少子化や教員の負担増を背景に、中学校の部活動は大きな転換期を迎えている。
広島県は7月、休日の部活動を地域クラブなどへ移す「地域展開」を本格的に進める方針を示した。ただ、自治体ごとに進み具合や課題はさまざま。子どもたちの活動をどう守っていくのか、現状を取材した。
部活動改革が本格化!「地域展開」とは
「本県におきましても公立中学校における部活動改革の取り組みを推進するため、『広島県部活動改革推進計画』を策定し、本日付で各県立学校および各市町教育委員会などに通知しました」
7月10日、広島県教育委員会の会見で篠田智志教育長はこう発表した。県は、休日の部活動を学校から地域へと移していく「地域展開」を目指し、自治体への支援を行っていく考えだ。
背景にあるのは、少子化と教員の負担増。広島県では、中学生の人口が今後10年間で約3割減少すると見込んでいる。また、文部科学省によると、公立中学校教員の約4割が月45時間を超える時間外勤務をしているという。
こうした状況を受け、国は「教員の負担軽減と持続可能性」「生徒の活動機会の確保」「地域の教育力・生涯学習の充実」を目的に、部活動改革を進めている。
スポーツ教育学を専門とし、東広島市の部活動地域展開検討委員会の委員長も務める広島大学大学院・人間社会科学研究科の齊藤一彦教授は、少子化の影響を指摘する。
「少子化が進むと、1つの学校だけではチームを組めない競技が増え、部活動の数も減っていきます。子どもたちの選択肢が少なくなってしまいます」
さらに、教員の負担についても言及した。
「経験のない部活動を担当している先生が半数以上いるというデータもあります。学校だけで部活動を支える時代から、地域全体で子どもたちの活動を支えていく展開が必要だと思います」
では、「地域展開」とはどのような取り組みなのか。
例えば、これまで平日はそれぞれの学校で活動していたA中学校、B中学校、C中学校の生徒が、休日になると地域クラブに集まり、一緒に練習する――こうした形が「地域展開」だ。
国は2023年度から2025年度までを「改革推進期間」、2026年度から2031年度までを「改革実行期間」と位置付けており、原則として2031年度までにすべての部活動で休日の地域展開を目指す方針を示している。
全国と比べて“慎重”な広島県内
改革実行期間に入った2026年度、広島県内ではどこまで地域展開が進んでいるのか。
自治体への取材で、地域展開の開始時期を「検討中」としているのは、広島市、福山市、呉市、竹原市、大竹市、江田島市、安芸高田市(ハンドボールは先行的に進める)、府中町、熊野町、海田町、大崎上島町、安芸太田町、神石高原町の13市町だった。
想定時期を決めている自治体もある。
世羅町は順次進めており、一部のクラブではすでに地域展開を実施。庄原市は2026年度から順次進める予定だ。さらに、北広島町は2027年度中に、三原市、尾道市、三次市は2027年度以降、東広島市と廿日市市は2028年度末までに、府中市は2029年度以降の地域展開を想定している。
一方で、坂町は県内で唯一、「地域展開をしない」方針を打ち出している。
こうした状況について齊藤教授は、「全国と比べると、広島県は決して早いほうではありません」と話す。ただ、それだけで良し悪しは判断できない。
「地域展開は早ければいいというものではありません。人口規模や人材、交通機関など、それぞれの地域で事情は異なります。広島県は受け皿となる地域クラブが少ないところからスタートしているため、今まさに検討の真っ最中という状況だと思います」
地域展開への向き合い方は、自治体によってさまざま。廿日市市では、学校と地域をつなぐ新たな役割も生まれている。
廿日市市は「コーディネーター」配置
5月、廿日市市のスポーツ施設「フジタスクエアまるくる大野」。体育館で小学生から高校生までが一緒になってバドミントンの練習に励んでいた。参加している中学生は約15人。学校の垣根を越え、地域クラブで汗を流している。
その様子をカメラに収めながら見守っていたのが、廿日市市の部活動地域展開コーディネーター・藤森憲也さんだ。廿日市市は部活動の地域展開を見据え、2026年度から新たに「コーディネーター」を配置。学校と地域クラブをつなぐ役割を担っている。
「部活動の地域展開に向けて、まずは現場を見ないといけません。受け皿としてどのような状況なのかを知る必要があります」
この日、藤森さんは地域クラブを視察し、指導者の人数など必要な条件をヒアリングしていた。
休日は複数の学校の生徒が集まる地域クラブ。子どもたちにとっては、新しい仲間と出会う機会にもなっている。中学1年の生徒は、「同じ中学校の人しか関わらない部活もあるので、いろんな中学校の子と話すと視野が広がって発見があります」と話す。
一方で、保護者の負担は増加。
「車で送迎しています。20~30分かかるので、仕事が終わってすぐ来る感じですね」
学校より遠い場所で活動するケースも多く、送迎は避けて通れない課題だ。
