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プレスリリース配信元:文化庁

 独立行政法人国立科学博物館(館長:真鍋 真)は、当館の総合研究「過去150年の都市環境における生物相変遷に関する研究―皇居を中心とした都心での収集標本の解析」の一環として、2021年9月から2026年3月まで実施した「皇居生物相調査(第III期)」の成果を取りまとめ、国立科学博物館専報第53号「皇居生物相調査(第III期):植物・菌類・藻類・シアノバクテリア」および第54号「皇居生物相調査(第III期).動物相」を2026年3月末に刊行しました。
 さらに、これらの生物相に関する「皇居の生きものデータベース」をこの度公開することとなりました。本プレスリリースは、このデータベースの公開に合わせ、報告書に取りまとめた第III期調査の主な成果をお知らせするものです。
 本研究では、皇居の生物相を幅広く把握するとともに、シアノバクテリアの新種1種、日本新産種として地衣類8種、菌類13種、寄生蠕虫2種が確認されたほか、外来種、絶滅危惧種、環境変化に伴う分布や開花期の変化などが明らかにされました。
 当館がこれまで実施してきた30年間にわたる第I期から第III期までの調査・研究および文献で確認された種数を合計すると、皇居で確認された生物は累計7,982種に達しました。この記録は都心の大規模緑地における多様性としては極めて高いものであり、人為的影響が比較的少なく保たれてきた皇居の多様な自然環境に加え、多分野の研究者による継続的な調査によって明らかになったものです。

 皇居は、東京という高度に都市化された環境の中心部に位置する数少ない大規模緑地の一つです。昭和天皇の「できるだけ自然のままに」というご意向のもと、戦前より人為的改変や攪乱が比較的少ない状態で管理が続けられてきました。皇居内には森林や草地、石垣に加え、濠、池、小川などの水域が存在し、陸域と水域が連続した多様な環境が形成されています(図1, 2)。

図1.植物分野の皇居内調査環境.A. 道灌濠.B. 大滝.C. 吹上御苑の梅林.D. 半蔵門付近の石垣.E. 上道灌濠付近の常緑広葉樹林.F. 吹上御苑の落葉広葉樹林.G. 乾通り.H. 東御苑(黄花の植物は外来種のコセンダングサ)。


図2.皇居内の多様な動物相調査環境.A,昆虫の調査環境1(覆馬場跡);B,同左2(大滝);C,同左3(旧プール);D,同左4(中道灌濠);E,クマムシ類の調査環境(大木の樹幹基部のコケを採取);F,魚類の調査環境(乾濠)。

 皇居生物相調査は、「皇居内の生物について正確な記録を残し、その後の経年変化などを把握することが望ましい」と願われた上皇陛下のお気持ちを発端として始まりました。これを受けて、国立科学博物館は1996年(平成8年)から5カ年かけて詳細な生物調査(第I期)を実施し、2000年(平成12年)12月に調査結果がとりまとめられました。その後の動物相に関する追跡調査結果が2006年(平成18年)3月に公表され、さらに2009年5月から開始された第II期調査の結果が2014年(平成26年)3月に公表されました。第II期調査終了時には5,903種(植物分野1,616種、動物相4,287種)が明らかにされました(注釈:変種や品種などの分類群を便宜的に「種」と表記)。
 第III期調査では、宮内庁の協力のもと環境の変化に伴う皇居の生物相の変化の把握、外来種の侵入状況の確認、DNA情報を用いた比較解析などを目的とし、新種、日本新産種、絶滅危惧種などを含む植物分野619種、動物相1,559種、あわせて2,178種が確認されました。これらのうち第III期調査で新たに確認されたのは552種でした(新規採集品および未同定の収蔵標本の新規同定を含む)。第I期からの累積確認数に文献で確認された種数を合計すると、植物分野2,637種、動物相5,345種となり、皇居で確認された生物は計7,982種に達しました。また、他地域で未確認だった種内系統群や特徴的な群集構造の検出、都市温暖化に伴う生物の季節活動や分布の変化の検出など、多様な知見が得られました。

