関西に、新たな世界遺産が生まれるかもしれません。
その候補地を取材すると、観光客から「ピンとこない」「感動がない」という声が続出。いったいなぜなのでしょうか。
日本を代表する観光地、古都・奈良。国内外から年間およそ4000万人の観光客が訪れます。奈良と言えば奈良公園や春日大社が有名ですが、いま、別の場所が世界から熱視線を浴びています。
世界遺産になると街はどう変わるのか。期待と課題の両面を徹底取材しました。
■「柱の跡なんて見たってね」現地で観光客が思わず漏らした本音
取材班が訪れたのは、奈良市から車で1時間ほどの明日香村。この村を含む「飛鳥・藤原の宮都」が、京都市の清水寺や兵庫県の姫路城といった世界遺産に肩を並べようとしています。駅には「世界遺産 国内推薦 決定!」の横断幕が大きく掲げられ、地元の期待は最高潮です。
その遺跡のひとつ、隣の橿原市にある「藤原宮跡」に向かうと、そこは広々とした野原で、観光客の姿はほとんどありませんでした。
ようやく出会えた神戸からの観光客に話を聞くと、「実際になんかあればあれやけど、柱の跡なんて見たってね。これ見ただけでは、私らではピンとこないね。感動というのはないけど…」と、戸惑いの声が上がりました。
観光客は「柱しかない」と話しますが、これら宮殿の跡や古墳など19の遺跡で構成する「飛鳥・藤原の宮都」は、世界遺産の有力候補とされています。
■世界遺産登録となれば奈良県では4つ目に
来月、ユネスコの諮問機関イコモスが「登録すべき」と勧告すれば、年内には世界遺産として登録される見通しです。
この動きを後押ししようと、日本維新の会の国会議員は議員連盟を設立。初会合には奈良県知事や明日香村の村長なども参加し、登録実現に向けた機運が高まっています。
世界遺産登録となれば、奈良県では法隆寺地域の仏教建造物などと並び、4つ目となります。
■「日本」という国名が初めて使われた場所
では、世界遺産にふさわしい歴史的な価値とは一体何なのでしょうか。
関西大学の徳田誠志客員教授は、宮内庁職員として30年以上にわたり古墳の発掘などに携わってきた専門家です。
徳田教授は、藤原京について「本格的な、日本で作られた都としては一番最初に作られたもんです」と解説。つまり、「日本という国家の原点」とも言える場所なのです。
およそ1300年前、当時の都・藤原京の宮殿が建てられていたこの場所では、「日本」という国名が初めて使われ、大極殿では天皇が儀式や政治を行っていたとされています。
【関西大学 徳田誠志客員教授】「ここで701年に、『日本という国が完成したんだぞ』という、大きな儀式を701年にやっているんです。日本の始まりの地という場所」
歴史上、重要な意味を持つ一方で、今は何もない原っぱのようにも見えます。しかし徳田教授は、1300年を経ても変わらないこの風景こそが魅力だと話します。
【関西大学 徳田誠志客員教授】「平城京は(周りが)ビルばっかり。ここは本当に千数百年前の人たちが、まあ万葉集に歌を残したような景色が残ってるっていうのが、藤原のいいところだと思いますね」
■「石舞台古墳」は当時の権力者の絶大な力を肌で感じられる場所
また、飛鳥時代の豪族・蘇我馬子の墓といわれる「石舞台古墳」も案内してもらいました。
巨大な石を積み上げて作られた石室の中には実際に入ることができ、「上で狐が踊っていた」という伝説から「石舞台」と名付けられたとも言われています。当時の権力者の絶大な力を肌で感じられる場所です。
■地元は大フィーバー!だが…2019年に世界遺産に登録「百舌鳥・古市古墳群」の厳しい現実
地元からは世界遺産登録への期待の声が聞かれます。
「誇らしくて、喜ばしいことだと思っています。自然がいっぱいあって、清楚な感じがいい」と話す住民や、「便乗しまくってますね」と笑顔を見せる土産物店の店主の姿も。
しかし、関西には世界遺産に登録されながら、経済効果をそこまで得られていない地域もあります。
2019年、仁徳天皇陵を含む49基の古墳群「百舌鳥・古市古墳群」が、大阪で初となる世界遺産に登録されました。登録時にはハニワ課長(現・部長)とともに大きな注目を集め、多くの観光客が押し寄せました。
ところが今では観光客の姿はまばら。堺市によると昨年度の観光客はおよそ27万人と、目標の半分にも達していません。登録から数年で早くも“苦戦”の実態が浮かび上がっています。
■なぜ観光客が増えないのか
なぜ観光客が増えないのか。それは“見えない”ということです。
仁徳天皇陵は全長が500m近くあり、大きすぎるがゆえに地上からはその全容を捉えることができません。木が生い茂り、外からは一見、森のように見えます。
さらに、古墳の中に入るなどの「体験ができない」ことも観光価値を押し下げていると指摘されています。東京からの観光客も「ここって前方後円墳のどこ?」と戸惑いを隠せない様子。
20年近くボランティアでガイドをしてきた堺観光ボランティア協会の西井健さんは、「マニアックな人はいいかと思うんやけど、一般の人に『世界遺産』という割に迫力がない。訴えるもんがない」と率直に語ります。
実は、世界遺産に推薦されている飛鳥・藤原の遺跡も、一部が地中にあり見えないことや、体験が伴わないことなど、共通の課題を抱えているのです。
■「運休率4割」世界遺産を体験することの課題も
こうした課題に対し、堺市は去年から古墳を一望できる気球の運行をスタートさせました。
しかし、強風などで運休することが多く、運休率はおよそ4割にのぼるということです。取材班が訪れた日も「今日は運休になってしまってます」と告げられ、乗れず。
ボランティアガイドの西井さんも「(気球は)半分が飛んでませんからね。難儀なところを私らはご案内させてもらっています」と苦笑いします。
一方、同じ課題を抱える明日香村では現在、仮想空間(VR)などを活用して、遺跡を「見て・体験できる」アプリの開発を進めています。
明日香村役場の木治準宝課長は、「この世界遺産をみんなで大切に守って活かして共存・共栄できるような地域を目指していきたい」と話します。
いよいよ迫る、世界遺産登録への評価結果の発表。
大阪成蹊大学の原田弘之准教授は、「歴史・背景を知ってもらう機会を設けたり、ホテルを開発したりしてリピーターと定住者を増やすことでコアなファンを作るべきだ」と提言しました。
(関西テレビ「newsランナー」 2026年5月27日放送)