さらに、指導者の確保も大きな壁となっている。このクラブでは競技経験者が指導に当たっているが、募集しても簡単には集まらないという。藤森さんは、ほかの自治体の状況も踏まえながら危機感を口にする。
「先行する山口県でも思ったより指導者登録がありませんでした。さらに受け皿を増やすには、地域の方も含めた指導者の確保が課題になってくると思います」
廿日市市では2028年度末までの地域展開を目指し、検討委員会で議論を進めている。
「一番困るのは子どもたちです。週末の子どもたちの過ごし方を、学校だけでなく家庭や地域が一緒になって支えていかなければならない」
藤森さんはこう話し、子どもたちの活動を維持するために奮闘している。
坂町が「地域展開しない」理由
こうした中、広島県内で唯一「地域展開をしない」という方針を打ち出している坂町。
5月、中国電力坂スポーツ施設のグラウンドでは、坂中学校陸上部が練習していた。
「ラスト1周、ラスト1周、頑張れ!」
「35、36、37…落ちるな、落ちるな!」
生徒に声をかけるのは教員だけではない。外部の部活動指導員も一緒になって指導している。
坂町は1995年度から外部指導員を導入。現在は運動部と文化部を合わせた6つの部活動で、教員と指導員が連携して活動を支えている。
坂中学校の教員・大掛真実さんは、「学校の仕事もあるので、『30分後に行きます』というような形で連携しています。土曜日などはコーチに任せることもあり、お互い協力しながらできるのは心強いです」と話す。指導員が休日だけでなく平日も専門的な指導を行い、教員がサポート役に回ることで、教員の負担を減らすことができるという。
部活動指導員の貞永隆佑さんも、「学校の先生がついてくれていることによって、学校生活の様子も把握しつつ技術的なアドバイスができる。とても良い両輪でやれていると思います」と語る。
教員が休日も一貫して部活動に関わることが、生徒たちの成長につながる――それが坂町の考え方だ。大掛さんはこう話す。
「部活動は技術だけの指導ではありません。生徒が社会に出てたくましく生きていけるようにすることが目標なので、部活動は学校生活と切り離せないと思っています」
こうした環境を、生徒も歓迎している。
「いつも学校生活で一緒の人と切磋琢磨できるのでいいと思います」
地域展開しない方針に舵を切った坂町の吉田隆行町長は、「地域展開は現時点では考えていません。あくまでも中学校の部活動は学校教育の一環として、これからも取り組んでいく方針です」と明言。そのうえで、外部指導員の人件費や活動場所への送迎など、財政面でも支援していく考えを示した。
「地域展開になれば行政として支援しにくい部分も出てきます。子どもや保護者への負担も生まれるかもしれません。子ども第一。大人たちがスクラムを組んで環境をつくることが、将来の坂町、広島県、そしてこの国の発展につながっていくと思っています」
坂町の取り組みを、齊藤教授は「全国的にも珍しい例」と評価する。
「坂町役場の職員も地域に出て子どもたちを教えたりしています。学校の教員以外の人が指導しているという意味では、これも“地域展開の一つの形態”と言えるのではないでしょうか。やはり、地域の実情に合ったやり方があると思います」
対応に悩む自治体のホンネ
こうした課題を受け、広島県も支援策を打ち出した。2026年2月から指導者リストの登録募集を開始し、さまざまな競技団体や事業者にも協力を呼びかけている。県部活動改革推進室の好満修室長は、「必要な情報共有や関係団体との調整を行い、積極的に関わっていきたい」と話す。
具体的には、「指導員の配置にかかる経費の補助」や「指導者リストの提供」、「地域クラブ活動の経費補助」などを進める方針だ。
好満室長は、地域展開によって教員の負担は軽減され、生徒にとってメリットがあると説明する。
「活動の選択肢が増え、専門的な指導が受けられます。他校の生徒や、地域でスポーツ・文化芸術活動を支える人たちとの豊かな交流もできます」
齊藤教授も「県の支援策によって、今後、自治体の取り組みはますます加速していくと思います。これからが本当のスタートです」と期待を寄せる。
少子化でも「部活動を残す」ために
部活動改革が目指すものは何なのか。
齊藤教授は、その本質を「地域展開の目的は、子どもたちの放課後の活動をなくすことではなく、残すこと」だと強調する。
「運動部だけでなく文化部にも同じことが言えます。例えば吹奏楽部では、地域展開した場合に楽器をどう管理するのかといった課題もあります。生徒一人ひとりの多様なニーズに応えられる活動の機会を保証するとともに、この地域展開をきっかけに地域そのものが活性化していくことも重要だと思います」

学校だけでは支えきれなくなってきた部活動。地域クラブへ移行する自治体もあれば、坂町のように学校を軸に外部指導員と連携する自治体もある。
目指す形は一つではない。大切なのは、それぞれの地域の実情に応じた持続可能な仕組みを築くこと。そして、子どもたちや市民がスポーツや文化活動に触れる機会を守り続けることだ。
未来の子どもたちに「部活動を残す」ための検討が、今まさに必要とされている。
(テレビ新広島)

