「なんか、テレ東のアナウンサーにいそうだな」

会食の席で、被害女性を見ながらそうつぶやいた男。店を出た後、女性の臀部を執拗に触り、鷲づかみにし、さらには陰部付近にまで触れた。

不同意わいせつの罪に問われた男は、ANA・全日空の機長。そして、被害者は客室乗務員だった。
立場の弱い女性への卑劣な犯行。裁判所が機長の男に懲役1年8カ月の実刑判決を言い渡した理由は、犯行の卑劣さだけではなかった。

「こんな子、見たことない」

犯行が行われたのは2023年10月、羽田発高松行きの最終便に搭乗していた機長の男(44)は、同じ機に搭乗していた2人の客室乗務員とともに、高松市内の飲食店で会食していた。

3人はこの日が初対面だった。

判決によると、会食の最中、機長は被害女性に「かわいいね、こんな子、見たことない」などと、顔をじっくり見ながら話していたという。

店を出てホテルに戻る途中の路上で、機長は指先で女性のおしりを3度突いた。女性は足を速めて逃れようとしたが機長は行為をエスカレートさせ、おしりを3度ほど撫で、さらに2回鷲づかみにしたという。

ホテル内でもおしりを触り「どう?」

女性は頭が真っ白になり、声も出せず、恐怖を感じたという。機長という立場にあり、翌日も同じ便の乗務が予定されていたことから、逆らうことができなかったとしている。

犯行はホテル近くのコンビニでも続き、店内で5~6回おしりを揉まれた。さらにホテルのエレベーターでもおしりを触られた他、陰部付近までも触られ、女性の耳もとで「どう?」と言ったという。

女性は全身に鳥肌が立ち、恐怖で頭が真っ白になったと証言した。

女性は自分の部屋に逃げ込み、それ以上の被害から逃れることは出来たという。

検察側の主張によると、機長は部屋に逃げ込んだ女性に対して「また飲みましょう。」とのメッセージをSNSで送った。被害女性は、機長に逆らうのは怖いという気持ちから、「また今度飲みましょ、おやすみ」というメッセージを返したとしている。

女性の証言は「信用性高い」

裁判所は女性の被害申告について、客観的状況に矛盾が無く、誇大な被害申告をする動機も窺われず、内容も具体的で迫真性があるとして「信用性は高い」と評価した。

機長の供述「不合理な変遷」

一方機長の証言については、「捜査段階はもとより公判でも供述に不合理な変遷がある」と指摘。会食中の女性の発言内容や、おしりを触った時の反応などについて「合理的な理由を見いだすことが困難な程度の供述の変遷があることが明らか」と断じ、「その時その時の主張に沿うべく供述を変更しているものとうかがわれる」と評価した。

性犯罪被害者の心理への無理解

さらに、機長の弁護人は裁判で、女性の同意があったし、少なくとも機長は被害者が同意していると誤信したと主張した。

しかし裁判所は、「性的な行為をされることに同意していたことはなく、誤信させるような事情も全くなかった」として、「弁護人の主張はおよそ成り立ち得ない」と切り捨てた。

さらに女性が「また今度飲みましょ」などとメッセージを送った事について、機長の弁護人が、この件が事件になった経緯に疑問を呈する主張をしていたとした上で、「性犯罪者の被害者の心理についての無理解を起点に、憶測に憶測を重ねるものに過ぎず、もとより採用の限りではない」と断じた。

機長としての影響力を認定

裁判所は、機長の行為について、恐怖・驚愕などにより拒否できない状況にさせた事などを根拠に、不同意わいせつ罪は成立すると認定。

さらに、運航中の機内で指揮監督権を持つ機長であること、被害者はその指揮監督に従うべき客室乗務員であることから、「機長としての影響力で被害者に業務上の不利益が生じると憂慮させた事により、わいせつ行為に同意しない意志を表明するのを困難な状態にさせた」と認定した。

実刑判決の理由

裁判所は、被害者の恐怖・驚愕につけ込み、さらに機長という立場も悪用したと指摘。場所を変えながら複数回にわたりおしりを触り、さらに陰部付近まで触った犯行について、「大胆かつ執拗」と強く非難した。

その上で、「自己の性欲を満たすためと窺われる身勝手な犯行動機は強い非難に値する」と断じた。

さらに、被害者が精神的な苦痛によって長期間にわたって客室乗務員の仕事を休職せざるを得なくなっているとする一方で、機長が「評価に値する慰謝の措置を講じていない」とも指摘。

「刑事責任は軽視し難く、殊に、犯行態様の悪質性、結果の重さに加え、評価に値する慰謝の措置が講じられていないことに鑑みれば」「実刑は免れないというべき」「不合理な弁解をしていて、真摯な反省の態度に欠ける」とも指摘。

求刑懲役2年6カ月に対して、懲役1年8カ月の実刑判決を言い渡した。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

記者として社会部10年、経済部2年、ソウル支局4年半の経験を持つ編集長を筆頭に、社会部デスク、社会部記者、経済部記者、モスクワ支局長、国際取材部記者、報道番組ディレクター・プロデューサー、バラエティー制作者、元日経新聞記者、元Yahoo!ニュース編集者、元スポーツ紙記者など様々な専門性を持つデスク11人が所属。事件や事故、政治に経済、芸能やスポーツまで、あらゆるニュースを取り扱うプロ集団です。