神通川流域で発生した、「イタイイタイ病」の患者の姿や、裁判闘争を記録した写真集がこのほど出版されました。
撮影したのは当時18歳の若き写真家です。その写真家も今は76歳。「あの苦しみや教訓を風化させたくない」との想いを込めました。
富山市の出版社・桂書房です。先月20日、1冊の写真集の打ち合わせが行われていました。
*林春樹さん
「顔もう少し見えた方がいいと思いますけどね」
写真家・林春樹さん76歳。机に並ぶのは林さんが撮りだめてきた「イタイイタイ病」の記録です。
*林春樹さん
「(撮影が)すごくよくできた、自画自賛ですけれど。60年くらい前の写真ですので」
患者が「イタイ、イタイ」と泣き叫ぶことからその名がついたとされる「イタイイタイ病」。
原因は、神通川上流の三井金属鉱業・神岡鉱業所の排水に含まれていた重金属・カドミウムでした。
農業や日常生活に川の水を使っていた流域の住民たちは、カドミウムを体内に取り込み、腎臓障害を発症。くしゃみで折れてしまうほど、骨がもろくなりました。
林さんは愛知県出身。東京の写真学校の学生時代、イタイイタイ病に関心を持ち、何度も富山を訪れました。
最初は警戒していた住民でしたが、林さんの熱意と相手の懐に入る人柄で素のままの表情を見せるようになっていきます。
*林春樹さん
「そのころは何もわからないまま、「ここだ!」と言って」
病院のベッドに顔をうずめる女性。痛みでゆがむ表情を林さんのカメラがとらえていました。
道端に座り込んでいるのは、多くの患者を受け入れていた萩野病院の患者の女性たちです。
裁判所の現場検証を前に直接、自分たちの苦しみを訴えようと、病室を飛び出してました。
林さんが撮影した期間は約4年間。撮影した写真は、3万6000枚にのぼります。
イタイイタイ病は最後の認定患者が2年前に亡くなり、最後の要観察者も去年、亡くなりました。
そして、林さん自身も年齢を重ねたいま、写真集への想いは一層強くなりました。
*林春樹さん
「もうイタイイタイ病の人は1人もいなくなってしまった。風化し、忘れられるしかない。これではもうだめだと。生きているうちに何とか形にして残したいという気持ち」
*林春樹さん
「このページをここに持ってきて、2段にしたらまずいですか?」
*桂書房 川井圭さん
「どうしてもここの説明があるので…」
若き日に情熱をもって撮影した数々の写真。
レイアウトや映り方、紙の材質などを入念に確認しました。
*林春樹さん
「これで本になるんだという実感がわいた」
3週間後、林さんのもとに完成した写真集が届きました。
*林春樹さん
「中の写真は校正の時にずっと見ていたが、本になって見たのは初めてだったので、なんとなく達成感というか、できてよかったという感じ」
タイトルは「誰もがその痛みを忘れてしまう前に」。
悲しい歴史を風化させない強い願いを込めました。
写真集には、患者や裁判の様子だけでなく、神通川沿岸の川と深く結びついた地域の日常の暮らしなど約130枚を選びました。
海外の人にも見てもらおうと、写真の説明文には英訳もつけました。
写真集を持って訪ねたのは、県のイタイイタイ病資料館。患者の遺族などでつくる団体と資料館に、写真集を寄贈しました。
*イタイイタイ病対策協議会 江添良作会長
「患者の思い、住民の裁判にかける熱意が一枚一枚からありありと伝わってくる。意義がある。結構時間かかりましたね」
*林春樹さん
「出したいと言い出してから何年もかかりましたね」
50年以上の時を経て、形になった写真集。一枚一枚が、二度と公害病が起きないよう願った、患者の叫びを訴えかけます。
林さんの写真はイタイイタイ病資料館や様々な教材などで使われていまして、改めて、記録する事の重要さを感じます。
写真集は県内の書店のほか、桂書房のオンラインショップからも購入できるということです。
