91種400以上の動物を飼育している福岡市動物園。ゾウやオランウータン、マレーグマの展示エリアを過ぎた奥に設置されているのが『動物医療センター』。ここが獣医師の志岐歩美さんの“戦場”だ。

初めてのゾウの採血に「ドキドキ」

医療センターの中には、小型の動物の採血や治療を行う『処置室』に動物のための薬を保管・調合する『薬品庫』、そして、様々な器具が揃う『手術室』などがある。

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「きょうは、アジアゾウのメスの採血をするので、その準備です」と話すのは、福岡市動物園の獣医師、志岐歩美さんだ。

福岡市動物園・獣医師 志岐歩美さん
福岡市動物園・獣医師 志岐歩美さん

志岐さんを含めた5人の獣医師が、この医療センターに駐在し、動物たちの健康を管理している。

福岡市動物園・獣医師 志岐歩美さん
福岡市動物園・獣医師 志岐歩美さん

「子供の頃から捨てネコを飼うとか、身の回りに動物がいる環境だった」と話す志岐さんは、“大の動物好き”。以前は牛の専門医として働いていたが、多くの動物に関わりたいと3年前に動物園獣医師になった。

「怖かったですね。まだどういう性格か分からなかった時だったので、ドキドキしましたね」と初めてゾウを採血した当時を振り返る。

ウイルスで1頭のゾウが死ぬ

そもそも大きなゾウの採血は、どうやって行うのか?

福岡市動物園飼育員の山本周平さんに尋ねると、「耳の裏に血管があるので、耳を出してもらっています。このターゲット棒に耳をつけてもらう。

今、ペタンと寝ている耳を、ちょっとでも棒に付けてくれたら褒めてあげるというのを続けていったら、最終的に90度くらい耳を上げてくれるようになっている」と実際に採血方法を実演してくれた。

更に、爪楊枝で耳を刺激し、徐々に慣らしてから注射針を刺せるようにしたと話す山本さん。飼育員や獣医師の安全確保と動物たちのストレスを減らすために、福岡市動物園では、約5年前から受診動作訓練を行い、検査や治療にあたっているのだ。

志岐さんは、「動物園は多種多様な動物がいて、哺乳類から鳥類、爬虫類までいて、大学で習うこともないので、現場に出て、具合が悪い動物をみんなで文献を調べて治療方法や薬を探す。それが動物園は大変」と動物園の獣医師の難しさを話す。

予定外の急な大量変化やケガ、定期的な体調管理など多い日には10種類以上の動物を診ているという。

ゾウの血液を動物医療センターに持ち帰った志岐さん。早速、ゾウヘルペスウイルスが血中に出ているかどうかを調べる検査に取り掛かる。

ゾウヘルペスは最近、世界的に知られるようになったウイルスで、福岡市動物園では、2025年に来演したアジアゾウの『すい』が、ゾウヘルペスウイルスによる急性疾患で死んだ。

提供 福岡市動物園
提供 福岡市動物園

2026年4月には、ゾウヘルペスウイルスの量が分かる高度な検査機器を揃え、週に1回、園内でゾウの血液検査を行っている。

こうした設備が揃うのは、全国の動物園でもここだけだと言う。

ツシマヤマネコの飼育と繁殖

福岡市動物園が力を入れているのが、国の天然記念物ツシマヤマネコの飼育と繁殖だ。

2026年4月、ツシマヤマネコの赤ちゃんが4年ぶりに誕生した。

「難産になった時に帝王切開の可能性もあるので、それに備えた準備をしていた。今回は、自然分娩で母親が自力で生みました」と獣医師の志岐さんは、順調に成長しているツシマヤマネコの赤ちゃんを見ながら嬉しそうに話す。

福岡市動物園では、2000年に国内初の飼育下でのツシマヤマネコの繁殖に成功。

これまでに63頭が生まれていて、国内最多だ。

しかし、「生まれる子供の数も最大3頭まで。少ない時は1頭しか生まれないので、それもなかなか、増えていかない要因の1つ」と福岡市動物園飼育員、斎藤裕樹さんは話す。

志岐さんも「絶滅に瀕している種類の動物なので、私も微力ながらその力になれたら」と福岡市動物園の獣医師として、思いを新たにしていた。

キリンの“爪切り”蹄削りは重労働

動物園の休園日も獣医師は、園内を駆け回る。カートに乗った志岐さんが、この日向かったのは、アミメキリンのいる厩舎。仕事は、人間でいう爪切り。蹄を削る作業『削蹄』だ。

「野生のキリンだと、移動している間に蹄が摩耗して削れていくが、飼育している個体だと運動場の範囲も限られているので、蹄がかなり伸びる。変形してしまうので」と話す志岐さん。

厩舎の中に入った志岐さん。「きょうは、左の前足を削っていきます」とキリンの足を持ち上げようとするが、うまく上がらない。「もう1回!」と飼育員と志岐さんがキリンに話しかけながら、足を上げさせようとする。「嫌だ?上げて」とキリンが足を上げてくれるようトレーニングしているものの、台に乗せるサポートはなかなかの重労働だ。

何度かトライしたものの、この日はキリンと息が合わず。これ以上は無理と判断した志岐さんは、「左の前足を嫌がるので、左の後ろ足にします」と“爪切り”の足を変更。

飼育員が、キリンの足をポンポンと触って合図を送って持ち上げると、キリンは後ろ脚をひょいと持ち上げた。「上手!台に乗せていいよ!上手!」と志岐さんは思わず声をあげ、キリンを褒めた。

「見返りを求めない動物だからこそ、こちらが尽くす。獣医師は、仕事柄、動物に嫌われてしまう立場だが、薬を飲んでくれたとか、それだけでも良かったと思いますし、病気やケガが治れば、猶更良かったと思う」。

獣医師として抱く動物への思い。地元の人に愛される動物たちが健康に、そして快適に過ごせるよう、獣医師は、動物たちに寄り添い続ける。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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