日本列島が「サムライブルー」に染まる中、3カ月余りにわたって続くアメリカとイランの戦闘が大きな節目を迎えた。
仲介国・パキスタンは、両国が戦闘終結に向けた「覚書」に合意したと発表したのである。
日本の株価は一気に上昇。世界には安堵(あんど)感が走った。
しかし、これは通過点に過ぎない。
なぜなら、「ホルムズ海峡」と「イランの核開発」という2つの難関が解決されていないのだ。
今回の「覚書」の合意は、戦争終結のための和平合意というよりも、核問題を話し合うためのスタートラインと言える。

時系列で見てみよう(トランプ風に)。
6月11日(木) 大統領はオオカミ少年?
トランプ大統領は執務室で笑顔を見せていた。
そして記者団を前に、「イランとのグレートな合意をまとめた。数日以内に調整作業が完了する」と明言した。
この時点で、CNNテレビによると、トランプ大統領は2月の戦闘開始後、38回にわたって「合意間近」と発言あるいは投稿している。
記者の1人が「これまでに何度も合意間近と聞いた。今回こそ実現するとの確信はあるのか?」と厳しく突っ込むと、「間近だと確信している。今週末かもしれない(I’m pretty confident it will be soon…may be this weekend)」と、答えたが、具体的な理由は明かさなかった。
この時、すでにトランプ大統領は自身の80歳“バースデー合意”を思い描いていたのだろう。
しかし、事態は一転する。
6月14日(日) トランプ大統領、80歳の誕生日
イスラエル軍が、レバノンの首都ベイルート近郊にあるヒズボラの拠点を空爆した。
トランプ大統領自身がFOXニュースのインタビューで、イスラエルを名指しして非難した。
イスラエルのネタニヤフ首相に対して直接電話で「いったい何をしてくれたんだ!("What the f--- are you doing?")」と声を荒らげたという。
さらに、トランプ大統領はニュースサイト・アクシオスの取材に対し、イスラエルによる空爆は「署名の1時間前だった」、「信じられなかった」と述べ、ネタニヤフ首相を「判断力がない」とののしった。
同じく6月14日(日) 交渉崩壊の危機、一触即発に
イラン国家安全保障委員会のアジジ委員長は「報復」を宣言する。
「本日、ベイルートでイスラエルが犯した犯罪は、アメリカがこの非合法な政権を制御できず、弱く、信頼に値しない国であることをあらためて証明した。 大きな報復が迫っている」と、怒りをあらわにしたのだ。
イランの最高指導者の顧問も「忍耐は限界に達し、命令が下された。決着の時が到来し、発射準備が進められている」と明らかにした。「覚書」の合意が頓挫しかけた瞬間だった。

トランプ大統領は、これ以上、アメリカ兵の犠牲が出た場合には停戦を破棄し、大規模攻撃を再開すると公言している。
「合意」に向けた交渉はまさに綱渡り状態だった。
日本時間6月15日午前6時すぎ 「合意まとまる」の一報
仲介国・パキスタンのシャリフ首相が「和平合意が成立した」とSNSに投稿した。
シャリフ氏は前々日と前日にも「合意文書がまとまった」、「24時間以内に合意」と期待をにじませ、水面下での調整力を発揮した。
この投稿は、サッカー・ワールドカップの日本代表の初戦、対オランダ戦の前半が終わったころ。
アメリカ東部時間では14日午後5時。その3時間後にはトランプ大統領肝いりの格闘技イベントが史上初めてホワイトハウスの敷地内のリングで始まるというタイミングだった。
その後、トランプ大統領とイランの外務次官も相次いで「合意が成立。19日に署名式が行われる」と発表した。

しかし、その内容には大きな違いがある。
トランプ大統領が「ホルムズ海峡の通航料なしの全面的な開放」を宣言したのに対し、イラン側は「この覚書は敵への信頼を意味するものではなく、不信の中で書かれたものである。アメリカの義務履行を監視する」と、あくまで“通過点”だと強調している。
終わりの見えない戦闘 残る火種は
今回の戦闘終結の最大の課題となっている「ホルムズ海峡」と「イランの核開発」。
前者については「機雷の除去が進めば解放される」とはいうものの、具体的な方法や時期は明記されていない。
アメリカメディアからは、「海峡の完全な再開はすぐには実現しない可能性がある。機雷の除去、インフラの修復、安全保障の確保には時間がかかり、戦前の輸送量への完全な回復には時間がかかるだろう」との見方も出ている。
「イランの核開発」にいたっては、「今後60日間で協議する」と問題を先送りしたに過ぎない。
さらにイスラエルは、ヒズボラとの対立は合意とは「別問題」と主張している。
トランプ大統領の盟友・グラム上院議員(共和党)は「イラン側の合意内容が、アメリカの交渉団の主張と異なっているように見える点を少し懸念している」と投稿している。
さらに、アメリカやイスラエルの一部の強硬派からは、最終合意が永遠に成立せず、核問題が未解決のまま戦争が終わってしまうのではないかとの懸念の声も上がる。
合意成立はバースデープレゼント? ピリピリした神経戦の結果は
トランプ大統領は戦闘開始当初、「完全降伏以外の合意はない」と、イランに対し、まったく譲歩しない強気の姿勢を示していた。しかし、ふたを開けてみれば、レッドラインとしてきた「核問題」があいまいなまま先送りされ、妥協の産物でお茶を濁したようにも見える。

アメリカメディアは、イラン側がトランプ大統領の誕生日の“贈り物”とならないよう、交渉を長引かせ、日付をまたがせたと伝えている。
イランの外務次官も「日曜日に14時間にわたって話し合いが続いた」と明らかにしている。
アメリカ時間では誕生日の14日に間に合ったトランプ大統領は、発表の3時間後後から格闘技を観戦し、フランス・エビアンに向けて大統領専用機に乗り込んだ。
時計はアメリカ東部時間15日午前3時を回っていた。
