東日本大震災など大地震による大規模災害時、災害現場に急行するDMAT(災害派遣医療チーム)や日赤の医師や看護師の活躍はよく知られている。しかし、医師や看護師だけでは治療や救護活動はできない。災害現場での絶え間ない医薬品の提供もとても重要なことなのだが、あまりよく知られていない。

熊本地震や能登半島地震の災害現場で、必要なところに迅速に薬を提供してきたのが「モバイルファーマシー」の存在だ。

熊本地震をきっかけに導入進む

モバイルファーマシーとは、災害現場に派遣されるキャンピングカータイプの車両で、薬局薬剤師が中心となり災害時の処方箋調剤をしたり、一般用医薬品を供給する拠点として活躍する。

人口1400万人を超える巨大都市・東京において、都内で初めてモバイルファーマシーが導入されたのが、八王子市にある東京薬科大学だ。

モバイルファーマーシーの車内
モバイルファーマーシーの車内
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導入のきっかけとなったのが、2016年4月に起きた熊本地震。東京薬科大学の松本有右客員教授が、東京都薬剤師会が派遣した支援チームの一員として災害支援のために現地入りした際、すでに派遣されていた大分県薬剤師会のモバイルファーマシーに乗り込んで、災害処方箋の調剤、一般用医薬品の供給などを行った。

当時、東京にはモバイルファーマシーが1台もなかったことを受け、松本氏が大学と相談し、2019年10月に都内で初めてのモバイルファーマシーを導入した。

災害現場を支える機能と自治体連携の取り組み

トヨタのキャンピングカーを改造した車両は、災害現場でも移動しやすいように4輪駆動になっているほか、電気を作れる自家発電機やソーラーパネルが設置されている。また、電気を被災者に供給することもできる。車内には、約300種類の薬を管理する薬棚や、薬の分包機も備えられている。

東京薬科大学 松本有右客員教授
東京薬科大学 松本有右客員教授

松本氏は、災害時における医薬品の安定供給の重要性や、一般用医薬品と薬剤師の役割の大きさについて次のように語った。

「災害現場では医師や看護師も重要ですが、必要な医薬品を供給することも大切です。けがの治療に必要な医薬品の提供のみならず、被災者が普段から使用している医薬品を漏れなく提供することで、災害関連死を含む医薬品関連の2次災害を防ぐことができます」

「市販薬やOTC薬と言われている一般用医薬品も災害時には有効です。特に発災から1カ月以上経過すると、のどや目の痛み、便秘などの症状を訴える被災者も多く、そうした場合に薬剤師が被災者の相談に応じ、一般用医薬品を提供することで対応したケースも多く経験しました」

八王子市健康医療部健康医療政策課 中山あずさ課長(左)と松本氏(右)
八王子市健康医療部健康医療政策課 中山あずさ課長(左)と松本氏(右)

また、八王子市健康医療部健康医療政策課の中山あずさ課長は、平時からの連携体制の構築と災害時の医薬品確保に向けた取り組みについて次のように説明した。

「八王子市では、東京薬科大学と、八王子薬剤師会と協定を結んで、平時よりモバイルファーマシーを活用した防災訓練などを行っています。また、八王子市では、災害時に必要な薬が確保できるよう、八王子薬剤師会と協力し、災害時の緊急医療救護所(病院など市内15施設)の近隣薬局に16品目の薬を取り置く仕組みを構築しています」

モバイルファーマシーは全国に25台ほど配備されているが、東京都では八王子市と東京薬科大学の取り組みを参考にして、都道府県としては初めてモバイルファーマシーの導入を決定し、2026年3月から立川の防災拠点に車両が配備されている。
(フジテレビ社会部 大塚隆広)

大塚隆広
大塚隆広

フジテレビ報道局社会部
1995年フジテレビ入社。カメラマン、社会部記者として都庁を2年、国土交通省を計8年間担当。ベルリン支局長、国際取材部デスクなどを歴任。
ドキュメントシリーズ『環境クライシス』を企画・プロデュースも継続。第1弾の2017年「環境クライシス〜沈みゆく大陸の環境難民〜」は同年のCOP23(ドイツ・ボン)で上映。2022年には「第64次 南極地域観測隊」に同行し南極大陸に132日間滞在し取材を行う。