河村和徳教授は、生活実態を証明するうえで電気・水道の使用量といった「客観的な数値」が重要になると指摘する。その一方で、「生活の空間が1つの自治体に収まらない時代になっている」とも述べ、「子育てや親の介護をしている人は議員をやるなという誤ったメッセージになりかねない。バランスを時代に合わせてアップデートする必要がある」と警鐘を鳴らす。
交通網の発達や生活の多様化が進む中、居住実態をどう定義するかという問いは、議員のなり手不足が深刻化する地方議会にとっても無視できない課題だ。遠藤市議のケースは、介護や家族の事情を抱えながら地域に貢献しようとする人々が直面しうるリスクを、改めて社会に問いかけている。

