アメリカ政治史上類を見ない激戦となった大統領選挙は、民主党のバイデン氏が過半数の選挙人を獲得し勝利宣言を行った。一方のトランプ大統領は敗北を認めず、今後は郵便投票の有効性などを裁判で争う姿勢を見せている。今回の放送では元大阪府知事の橋下徹氏をスタジオに招き、アメリカ政治を専門とする上智大学の前嶋和弘教授、政治思想を専門とする日本大学の先崎彰容教授とともに、大統領選の行方と民主主義のあり方について議論を深めた。

トランプ氏の不満は理解できるが

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梅津弥英子キャスター:
米大統領選挙はバイデン氏が勝利宣言を行った一方、トランプ大統領はツイッターで「私は7100万の合法な票を獲得して選挙に勝った」。あくまで勝者は自分で、選挙は不正に行われたと主張しています。

橋下徹 元大阪府知事 元大阪市長:
トランプ大統領の郵便投票に対する不平不満は、日本人の感覚として、また選挙をやった当事者としてもよくわかります。不正があったかはわかりませんが、アメリカの郵便投票は日本では考えられないアバウトさ。2015年も今回も大阪都構想の住民投票結果は非常に僅差でしたが、「負けました」と言えたのは、日本の投票制度がものすごく厳格だから。

前嶋和弘 上智大学総合グローバル学部 教授:
トランプ大統領の不満には理解できる部分が非常に多い。一方、不正の温床というが、これぞという証拠が出なければ人々は納得できない。

反町理キャスター:
するとトランプ氏としては裁判で争って最高裁まで行く、または結論が出ずに選挙人が確定しない状況を12月14日までに作り上げられるかどうかという勝負ですか。

前嶋和弘 上智大学総合グローバル学部 教授:
再集計の状況次第で、場合によっては次のことを考える。4年後にまた出馬するとか。またトランプ氏は、FOXよりもっと保守的なテレビメディアを作ろうとしているという話もある。いずれにせよ、支持者の納得できないという声をどう収めるか、どう納得できる負け方をするか。

バイデン氏にとっても ”融和"は困難

反町理キャスター:
先崎さん、今回の投票後、分断を埋めていく動きについては。

先崎彰容 日本大学危機管理学部 教授:
トランプ氏個人というより、トランプ現象という現象自体は続いており、それが勝ち続けてきた。80年代以来のアメリカにおける保守主義とは、レーガン大統領が作ったあり方。それは徹底的な競争と規制緩和、そして海外においてアメリカが自由と民主主義を広めること。それがどうしようもない形の、二極化どころか多極化を生んだ。この多極化を収めることは、おそらくバイデンさんでもかなり至難の業。

反町理キャスター:
バイデン氏の勝利宣言での「分断ではなく融和を目指す大統領になることを誓う」。この融和は無理だと?

先崎彰容 日本大学危機管理学部 教授:
基本的に難しい。そもそも、民主党と共和党にそれぞれの党らしさが希薄になり、似通ってきている。そこでこれだけ分裂した選挙を戦ってしまった。バイデン氏は勝利したが、トランプ氏も7100万票を取っている。いわゆるトランプ現象は、今後も続いていかざるを得ない。

先崎彰容 日本大学危機管理学部 教授

反町理キャスター:
政策的に、民主党と共和党の違いはなくなってきているのですか。

前嶋和弘 上智大学総合グローバル学部 教授:
ここは議論があり、確かに交わりつつある部分もある。だがトランプ氏の大きなレトリックはやはり小さな政府であり、規制緩和と減税。この選挙における対立軸はまだ崩れない。

橋下徹 元大阪府知事:
99パーセントの有権者は、論理的な正当性だけではなくて主観的な満足で取りにいく。多様な社会を二つに分けられるわけもなく、政党の政策は似通う。じゃあ何で票を取るか。僕の持論ですが、これは「肌合い」。アメリカではそれが7100万人と7400万人で真っ二つに割れているんでしょう。

先崎彰容 日本大学危機管理学部 教授:
学者も、1パーセントのところをきわめた上でもう一度100パーセントのところに降りていく必要がある。きちんとした分析をした上で、どうやって国民の人たちに印象を与えるのか。もう一回降りて言葉を柔らかなものにするのが政治のあるべき姿。

前嶋和弘 上智大学総合グローバル学部 教授:
アメリカ人にとっての政党とは、価値観であり世界観。それが肌合いかもしれない。基本的に、小さな政府で宗教保守、大きな政府で宗教にとらわれない生き方をする人たち、この2極はこの20〜30年、驚くほど離れてきている。そうした中、今年はコロナウイルス対策も含め、反トランプの動きで選挙があった。コロナウイルスがなければトランプ優勢だったと思うが、いずれにしても分極化した51対49のような形になる。

