今、ラテンアメリカがピリピリしている。ベネズエラの大統領は連れ去られ、メキシコやキューバは攻撃に怯える。一体どうなるのか、運命は超大国の一人の指導者に握られている。

駐日キューバ大使の講演会に100人の参加者

日本は国際社会で希有な存在だ。アメリカの同盟国でありながら、アメリカの制裁対象となっているキューバやイランとの関係も悪くない。キューバを観光で訪れる日本人の数も少なくなかった。

しかし、ここ数年、キューバの国内事情は悪化の一途だ。アメリカの経済制裁により、燃料不足が深刻化し、停電も頻発。キューバ向けの航空路線も制限され、キューバの主な収入源の一つである観光客が激減した。

キューバのヒセラ・ガルシア駐日大使
キューバのヒセラ・ガルシア駐日大使
この記事の画像(6枚)

こうした状況を受け、ヒセラ・ガルシア駐日キューバ大使がオンラインで講演会を開催した。制限人数100人に近い96人が参加、関心の高さがうかがえた。

参加者の中には駐日ベネズエラ大使も

参加者の1人が、セイコウ・イシカワ駐日ベネズエラ大使だ。

1月3日に本国が奇襲を受け、大統領が連れ去られて以降、都内の大学で講演したり、記者会見を開き、アメリカの行為を「狂気の状態」と非難し続け、大統領の解放を訴えている。

講演会に参加したベネズエラのイシカワ駐日大使
講演会に参加したベネズエラのイシカワ駐日大使

しかし、今はベネズエラよりキューバの方が危機的な状況にあると筆者は感じている。ベネズエラに加え、メキシコからの石油の援助もアメリカに寸断された。その結果、現在は国が必要としている供給燃料の30~40%しか確保出来ず、国民生活は大きなダメージを受けていると、キューバ大使は明らかにした。

特に医療への影響は深刻な状況だ。透析のため、病院に通わなくてはならないのに、ガソリンがないため車を動かせず、やむを得ず入院する患者もいるという。それでもトランプ政権は制裁の手を緩めるどころか、キューバに燃料を輸出する国に対して追加関税を課すと脅しをかける。

アメリカ船籍の高速艇との銃撃戦で一触即発も

こうした中、キューバ内務省は2月25日、領海に侵入したアメリカ・フロリダ州登録の高速艇とキューバの国境警備隊の間で銃撃戦が発生し、高速艇の乗組員4人が死亡したと発表したのだ。

キューバの国境警備艇(キューバ内務省のHPより)
キューバの国境警備艇(キューバ内務省のHPより)

「アメリカによるキューバ攻撃が始まるのではないか」そんな考えがよぎった。現時点で、高速艇に乗っていた10人はアメリカ在住のキューバ人で、国内でテロを計画していたと、キューバ政府は発表し、トランプ政権は声明や見解を発表していない。

「銃撃はアメリカに攻撃の口実を与えてしまうのでは?」と聞いてみた。キューバ大使はその問いに毅然として「われわれの国、領土、主権は守りきる」と言い切った。

アメリカはWBCのキューバ代表チーム8人のビザ発給を拒否

大使はアメリカの対キューバ政策について「これらの措置の目的は、キューバ国民に最大限の損害を与え、集団的処罰という形でキューバ経済を窒息させ、体制転換を引き起こすことだ」と分析する。その一つの手段がビザ発給の拒否だ。

3月に始まる野球のWBC(ワールドベースボールクラシック)のキューバ代表の団長やピッチングコーチなど、8人のビザが発給されなかったのだ。選手のビザは全員分発給されたものの、キューバチームは3月6日からアメリカ自治領のプエルトリコで1次ラウンドを戦うにあたって「他チームに比べて相当不利な戦いになる」と、野球連盟は訴える。これについてキューバ大使は「(ビザ発給拒否は)反キューバの手段になっている。平和を望むスポーツ精神に反している。恥ずべき行為だ」と憤る。

キューバは崩壊していない。キューバは戦い続け、抵抗し続ける

筆者が訪れた10年前のキューバは、人の優しさと温かみにあふれる素敵な国だった。医療は全国民に無料で提供され、配給物資は決して豊かではなかったが、カフェのテラスは世界からの観光客でいっぱいだった。人々はたまに発生する停電にも慣れっこで、レストランのテーブルにはろうそくが必ず備えられていた。

キューバ・ハバナにて。筆者撮影
キューバ・ハバナにて。筆者撮影

キューバ大使は講演をこう締めくくった。「キューバは“崩壊”しておらず、今後も崩壊することはありません。私たちは、冷静かつ断固として抵抗し、主権と自らの運命を決定する権利を擁護する道を探求し続けます」。

あの美味しいモヒートをまた味わいたい。
(フジテレビ 報道局 解説副委員長 中本智代子)

中本智代子
中本智代子

フジテレビ報道局 上席解説委員
チリ生まれ メキシコ・スペイン育ち。妹弟とのケンカはスペイン語。
2010年から4年間ニューヨーク特派員。ペルー日本大使公邸占拠事件(1996年)やチリ鉱山落盤事故(2010年)などを取材。フィリピン・ドゥテルテ大統領、アウンサンスーチー氏インタビューなど。
名古屋は行ったことないがドラゴンズファン。日本史と日本地図は苦手。