 植物分野では、外来植物、水生植物、コケ植物、大型藻類、微細藻類、地衣類、菌類、不完全菌類、送粉ネットワーク、開花調査分析の10班に分かれ、皇居内の森林、草地、石垣、濠、池、小川など多様な陸域・水域環境を対象に調査を行いました。今回の調査では、外来植物17種、水生維管束植物37種、コケ植物117種、大型藻類9種、微細藻類56種、地衣類関連110種、菌類277種が確認されました。とくに、シアノバクテリアの新種オスキラトリア・インペリアリスOscillatoria imperialis(図3)が記載されたほか、地衣類8種、菌類13種(コウヤクタケ類、ケカビ類、変形菌類を含む)など複数の日本新産種が確認され、皇居が都心に残された生物多様性の重要な保全拠点であることが改めて示されました。

図3. 皇居で見つかったシアノバクテリアの新種オスキラトリア・インペリアリス.

 また、植物群集や生態系の変化を示す成果も得られました。外来植物では、近年国内で分布を広げている種や特定外来生物が含まれ、都市域における生物相の変化と保全管理上の課題が示されました。水生植物や大型藻類では、環境省または東京都のレッドリストに掲載されている保全上重要な個体群と評価できる種が含まれていました(クロモ、ミゾハコベ、イトトリゲモ、ツツイトモ、ミズキンバイ、イシカワモズク、タンスイベニマダラ、シャジクモなど)。コケ植物は累計149種となり、皇居が東京都心部で豊かなコケ植物相を有していることが明らかになりました(うち、ヤワラゼニゴケとイチョウウキゴケは環境省レッドリスト掲載種)。さらに、ハナアブ類に付着した花粉のDNA解析からは、皇居内の緑地環境の違いが送粉ネットワークに反映されることが示されました。開花調査分析では、宮内庁庭園課が2010年7月から2025年8月まで継続して記録した239種の開花データを解析した結果、多くの分類群で開花開始日の有意な早期化が認められました。とくに春咲き植物では気温との強い関係が示され、皇居周辺ではこの15年間に年平均気温が約1.0℃上昇していることから、都市温暖化が生物季節に影響していることが示唆されました。さらに、大気環境の変化に敏感とされる地衣類では個体群の消失や衰退も確認され、その背景として気温上昇や少雨の影響が考えられました(図4)。
 

図4.地衣類個体群の消失・衰退.A. 上道灌濠で生葉上地衣類を2022年5月20日まで確認.B. 2025年12月25日には濠が干上がっており生葉上地衣類は消失していた.C. 2009年12月3日にトウカエデ樹幹に広がっていたロウソクゴケ群落.D. 2025年4月30日時点でロウソクゴケ群落は壊滅的に衰退した。気温上昇や少雨が影響したと考えられる。

 動物相では、クマムシ類、カニムシ類、クモ類、トンボ類、甲虫類、チョウ・ガ類、ハチ・ハエ類、貝類、魚類、鳥類、両生・爬虫類、寄生蠕虫について調査を行い、多数の皇居新記録種が確認されました。トンボ類では37種が確認され、タイワンウチワヤンマおよびホソミイトトンボが皇居初記録となり、両種ともに分布域の大幅な北上と気候変動の関係が示唆されています(図5)。また、皇居内ではアオヤンマをはじめとして、ベニイトトンボやコサナエといったさまざまな絶滅危惧種のトンボたちが第III期調査でも確認されています。

図5.気候変動と分布域の北上との関係が示唆されるタイワンウチワヤンマ(上).これまでの記録との比較から第II期調査の終了後、皇居内へ新たに侵入したと考えられる。アオヤンマ(下)などの絶滅危惧種が今期の調査でも確認されている。(写真:宮内庁提供)。