前嶋和弘 上智大学総合グローバル学部 教授

民主主義では多数決が「正しい」

先崎彰容 日本大学危機管理学部 教授:
アメリカで起きていることはイギリスでもフランスでも、そして日本でも起きている。まず経済については、やはり分断が起きているのは明らかな事実。かつて年越し派遣村、近年もこども食堂などが話題になっている。
一方、民主主義や政治の話では、今回のコロナにおける日本はヨーロッパやアメリカよりも民主主義的だったと思う。緊急事態宣言前、当時の安倍首相は各野党の党首と討論をし、形式的にでもお願いをした。これに1カ月ほどを使った。民主主義のキーワードは「遅さ」。良し悪しは別だが、日本は今回民主主義を試され、遅さの中でなんとか対応した

橋下徹 元大阪府知事:
ただ特措法には、やはり政治闘争で野党が与党を倒したい側面があった。いざという場面になれば熟慮ではなく政争になる。
じゃあ民主主義って何だろう。それはフィクションとしての「正しい」を決めること。51対49であれ、民主投票で決まったことを「正しい」としなければ進まない。本当に正しいかどうかは別。多数を取った場合には正しいという前提で進めていく、多数を取れなかった方は間違っていたというフィクションを受け入れる。

反町理キャスター:
トランプ大統領の場合、裁判をたくさん起こすのではなく、支持者に対して我々は負けたと言うべきだという意味?

橋下徹 元大阪府知事 元大阪市長:
必要なことはふたつ。ひとつは負けを明確に認められるように、投票制度を厳格化すること。もうひとつは、相手に対して侮辱をせず、考え方の違いにおいて徹底的に議論し、最後に多数決で決まったことは、正しいものとして、フィクションとして受け入れる。アメリカは両方が欠けちゃっている。

前嶋和弘 上智大学総合グローバル学部 教授:
今は正しいフィクションを確認していく段階。制度を使ってトランプ大統領が敗北を支持者に納得させていくプロセスにはちょっと時間がかかるかなと思います。7000万人以上に伝えることはめちゃくちゃ難しい。

「学術会議問題」で野党がずれている

梅津弥英子キャスター:
臨時国会で大きな議論となっている日本学術会議会員の任命拒否問題。先崎さん、研究者の一人としての見方は。

先崎彰容 日本大学危機管理学部 教授:
ひとつは、学問は一身独立してやっているのであり、菅首相から何かを言われたからといって敏感肌に触れたかのように「私の学問が侵害された」と言うのならば、それぐらいの学問であるならば……と、この辺でやめておきますが。もうひとつは、学術会議の問題というのは全国の人々の中においてそこまで大きな問題なのか、ということ。これに思いをいたす嗅覚がないままに喋ることは、議論としておかしいのではないかと。
野党議員もマスコミも、全国で日々自分の仕事を全うされている方が求めている政治というのを勘違いして取り上げ続けているのでは。

橋下徹 元大阪府知事:
全面同意。野党のセンスがずれている。学術会議を変えなければいけないという国民の声は、世論調査にはっきり出ている。学者の皆さんが政治と勝負するのなら、絶対に国民の応援を受けなきゃいけない。それが下手。学者も政治家も間違うこともあるから政治と学術会議が共同作業で人選すると素直に解釈すれば共感を得られるのに。

橋下徹 元大阪府知事 

前嶋和弘 上智大学総合グローバル学部 教授:
世論を味方につけることは、一番学者ができないこと。だから難しくなる。ただ、研究者の立場からすれば学問の自由だけは守りたい。今回の話とは別の話として、たとえば科研費の審査で政府の顔色を伺うような空気が出てくれば由々しき問題。そんな話はこれまでなかったが、今回の話をきっかけに、自由じゃないと言って自ら自分たちを苦しめていくような気がします。

先崎彰容 日本大学危機管理学部 教授:
学問の自由には、特に若手にとっては財源の確保、すなわち定職として食っていけるという安心感が必要。これも政治が議論すべき話。

橋下徹 元大阪府知事:
その通り。でも、世間に通用しない人材も学問の世界に多いのではという感覚がある。一定期間民間企業やシンクタンクに行って給料をもらうとか、大量のお金を投じて大学の中だけで雇用するのではなく、行ったり来たりの回転ドア方式で職を維持していく。そのように、有用だと思わせる人材養成機関に大学がなれていない部分があるのでは。
それから雇用の流動性、つまり雇用解雇規制の緩和。民間が博士号を取った人を入れられないのは、一度正社員として抱えてしまえば変えられないから。何でもかんでも首を切ればいいわけではないが、やはり人材の流動性はなければいけない。

BSフジLIVE「プライムニュース」11月9日放送