広島市を拠点に活動するデザイン会社に届いた、世界的ブランドからの一通のメール。
「絵本を作りませんか?」
クリスタルの輝きを紙の上で表現し、ブランドの世界観を描いた絵本が完成するまでには、約1年半にわたる挑戦があった。
スワロフスキーから突然届いたメール
広島市にオフィスを構え、イラストやデザインなどを手がける「IC4DESIGN」。
精緻なイラストと個性的な世界観は国内外から高く評価され、絵本『迷路探偵ピエール』シリーズは世界30カ国以上で出版。累計100万部を突破する人気作となっている。
そんな中、2024年に突然届いた一通のメール。
「絵本を作りませんか?」
依頼主は、オーストリア発の世界的なクリスタルジュエリーブランド「Swarovski(スワロフスキー)」だった。
IC4DESIGN代表でイラストレーターのカミガキヒロフミさんは、思いがけない依頼に驚いた。
「まず、広島とオーストリアのギャップがすごいじゃないですか。だから、うそ!?みたいな思いがあった。絵本は子どもが読むジャンルのもので、ラグジュアリーとはまったく無縁のところだったので、そういう喜びもありますね。ファッションブランドが認めてくれたみたいな。うれしいじゃないですか、そういうのって」
スワロフスキー創立130周年を記念するプロジェクトの一環として依頼された絵本制作。きっかけは、スワロフスキーの創始者一族であるマーカス・ランゲス=スワロフスキー氏が『迷路探偵ピエール』のファンだったこと。カミガキさんたちIC4DESIGNのメンバーは、オーストリアにあるスワロフスキー創業の地にも直接足を運んだ。
「めちゃくちゃプレッシャーがあるんですよ。なので、逆に向こうが考えている以上のことをしなきゃいけないと思って、先にシナリオをある程度作ったんですよね。自分が描いたラフ案を畳4畳分くらいにプリントして、それをバーンと開いてプレゼンしたんですよ。そうしたら、すっごいうけてくれて」
イラストと色で表現する「光」の世界
ブランドの歴史や哲学を大切にするため、カミガキさんたちがこだわったテーマが「光」だった。
「クリスタルのキラキラした輝きと、線を描いて色を塗るという僕のイラストレーションのタッチ。これがマッチするのか、やったことがない経験で見えていない部分だったんですよ」
そこで、これまでのイラストに新たな手法を取り入れた。
「いろんな色をてんてんてんと点描みたいなかたちで表したりとか、色だけで光をつけていったりする表現を、今までのスタイルにプラスアルファした。それが僕的にはすごくよかったな、成功したなと」
完成した『The Quest for Light』は、光が失われた世界を舞台に、主人公の「ジャイアント」が闇の魔人に立ち向かうため、クリスタルを探し求める冒険の物語だ。
ページをめくると、スワロフスキーの世界観を表現した色彩豊かなイラストが広がる。
中でもカミガキさんが「一番描き込みがすごい」と話すのが、世界各地のランドマークを詰め込んだページ。イタリアのピサの斜塔やエジプトのスフィンクスなど、世界で知られる建造物がひしめくように描かれ、その中にクリスタルを思わせるオブジェが散りばめられている。
「ここで本の印象が決まると思っていたから。全世界のランドマークを詰め込んで、“世界は一つ”みたいな感じの紙面にしています」
さらに、スワロフスキーの愛すべきブランドキャラクター「クリスベア」や、ブランドを象徴する「スワン」もイラストのあちこちに潜んでいる。絵の中に隠れたキャラクターやアイコンを探す「絵探し絵本」になっていて、眺めるほどに楽しい発見がある。
「奇跡が起こった」 ミラノでお披露目
制作期間は約1年半。会社のメンバー全員で一つの作品を作り上げた。
デザイナーの杉葉子さんはカミガキさんの情熱をこう語る。
「カミガキがとにかく最高のものを作りたいという思いが強かったので、それに引っ張られて、その情熱に引きずられながら完成にこぎつけたみたいな感じです」
イラストレーターの松原大介さんも、当初は世界的なハイブランドとの仕事に緊張していたという。
「巨大な企業でツンとした人たちかと思ったら、すごくやわらかい笑顔で家族みたいにフレンドリーに接してくれて。この人たちのためにやりたいという思いが結実して、すごくいいものができました」
また、新人イラストレーターのアヤノアユさんも制作に携わった。
「すごく貴重な経験ができました。様々な国や地域の人が出てくるのですが、人々の文化や暮らしを調べて、生き生きとした姿を表現しました」
完成した絵本は、依頼したマーカス氏からも「傑作と呼ぶにふさわしい」と絶賛された。
そして、お披露目の舞台に選ばれたのは、世界最大級のデザインイベント「ミラノデザインウィーク」。2026年4月、メンバーとともにイタリア・ミラノの会場を訪れたカミガキさん。絵本制作の始まりから世界初公開まで、すべてがこれ以上ない幸せな経験だったと語る。
「奇跡が起こったという感じですね。会社のみんなが経験できたことで、ハイブランドの仕事がローカルにいてもできるというのは自信になると思うし、今後にすごく生きてくると思います」
絵本は英語版とドイツ語版があり、一部店舗やオンラインで購入できる。日本語版の発売も予定されているという。
実力と努力がたぐり寄せた奇跡――。広島から世界へ、カミガキさんたちの挑戦はこれからも続いていく。
(テレビ新広島)

