「今は悔しさでいっぱいですね。悔しさと申し訳なさで、もうほんといっぱいで」——そう語るのは、石川県金沢市にある飲食店「AHAHA kitchen」の店長・田村佳子さんだ。コロナ禍に産声を上げ、地元の食材を使ったあたたかいメニューで地域に愛されてきたこの店が、物価高騰という波に飲み込まれ、2026年6月14日をもって閉店することになった。
米の仕入れ価格が開店時の約3倍にまで跳ね上がり、食材費は原価の50パーセントを超える状況に追い込まれた。それでも田村さんは最後まで、提供する料理の量を減らすことなく客と向き合い続けた。地域の食堂に何が起きたのか。
「笑顔になれるように」——コロナ禍に誕生した店

「AHAHA kitchen」がオープンしたのは2022年のことだ。コロナ禍という、外食産業にとってこれ以上なく厳しいタイミングでの船出だった。店名には「名前を呼ぶだけで笑顔になれるように」という思いが込められている。

地元の食材をたっぷり使ったメニューは地域の常連客を中心に支持を集め、来店客のおよそ9割がオムライスやカレーライスを注文するという人気ぶりだった。

地元のお米屋さんとの関係も、この店の大切な土台だった。「お米屋さんもほんとなんか親身になってくれて、オープンのときに、すごいがんばった価格で入れてくれてた」と田村さんは振り返る。

オープン当初、30キロあたりおよそ6,500円で仕入れることができた米は、質にこだわる田村さんの強い意向で、古米を使わず米屋から直接仕入れる形が続けられてきた。
米の価格、4年で約3倍に

「AHAHA kitchen」の閉店を決定づけたのは、物価の急激な高騰だ。特に深刻だったのが、主力メニューに欠かせない米の価格上昇だ。
2022年のオープン時に30キロあたりおよそ6,500円だった米は、現在ではおよそ2万円にまで跳ね上がった。わずか数年で約3倍という上昇幅は、当初の価格設定を前提に組まれた経営を直撃した。

田村さんによると、飲食店の経営において、食材費は原価の30パーセントに抑えるのが理想とされている。しかし「AHAHA kitchen」では現在、その比率が50パーセントを超えてしまっている状態だという。

米の価格だけではなく、燃料費の上昇もあり、麺類の提供を一部取りやめるなどの工夫も重ねてきた。さらに追い打ちをかけたのが、中東情勢の影響だ。これまで無料だった肉のトレー代などの諸経費も新たにかかるようになり、ついに限界を迎えたと言う。
「量も全部変えてないです」——最後まで貫いた信念
こうした状況の中でも、田村さんがこだわり続けたことがある。提供する料理の量を、オープン当初から変えないということだ。

「お客さんからも心配して、お米減らしてもいいよって言ってくださるんですけど、やっぱり、出てきたときにちっちゃくなったなって思われるのがすごく嫌で」と田村さんは言う。「おなかいっぱいになりたくってここに来ていただいてるなっていうのがあったんで、最初の大きさも量も全部変えてないです。」

コスト削減のために提供量を減らすことは、飲食業界ではやむを得ない手段として広く行われている。しかし田村さんにとって、それは客との約束を破ることと同じ。少し割高でも、地元の米屋から直接仕入れた良質な米を、オープン当初と同じ量だけ盛り付け続けた。その姿勢は、経営を圧迫しながらも、最後まで変わることがなかった。

常連客との別れ——「またただいまって帰ってきてくれたら」
常連客は、「さみしいですね。やっぱり続けてほしいという気持ちも強いんですけど、でもやっぱりどこまで無理させていいのかっていうのも。でもいちユーザーとしてはずっと食べ続けたいです。」と寂しげに語っていた。

それでも田村さんの言葉には、前を向こうとする力があった。「ほんと申し訳なさでいっぱいなのと、必ずどこかで復活したいなと思っているので、その時はまたただいまって帰ってきてくれたら嬉しいなと思っています。」

「AHAHA kitchen」の閉店は、一軒の飲食店が消えたという話にとどまらない。コロナ禍という最も苦しい時期に開業し、地元の食材と、地域の客とともに歩んできた店が、物価高騰という波にのまれてしまったと言う現実を映し出している。

コロナ禍から立ち上がり、懸命に歩んできた店の閉店。物価高に追い打ちをかけた中東情勢は、金沢の地域コミュニティにも静かな、しかし確かな影を落としている。
「AHAHA kitchen」の看板が外される日、田村さんがいつかまた「ただいま」と戻ってくる日を、常連客たちは待ち続けるだろう。
(石川テレビ)
