労働安全衛生規則の改正により、暑さ指数が28°C以上、または気温が31°C以上での一定の作業などを対象に、すべての事業者に熱中症対策が義務化された。だが、具体的な対策に頭を抱える企業も少なくない。そうした中、福井県民生協では地域のお年寄りと従業員を熱中症から守る独自の対策を進めている。毎日、住民と顔を合わせる宅配業務の“強み”を生かした取り組みを取材した。
「いつもと違う」毎日の配達で健康状態をチェック
福井県民生協が進めるのは、日々の宅配事業を通じて孤立・孤独を防ぐ「地域の熱中症見守り活動」だ。県内17市町すべての自治体と協定を締結している。
県民生協では、配達員が毎日同じルートを回り訪問先の住民と顔なじみになることで、わずかな変化を見逃さない関係を生み出している。
取材に同行した配送リーダーの溝口一志さんは「出てくるのが遅かったり体調が悪そうな時は『どうされたんですか』と声をかける」という。「変化にすぐ気づけるよう、普段の配達で組合員さんとのコミュニケーションを意識している」と話す。
配達を終えると「今日は暑いですよ。こまめな水分補給、しっかりして。何かあったらいつでも私に言ってくださいね」と一声添える。
宅配事業支援の上田悠以課長によると「高齢の一人暮らしが増えているので、話がしづらい状態だったり、一人では起き上がれない状態なのに配送担当者が気付くことがある」という。
2025年度の配送時における県民生協の人命救助の事例は11件、うち熱中症の疑いによる報告が3件あった。
緊急時には救急車を呼ぶほか、福井県民生協が把握している緊急連絡先を通じて家族に連絡するなど、状況に応じた対応を取っている。
飲料の配布やデジタル活用で従業員の体調も管理
また、暑い中で配送を続けるスタッフへの熱中症対策も欠かさない。飲料の支給やファン付きウェアの使用に加え、事務所内には低コストで手軽に水分補給できるウォーターサーバーを完備している。
配達員は「1日に2、3リットル飲むんで助かります」と話す。
さらに、デジタルを活用した安否確認の仕組みも導入している。気温が31°C以上になった日は、正午の時点で全スタッフへ一斉安否確認を実施。
体調不良が報告された場合、本部から応援が駆けつけたり、病院に連絡する仕組みだ。現場と本部をつなぐリアルタイムの情報共有が、従業員にも安心感を与えている。
こうした対策の土台を支えるのが、専門知識を持ったリーダーの存在だ。福井県民生協では、地域や職場での正しい知識の啓発を行う民間資格「熱中症対策アンバサダー」を持つスタッフを配置している。
これは熱中症対策の啓発に力を入れる大塚製薬が推奨する資格で、正しい予防法や緊急時の措置を網羅。熱失神・熱けいれん・熱疲労・熱射病といった病態ごとの症状や対応を体系的に学ぶことで、現場での判断力を高めている。
上田課長は「熱中症への知識が曖昧だったところが、講座を受けることで正確な対応ができるようになった」とメリットを語る。
異変を感じたスタッフには「頭が痛いとか足がつるとか、どういった症状がありますか」などと問いかけ、対応を取るようにしている。
経済活動に欠かすことのできない「企業の熱中症対策」は、地域社会を維持するためにも、ますますその重要度を増している。

