大きな災害が発生すると、食料や水の確保が優先され、歯磨きや口腔(こうくう)ケアは後回しになりがちだ。しかし、口の中の衛生状態の悪化はむし歯だけでなく、さまざまな病気のリスクにつながる可能性がある。
特に、自分で十分なケアができない子どもたちには注意が必要だが、水が止まった際はどうやってケアすればよいのか。
さまざまな災害の被災地支援に携わってきた、ときわ病院歯科口腔外科部長の足立了平さんに聞いた。
むし歯以外の病気になる可能性も
災害時に口腔ケアを怠ると、高齢者が誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高まることが知られています。
しかし、口の中の細菌の増加が病気につながるという点では、子どもも同じです。
これは極端な例ですが、2016年に熊本地震が発生した際、熊本市民病院では病棟の天井や壁が崩落し、病院機能の維持が難しい状況になりました。しかし、この病院には小児心臓外科があり、先天性心疾患などで心臓手術を受けた子どもたちが数多く通院していました。
心臓手術後の子どものなかには、感染性心内膜炎を発症しやすいケースがあります。これは、体のどこかで増えた細菌が血液中に入り込み、心臓の内側に付着して炎症を起こす病気です。重症化すると命に関わることもあります。
そして、その細菌の侵入口の一つとして注視されているのが口の中なのです。歯ぐきの炎症や口腔内の細菌が血流に入り込むことで、感染性心内膜炎の発症リスクに関与すると考えられています。
もちろん、すべての子どもが感染性心内膜炎になるわけではありません。しかし私は、この事例が「口の中の細菌は、単にむし歯や歯周病だけの問題ではない」ということを示していると思っています。
特に、災害時は水不足や生活環境の変化によって脱水状態になりやすいです。細菌を洗い流したり増殖を抑えたりする唾液の分泌量も減り、口の中を清潔に保つ力が弱くなってしまいます。
だからこそ、非常時であっても口腔ケアを後回しにしてはいけません。口の中を清潔に保つことは、むし歯予防だけでなく、全身の健康を守ることにもつながるのです。
最強の味方はフッ素
とはいえ、災害時は完璧な歯磨きを目指す必要はありません。私は、そのときできる範囲でケアすることが大切だと思っています。