図6.外来種の可能性のある新たに見つかった甲虫の例.左より、ベダリアテントウ、ラミーカミキリ、メリケントビハムシ。

 甲虫では新たに199種が記録され、そのうち9種は外来種の可能性が示唆されました(図6)。その結果、皇居で確認された甲虫は1,122種に達しました。カブトムシ、クワガタムシなど大型コガネムシ類9種についても詳しい調査を行いました。水生甲虫は総体的に減少しています。チョウ・ガでは、新たに58種が追加され、チョウ類59種、ガ類1,019種が確認され、温暖化に伴う南方系種の増加や過去記録種の減少や消失が確認されました。ハチ・ハエ類では、新たに虫こぶ形成昆虫であるタマバチ科や今回初めて調査が行われたヌカカ科などの28種が記録されました。これには環境省レッドリスト掲載種であるキバラハキリバチ(ハキリバチ科)や東京都初記録となるシリボソクロバチ科4種も含まれます。魚類では、初めて環境DNA解析を併用した調査により皇居内苑で15種が確認され、過去に記録のあったメダカは特定外来生物カダヤシに置き換わった可能性が示されました。また、上道灌濠でギンブナが確認されないなど、水量減少・堆積・陸地化に伴う魚類相の変化も示唆されました。鳥類では、エナガとウグイスの遺伝解析により、都心緑地の繁殖集団が周辺地域とつながりを持ちながら維持されている可能性が示されました。また、オオタカとフクロウの繁殖状況から、皇居を含む都心緑地が大型鳥類の重要な繁殖地であることが確認されました。両生類・爬虫類では、在来両生類であるアズマヒキガエルの著しい減少が確認され、外来種ウシガエルの影響が示唆されました(図7)。陸生および淡水生の生物の寄生虫について調査し、皇居初記録種を含む55種を確認し、多様な動物を中間宿主とするEustrongylides sp.なども確認されました(図8)。クモ類では、セアカゴケグモを含む外来種4種も新たに確認されました(現時点での定着の有無については種ごとに異なります)。その他、クマムシ類、カニムシ類、貝類についても過去には記録されていない種の発見など、新たな知見を加えています。

図7.(A)東御苑二の丸雑木林で撮影されたアズマヒキガエルのペア(2013年3月7日,宮内庁提供).(B)上道灌濠で捕獲されたアズマヒキガエルの幼体(2025年7月9日).(C)北の丸公園の池のアズマヒキガエル幼生の群れ(2023年4月14日).(D)北の丸公園の倒木の下で見つかったアズマヒキガエル幼体(2023年4月14日).(E)東御苑二の丸池のウシガエル(2022年10月11日).(F)夜に吹上大宮御所のプールサイドに並ぶウシガエル(点線内)(2022年10月11日)。


図8.Eustrongylides sp.A.カダヤシの腹腔に寄生.B.スッポンの胃に寄生。

 さらに、皇居および周辺地域で収集・蓄積されてきた標本資料や調査データを活用し、「皇居の生きものデータベース」を公開します(図9)。本データベースでは、第I期から第III期までに確認された生物を検索することができ、皇居の生物多様性の全体像とその変遷を把握するための基盤として、広くご利用いただけます。なお、一部の分類群については第III期分が未入力であり、順次更新予定です。

図9.皇居の生きものデータベース.

 第III期調査は、国立科学博物館の総合研究「過去150年の都市環境における生物相変遷に関する研究」の一環でもあり、過去標本と現在の調査結果を結びつける基盤としても位置づけられます。皇居は、東京という高度に都市化された環境の中心部にありながら、長期にわたり人為的改変が比較的少なく維持されてきた大規模緑地であり、今回の成果は、皇居が都心における重要な生物多様性の拠点であることを改めて示しました。長期かつ標準化された継続調査により、都市環境における生物相の変化を実証的に把握できることも、本調査の大きな意義です。
<参考情報>
国立科学博物館専報 第53号
皇居生物相調査(第III期):植物・菌類・藻類・シアノバクテリア
https://www.kahaku.go.jp/kenkyu/gakujutsu/memoir/v53.html
国立科学博物館専報 第54号
皇居生物相調査(第III期).動物相
https://www.kahaku.go.jp/kenkyu/gakujutsu/memoir/v54.html
皇居の生きものデータベース
https://www.kahaku.go.jp/research/activities/project/kokyo/

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