ベトナムのリゾートホテルで2022年、10歳の日本人の男の子がプールの吸水口に吸い込まれ死亡した事故で、現地当局は2026年6月、一時停止していた捜査の再開を決めた。
楽しかったはずの家族旅行は、なぜ悲劇に変わったのか。
遺族は、国際的な司法手続きなどで長期化する捜査の中、今も真相究明を求め続けている。
家族旅行中に起きた悲劇
事故が起きたのは2022年4月5日。ホーチミン市に暮らしていた塙幸士(はなわ・ゆきじ)さん(当時10)は、家族と一緒にベトナム南部のリゾートホテルを訪れていた。
子ども用の流れるプールで遊んでいた幸士さんは、水中の吸水口に背中が吸い付いた状態で発見された。周囲の大人たちが救助し、病院へ搬送したものの死亡が確認された。死因は溺死だった。
父の塙義一さん(58)は当時の様子について、「息子を引き上げてくれた人の証言では、あまりにも吸水力が強く、大人の力でも引き離すのが非常に困難だったそうです」と話す。
しかし事故後、ホテル側から原因について十分な説明はなかったという。
業務上過失致死から「建設規定違反」へ
この4年間、現地当局による捜査は「停止」と「再開」を繰り返してきた。
事故直後、「業務上過失致死」の疑いで始まった捜査は、2023年7月、十分な証拠が得られなかったとして一時停止された。
その後、2024年2月に捜査は再開。現地当局は幸士さんとほぼ同じ体格の子どもを想定した検証実験を実施し、「背中が吸水口に吸着すると、子どもでは自力で脱出できず死亡する可能性がある」との結果を示した。
しかし、その後、捜査は再び停止された。
動きがあったのは2025年1月。当時のベトナム建設省の専門家鑑定で、プールの設計、審査、施工、運営の各段階において「複数の違反」があったと正式に認定されたのだ。
これを受け、現地当局は捜査対象の罪名を「建設規定違反により重大な結果を生じさせた罪」へと変更。捜査の対象は現場の管理責任だけでなく、プールの設計や施工など建設段階にも及ぶことになった。
ところが2026年1月、捜査は3度目の停止となる。理由として示されたのが、「国際司法共助」手続きだった。
捜査の壁となった「国際司法共助」
遺族によると、ホテル側の管理職だったとみられる外国籍の関係者が事故後にベトナムを出国したという。そのため現地当局は、「国際司法共助」手続きを進めてきた。
国外にいる関係者への証拠収集などを相手国の司法当局に依頼するこの制度は、国境をまたぐため、調整に時間を要することも少なくない。
ただ、遺族のもとに届いた現地当局の通知書には、「資料や証拠の補強は引き続き行っている」とも記されており、捜査を完全に終了したわけではなく、水面下で手続きを進めていることが示されていた。
遺族は弁護士とともに嘆願書を繰り返し提出し、在ホーチミン日本総領事館とも連携しながら、現地当局に働きかけを続けてきた。
父 塙義一さん(58):
2025年に一度捜査を再開したということは、国際司法共助の問題は解決したか、少なくとも捜査再開の妨げにはならないと判断したはずです
「4年間、時間が止まったまま」
そうした中、現地当局は2026年6月19日付で、4度目となる「捜査の再開」を決定した。
今回の通知書には、これまで捜査停止の理由とされていた国際司法共助の要請について、「もはや適切ではないため、捜査を再開する」と言及されていた。
捜査の再開を受け、義一さんは「少しでも前に進むきっかけになってほしい」「ようやく動き出したと信じたい」と期待を寄せる。
父 塙義一さん(58):
息子が亡くなってから4年間、時間が止まっているんですよね。事故の2日前、一緒にスーパーへお菓子を買いに行った時の光景が、今でも頭から離れません。何とかして真相を明らかにし、息子の無念を晴らしたい。
義一さんは「今後このような惨事が起こらないよう取り組んでほしい。それができれば、息子の死も無駄にはならない」と涙ながらに訴える。
悲劇から4年。何度も希望を抱いては立ち止まらざるを得なかった父親は、真相が解明され、同じ悲劇を繰り返さないための再発防止がなされる日を、願い続けている。

