5月21日、都内の会場で駐日キューバ大使の講演会が開かれた。決して広くない会場は100人以上の参加者で埋め尽くされた。野球を通じても日本との縁があるキューバ。
人々の関心は今のキューバの人々の窮状。そして気になるのは「次はキューバなのか」だ。
30年前の事件でカストロ元議長を起訴、狙いは体制転換か
アメリカのトランプ政権は5月20日、キューバのラウル・カストロ元国家評議会議長を殺人などの罪で起訴した。アメリカ南部フロリダ州からキューバに向かって飛行していた小型機2機が撃墜され4人が死亡した1996年の事件である。
アメリカ司法省は30年前の事件について、当時、国防大臣だったカストロ元議長の責任を問うたのである。
小型機はキューバから亡命した反体制派が運航。ボートなどで密出国するキューバ人を航空機で探し、アメリカへの亡命を支援していた。
キューバ政府によると、この団体は2年間に渡りキューバの領空を侵犯。アメリカ政府に対して正式抗議を25回したものの、挑発行為は続き、団体のリーダーはフィデル・カストロ氏の暗殺も計画していたという。
つまり、撃墜は「主権防衛」だとの主張だ。

5月21日、アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会(AALA)主催の講演に登壇したヒセラ・ガルシア駐日キューバ大使も、この起訴について「こうしたウソのニュースの拡散はキューバ攻撃の口実づくりのためではないか」と心配する。

キューバメディアは「アメリカ政府の5つのウソ」はプロパガンダだとして批判している。
「宣戦布告だ」アメリカ大使館前で数千人が抗議の声
国の英雄でもあるラウル・カストロ元議長の起訴を受け、キューバの首都ハバナのアメリカ大使館前ではディアスカネル大統領をはじめ、数千人の市民が抗議の声をあげた。

人々は「カストロとともに」と書かれたプラカードや肖像画を掲げ、起訴を非難。ラウル・カストロ氏本人は参加しなかったが、娘のマリエラさんは「誰も私を生きたまま捕らえることは出来ないだろう」との父のメッセージを伝えた。
真っ向から対立する主張 「ドローン300機購入」報道は
キューバとアメリカの主張が真っ向から対立するもう一つの事案について、ガルシア大使に聞いてみた。
アメリカのニュースサイト「アクシオス」は5月17日、キューバが300機以上の軍用ドローンを使用し、アメリカへの攻撃計画を協議していると報じたのである。

ガルシア大使は「この報道はほとんどコメディーだ。誰も信じないだろう」と笑顔で一蹴した。しかし、一転して表情を曇らせ、「こうした報道には注意している。なぜなら他国で起きたことと酷似しているからだ。でまかせを拡散し、攻撃の言い訳にされる。そして後になってウソだと判明したことが過去に何回もある」と、述べた。
そして言葉を慎重に選びながら「決して決して(軍事攻撃が)起きないことを願っているが、キューバ国民は戦う準備をしている。戦い方、何をすべきか知っている」と力強く語った。
キューバの窮状 患者10万人近くの手術が延期に
ガルシア大使によると、過去4カ月間で、キューバに到着した燃料輸送船は1隻のみ。エネルギーの安定供給を維持するためには、キューバでは毎月少なくとも8隻が必要とされている。
現在キューバでは毎日の停電が18時間とも22時間とも言われている。
電力不足はただ「暗い」だけではない。日常生活のあらゆる分野で困難が生じている。水道やごみ収集など、あらゆる公共サービスにも影響が出ている。
食料や医薬品が確保できても、燃料不足のため、必要な場所に輸送できないこともあるという。

中でも深刻なのは医療の分野だ。現在、手術待ちの患者が9万6000人以上おり、その中には1万1000人以上の子供が含まれている。
アメリカによる制裁の中、日本に出来ること
エネルギー不足、そして電力不足が続く中、キューバが力を入れているのは太陽光発電だ。
再生可能エネルギーの普及率は2025年、3%から10%へと上昇。あまり知られていないが、日本政府は2026年5月、UNDP(国連開発計画)を通じて、キューバの病院10カ所の太陽光発電設備、金額にして650万ドル、日本円で10億円相当を贈ると発表した。
しかし、トランプ政権が「キューバと取引する国や企業に対してアメリカへの渡航禁止などの制裁を科す」と脅す中で表だった支援や貿易ができないのが現状だ。
トランプ大統領が描く「アメリカの裏庭」
なぜ、次はキューバなのか。トランプ大統領の頭にあるのはベネズエラでの“成功イメージ”ではないだろうか。アメリカからわずか150kmしか離れていない“裏庭”で反米政権が生き延びることを許さない。そして自分の目的を達成するためには、「軍事攻撃」も辞さない構えだ。
ガルシア大使は時に声を詰まらせながら、講演をこう締めくくった。
「キューバは責任ある行動をとっており、今後もそうし続ける。キューバ国民は、軍事攻撃を含むあらゆる事態に備えているが、そのような危険な行為に乗り出す前に、理性と良識が勝つことを信じている。キューバは思想をもって自らを守る。そして必要な時には武器をもって守る」
【執筆 フジテレビ報道局上席解説委員 中本智代子】
