秋田市雄和地区にある国際教養大学(AIU)とJR秋田駅を結ぶ無料バスが6月に運行を再開した。学生の移動手段不足という課題を解決し、地域との接点を広げようと事業を引き継いだのは、秋田市出身のIT企業経営者。ふるさとへの恩返しを胸に、学生と秋田をつなぐ新たな挑戦に乗り出している。
移動の壁を越えて秋田とつながる
自然豊かな雄和地区にキャンパスを構える国際教養大学。しかし、学生にとって長年の課題となってきたのが交通アクセスだ。
秋田市中心部へ向かう直通の路線バスはなく、公共交通だけで移動する場合はイオンモール秋田やJR和田駅で乗り継ぐ必要がある。
秋田駅までの所要時間は1時間半から2時間。車を持たない学生にとって、市街地へ気軽に出かけることは容易ではない。
実際に学生からは、「電車や数の少ないバスダイヤに合わせて予定を組まなければ秋田駅へ行けなかった」という声も聞かれた。
そんな状況を変えようと、2025年春に東京のソフトウエア関連企業が大学と秋田駅を結ぶ無料バスの運行を始めたものの、わずか1年で撤退。
事業を引き継ぐ形で6月1日に運行を再開したのが、無料バス「ABE! BUS(あべ・バス)」だ。
「一緒に行こう」に込めた思い
「あべ」は秋田弁で「一緒に行こう」という意味。学生同士で誘い合い、もっと気軽にキャンパスの外へ出てほしいという願いが名前に込められている。
バスは完全予約制で、大学とJR秋田駅を直結。月曜日から木曜日までは4往復、金曜日を含む週末や祝日は6往復運行する。利用できるのは学生と教職員で、運賃は無料。運営費は車内広告や企業協賛によって賄われている。
車体デザインも一新され、片側には秋田駅周辺の街並み、反対側には大学周辺の山並みが描かれている。学生とまちをつなぐシンボルのような存在だ。
学生からは「交通費を気にせずに秋田駅へ行ける」「どこにも止まらず直行できるのが魅力」「千秋公園や商業施設など、秋田の魅力をもっと知るきっかけになる」と歓迎の声が上がる。
学生の可能性を広げたい
大学側も無料バスの復活に期待を寄せる。
国際教養大学の竹内和彦学生課長は、「学生は活動的で様々なアイデアを持っているが、移動の足がないことで思うように活動できないことがあった。それはもったいない」と話す。
学外での活動や地域との交流は、国際教養大学の学生にとって大きな学びの機会だ。交通の利便性向上は単なる移動手段の確保にとどまらず、学生の行動範囲や可能性を広げることにつながる。
ふるさとへの恩返しから始まった事業継承
無料バスの運行を引き継いだのは、東京に本社を置くIT企業「インターグ」だ。
同社を率いる那須剛社長は秋田市出身。公認会計士として大手監査法人で上場企業や外資系企業の監査に携わった後、2017年に起業し、クレジットカードや住宅ローンなどの比較メディアを運営している。
那須社長が無料バス事業に乗り出した背景には、AIU生の実情を知ったことがあった。
那須社長は「多くの学生がキャンパス周辺で生活し、秋田との接点をほとんど持たないまま卒業していくと聞いた。それはすごくもったいないと思った」と話す。
学生が地域を知り、地域も学生の存在を身近に感じる。その接点を生み出したいという思いが、事業継承の原動力となった。
秋田の未来につながるモデルへ
那須社長は以前から、プロバスケットボールチーム・秋田ノーザンハピネッツのホームゲームへの子供の招待や、企業版ふるさと納税を活用した秋田市への寄付など、地域貢献活動を続けてきた。
「秋田の人や土地に育ててもらった。何か役に立てることがあればやりたい」という思いは一貫している。
さらに将来的には、秋田に事業拠点を設け、デジタルマーケティング分野で働く若者の受け皿づくりにも取り組みたい考えだという。
人口減少や運転手不足などを背景に、全国で公共交通の維持が課題となる中、広告や協賛金を活用して運行するABE! BUSは新たな交通モデルとして注目される。
那須社長は、事業として継続のめどが立てば、他の地域や大学への展開も視野に入れる。
学生と地域を結ぶ一本のバス。その車輪は、ふるさとへの恩返しと地域の未来を乗せて走り始めている。
(秋田テレビ)

