入院中の患者が「食べたくても食べられない…」と口にする憧れの一杯。
鳥取大学医学部附属病院(米子市)が、地元企業と半年をかけて開発した「減塩ラーメン」が、2025年5月から病院給食として提供されている。塩分量を一般的なラーメンの約3分の1以下となる2.9グラムまで抑えながら、「しっかり味はするし、出汁の香りも出ている」と試食者が絶賛するこの一杯は、入院患者にとって長らく「禁断のメニュー」だった。
「禁断のメニュー」の正体
ラーメンは、日本人が広く愛する国民食のひとつだ。しかし入院患者にとって、この親しみ深い一杯はこれまで「禁断のメニュー」として扱われてきた。その理由は塩分量の問題だ。
一般的なラーメン1杯に含まれる塩分量は、約7グラム。これは厚生労働省が示す健康な成人女性の1日の塩分摂取目標量である6.5グラムを、単品で超えてしまう数値だ。健康な人でさえ注意が必要な量であるが、入院患者ともなれば話は別である。
腎疾患や高血圧、心疾患など、塩分摂取に細心の注意を払わなければならない患者にとって、ラーメンは「食べたいと思っても絶対に食べられない」食事の筆頭格であり続けてきた。
鳥取大学医学部の難波範行教授は、その現実を率直に語る。「ラーメンのご希望というのは非常に多いわけです。我々としても何とかお答えしたいと常々思っていた」。患者の声に、医療スタッフが長年応えられずにいたジレンマが、この言葉に凝縮されている。
半年間の開発――減塩と満足感 ジレンマ解消に挑む
このジレンマを解消すべく立ち上がったのが、鳥大病院の管理栄養士と、米子市を中心に給食事業を展開する地元企業によるタッグである。約半年の歳月をかけて取り組んだ開発の核心は、「いかに塩分を削りながら、ラーメンとしての満足感を損なわないか」という一点に尽きた。
塩分削減のアプローチとして、まず具材の見直しが行われた。一般的なラーメンに使われるチャーシューは、製造過程でしょうゆや塩などの調味料をたっぷりと使用するため、それ自体に相当量の塩分が含まれる。そこで鳥大病院の減塩ラーメンでは、チャーシューを「茹でた豚ロース」に変更。この一手によって、具材からの塩分摂取を大幅にカットすることに成功した。
さらに重要なのが、スープの工夫である。醤油ベースのスープという基本的な方向性は維持しながら、うま味の底上げのために出汁を加えた。塩分を減らすと、どうしても「薄い」「物足りない」という印象を与えがちだ。しかし出汁の持つ豊かな風味とうま味成分が、塩分が少なくても「味がある」と感じさせる役割を果たした。
こうした地道な試行錯誤の末に完成した減塩ラーメンの塩分量は、1杯あたり約2.9グラム。一般的なラーメンの約7グラムと比較すると、実に半分以下、約3分の1強という水準にまで抑えられている。しかも、この削減は単なる「薄める」ではなく、出汁という代替の旨味を補強することで達成されたものだ。
「入院中の楽しみに」我慢から“食べる喜び”へ
鳥大病院では、5月29日に関係者を集めた試食会が開かれた。参加者たちが一口ずつ減塩ラーメンを口にする場面では、驚きと満足の声が相次いだ。
「おいしい…」という率直な感想に続き、「しっかり味はするし、出汁の香りというか味も出ているので、本当においしいラーメンをいただいている感じ」という声も聞かれた。減塩食に対してどうしても抱きがちな「我慢の食事」というイメージとは、明らかに異なる評価だ。
「麺がとにかくおいしい。入院中の楽しみになるなと思いました」という感想も印象的である。入院生活において「楽しみ」という言葉が出てくることは、医療的な側面だけでなく、患者の精神的なQOL(生活の質)という観点からも非常に意味深い。
難波教授も試食会の場でこう述べた。「おいしいものを食べると、きょう一日元気がでると思います」。治療の手助けとなる食事の提供はもちろんのことだが、食の喜びそのものが患者の気力や体力を支えるという、食事療法の本質的な価値を改めて示す言葉だ。
鳥大病院は今後、地元企業との協力を重ね、このラーメンの販売を目指したいとしている。
このラーメンは、7月5日に鳥大病院で開催予定のイベントで来院者に数量限定ながら試食してもらうことも予定している。
(TSKさんいん中央テレビ)
