東京都内には、約1040か所に及ぶ踏切がある。
そのうち、開かずの踏切と呼ばれるピーク時1時間あたり遮断時間40分以上の踏切は約290か所ある。
そうした踏切は、慢性的な交通渋滞を引き起こす要因となり、都民生活や経済活動に影響を及ぼしている。
鉄道の高架化で渋滞ゼロも
その踏切を除去するために行われているのが連続立体交差事業だ。
現在事業が行われているのは西武新宿線、京王線、東武東上線、京成押上線、JR埼京線など8路線10事業区間。
すべて完了すれば、91か所の踏切が除去されることになる。
実際に工事が完成した箇所では、十分な効果が出ていることが確認されている。
鉄道が高架化され、踏切が除去された京急蒲田駅付近では、平均780mあった渋滞がゼロに。
西武池袋線練馬高野台から大泉学園駅間の車の平均速度が2倍にあがった。
現在事業中の10区間の1つ、西武新宿線中井駅―野方駅間の現場を取材した。
事業区間は2.4kmで、地下化され、新井薬師前駅と沼袋駅は地下に設置される。
この事業で除去される踏切は7か所。
いずれもピーク時1時間あたりの遮断時間が40分以上の開かずの踏切だ。
そのうちの1つ、新井薬師前第2号踏切は、幹線道路の中野通りを通過するなど、交通渋滞の要因となっている。
西武新宿線は地下にホーム設置へ
工事の進捗状況はどうなっているのか、シールドマシンで掘削中の地下へ行く。
地下へいく導線は、営業中の線路の下をくぐって進んでいく。
実際、ちょうど線路下をくぐっているときに、電車がけたたましい音をたてながらヘルメットをかぶる頭上を通過していった。
そして、巨大な立坑の隅に設置された階段を下りていくと、広大な地下空間があらわれる。
続いて案内されたのは、将来、新井薬師前駅のホームが設置される場所だった。
現在の新井薬師前駅は、駅がカーブ状になっていて電車とホームの間が広めになっている場所があるため、地下につくる新しい駅は現在よりも少し北側に移設してカーブが緩和される予定だ。
シールドマシンによる掘削も順調に進んでおり、中井駅~新井薬師前駅間の中間部より新井薬師前駅部に向かって施工中である。
この事業は、2020年度完成予定だったが、用地買収が進まないなどの理由で、工期は繰り返し延長、現在は2033年度が事業の終了年度となっている。
事業費も物価上昇や施工計画の変更などから、当初約726億円だったものが、現在、約1635億円に見込まれている。
ただ、経済効果は開かずの踏切解消にとどまらない。
地下化することによって、現在の新井薬師前駅や沼袋駅のエリアが再開発することができる。
現在東京都と中野区、西武鉄道の3社で新しい街づくり計画が検討されている。
西武新宿線では、27年春よりリクライニングシートで全席にコンセントが設置される新車両「トキイロ」が導入される予定。
また、同じく27年以降に、西武新宿線とJR新宿駅東口から延びる地下通路、新宿サブナードを結ぶ地下通路の工事が始まる予定で、完成するとJR新宿駅とのアクセスが格段と向上される予定だ。
京王線は「電車渋滞」も 高架化で解消か
京王線でも連続立体交差事業は着手されている。
笹塚駅から仙川駅間の約7.2kmだ。
2013年に事業化されてから14年目。
対象区間のあちらこちらに工事が進められていて、箇所によっては高架が完成しているものもある。事業費は約1843億円だ。
京王線の開かずの踏切の問題は、西武新宿線よりも深刻だ。
明大前駅の周辺にある踏切や千歳烏山駅の踏切は、ピーク時1時間あたりの踏切遮断時間がなんと57分(令和元年度)。
アンダーパスなどう回路のある踏切もあるが、ない箇所では、ごくわずかな踏切が開いたタイミングでしか渡ることができない。
井の頭通りと甲州街道の結節点の手前にある踏切では、慢性的な渋滞が発生している。
京王線の高架化が完成すれば、こうした踏切25か所が解消される予定で、沿線住民にとって、生活環境や利便性が格段にあがることが期待されている。
高架化されることに伴い、明大前駅と千歳烏山駅が2面4線構造に拡張される予定で特急と各停が同時に駅に停車できるようになる。
京王線は現在朝の通勤ラッシュ時は、新宿駅に近づくにつれて、先をいく電車で詰まるいわゆる「電車渋滞」が起き、慢性的にダイヤが乱れているが、こうした電車渋滞も解消されることになると期待されている。
京王線の高架化工事の現場へ東京都の担当者の案内で行ってみた。
現場へ行ってすぐに気づくのが、工事用の作業スペースがせまいいことだ。
本当にせまい。
線路に沿って伸びる幅数メートルのスペースを活用して工事が進められている。
重機を使う場合も、このせまい導線をつかって行われるため、通常の工事現場よりも時間がかかるし、作業も困難を極めている。
そして、仙川駅側では高架の設置も直上工法という特殊な方法が用いられている。
「直上工法」は、線路を運行させながら(仮線を使わず)既存の営業線の上部に新しい高架橋を構築する方法。
京王線の高架化工事では、こうした直上工法のほかに、別線工法など、様々な方法を駆使して作業が進められている。
だが、問題は用地買収だ。
整備区間の約9割は用地取得済だが、事業着手から13年経過した現在もまだ約1割の用地が未取得だ。
打開策の1つに、広報の努力が試されている。
前述の西武鉄道は、立体交差事業に関して、数多くの広報リリースを出しているほか現場のメディア公開も行っている。
一方の京王電鉄。
現場のメディア公開はほとんど行われていないといっていい。
大規模な公共工事ほど、事業の社会公益性を、1人でも多くの人に知ってもらうことが何よりも大切だ。
京王線は、高架化だけでなく、地下に2線を通す計画もあるが、いったいどれだけの沿線住民がこのことを把握しているのだろうか。
現在の事業期間は、2030年度で終了となっているが、延長されることがほぼ確実の情勢だ。
沿線住民だけでなく、全都民に対して事業の必要性と重要性について、京王電鉄から積極的に発信していくことを期待したい。

