ドイツ、スペイン、韓国、中国。言葉も文化も異なる若者たちが、長野県小布施町の小さなアトリエに集ります。引き寄せるのは、「世界一」と称される盆栽作家・鈴木伸二の存在です。師匠から受け取り、弟子へと手渡される命のリレー。そして会場に静かにたたずむ「原爆の松」が語る、平和への祈り。

■「世界一の先生」海外からも弟子

鈴木がこれまでに育てた弟子は20人。

現在も5名が修業中で、修業期間は5年。その後1年の「お礼奉公」を合わせた計6年が一区切り。

最初に叩き込まれるのは水やりです。

約2000鉢それぞれの状態を見極め、朝から夜まで様々な技術を学び、時には徹夜で剪定に向き合います。

ドイツから来たテオは、盆栽店を営むおじに「世界で一番いい先生は誰か」と聞きました。その答えが、鈴木伸二でした。

韓国から来たクォンはもともと造園を学んでいました。「なんでこの枝がここにあるのかまだ全然わからない」と言いながらも、「盆栽だけでなく、飾りや空間の演出。それがここの一番の魅力だと思います」と語ります。

■スペインから来た初の女性弟子

修業4年目のサラは、このアトリエ初の女性弟子です。

スペインでアートを学んでいた彼女が盆栽と出会ったのは、偶然手にした一冊の本でした。

スペインの盆栽園に就職したものの、「もっと深く極めたい」。

その思いが彼女を小布施へ導きました。「鈴木先生はスペインでもトップクラスで、私が大好きな盆栽アーティストの一人でした。勇気を出して来ることができて、本当にうれしいです」

鈴木は「女性弟子は初めてで、受け入れるためにいろいろ準備した」と明かしつつ、「本当に盆栽が好きだなと感じます。大きな盆栽も持てるようにトレーニングしているから、僕より力があるんですよ」と笑います。

修業を終えた先に、サラの夢があります。「自分の国に戻って、日本とスペイン、二つのスタイルの間にある新しい表現を目指したい」

盆栽文化を受け取り、変容させ、また次へ渡そうとする強い意志が、その言葉に宿ります。

鈴木は弟子たちにこう願います。「テクニックだけじゃなく、盆栽を通して命のリレーの大切さを、世界中に広めてくれれば」

■「人生の旅」を盆栽で演じる 

2025年10月下旬、アトリエは京都で行われる日本最大級の盆栽展「日本盆栽大観展」の準備に入りました。

掛け軸と添え物を一鉢一鉢に合わせて選び、ストーリーを演出。それが鈴木の流儀です。

盆栽作家 鈴木伸二さん:
「赤松の盆栽には旅の物語を重ねた。最初にスタートして全国を回って、最後に同じ赤松を見るのでも景色が違ってくる。それを人生の旅と例えてもいい」

今回、最高賞を狙う大型盆栽の手入れを任されたのは、中国人の弟子・リー。

修業の集大成として臨んだ審査の結果は、2位にあたる「文部科学大臣賞」。

鈴木は「かえっていいの。僕も最初の受賞から次まで8年かかった。壁を越えるから強くなる」と静かに言いました。

後日、リーはこう語りました。「私の夢は、これからの仕事の中で盆栽の芸術をもっと高いところへ届けることです」

■「原爆の松」が語る、平和への祈り

展覧会の会場に、鈴木がプロデュースした特別ブースがありました。そこに静かに飾られていたのは「原爆の松」。

80年前の8月6日、広島で被爆し、半身を焼かれながらも命を留めた松。

人の手で大切に受け継がれ、今もここで生きています。

盆栽作家 鈴木伸二さん:
「盆栽は毎日水をかけなければ、言葉なくして枯れゆくものなんですよ。水をかける人の思いは争い事じゃない。だから世界では平和の象徴として広がっている」

■春、また新しい一年が始まる

展覧会を終え、季節が巡ります。

2026年春、小布施のアトリエで、たくさんの盆栽が一鉢ずつ庭園へと運び出されていきます。

「風神・雷神」も、いつもの場所へ戻り、堂々たる姿を見せました。

鈴木伸二は、昭和9年の第一回国風盆栽展に展示された五葉松を前に、静かに語りました。「師匠の時代から生かされて、戦争を越えて。その人たちの思いは争い事じゃない。弟子が世界中に帰って弟子をとって、広がっていく。その理念の大切さをこれからも伝えていきます」

小さな鉢の中で生き続ける命。父から子へ、師匠から弟子へ、国境を越えて人から人へ。今日も、ここで静かに、時を重ねています。

※この記事は、2026年6月12日にNBS長野放送でOAした「フォーカス信州 盆の中、繋ぐ命~小布施町の盆栽作家~」をもとに構成した内容です(全2回の記事その2)

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