プレスリリース配信元:国立大学法人千葉大学
千葉大学環境リモートセンシング研究センターの竹内望教授を含む、ポーランド、イギリス、カナダ、イタリアなどの国際研究チームは、世界各地の氷河(注1)表面に存在する暗色の堆積物「クリオコナイト(注2、参考文献)」に含まれる水銀(Hg)濃度を調査しました。その結果、クリオコナイトが高濃度に濃縮された水銀の貯蔵庫として機能しており、一部の地域では深刻な汚染レベルに達していることを突き止めました。この発見は、地球温暖化による氷河の融解が下流域の水銀汚染という新たなリスクをもたらす可能性を示しており、包括的な流域監視の必要性を提起しています。
本研究成果は、2026年5月9日、環境科学の国際学術誌Journal of Hazardous Materialsに掲載されました。
(論文はこちら:10.1016/j.jhazmat.2026.142346)

図1 水銀が検出された世界各地の調査対象氷河の位置
図2 北半球と南半球の氷河のクリオコナイトにおける水銀濃度の比較
■研究の背景
水銀は最も毒性の高い元素の一つであり、神経系や免疫系に深刻な被害を及ぼします。現在、地球温暖化で世界中の氷河が急速に融解している中、これまで氷河が保持する水銀量や将来の放出量の実態は不明な点が多くありました。そこで本研究チームは、大気中から降下した汚染物質を効率よく吸着する特性を持つクリオコナイトに注目し、世界規模の調査を実施しました。
■研究成果のポイント
研究チームは、両半球の39の氷河から収集した計130サンプルと既存データを合わせた計48の氷河の分析により、以下を明らかにしました。
1.クリオコナイトにおける高濃度蓄積:調査した48の氷河(図1)すべてにおいて水銀が検出されました。特にクリオコナイトに含まれる水銀濃度は、周辺の土壌や河川の堆積物より10%以上高く、氷河生態系における強力な「汚染物質のトラップ」として機能していることが明らかになりました。
2.南北半球での顕著な差:北半球の氷河は平均して南半球よりも高い汚染レベルを示しました(図2)。特にノルウェーのニガーズ氷河(最大約0.96 ppm)やアラスカ、欧州アルプスの氷河で高い値を記録しました。これは、北半球における過去および現在の産業活動(石炭燃焼、採掘など)を反映していると考えられます。
3.雪氷微生物(雪氷藻類)への蓄積と環境リスクの懸念:グリーンランドの氷河では、雪を赤く染める「雪氷藻類」からもクリオコナイトと同程度の水銀が検出され、氷河上で繁殖する微生物への取り込みが進んでいることが初めて示されました。温暖化による氷河融解が進む中、これら微生物やクリオコナイトに蓄積された水銀が下流へと流出し、将来的に地域の生態系や人類へ悪影響を及ぼすリスクが懸念されます。
■今後の展望
本研究により、これまで見過ごされてきた「クリオコナイト」が、地球規模の水銀循環において極めて重要な役割を果たしていることが実証されました。温暖化によって氷河の融解が加速すると、これらのホットスポットに蓄積された高濃度の水銀が一気に下流の河川や海洋へと流出し、魚類などを通じて最終的に人間の健康に影響を及ぼすリスクがあります。今後水俣条約に基づく国際的な水銀管理の重要性を再認識させるとともに、急速に変化する極地・高山環境のモニタリングに対し新たな視点の提供が期待されます。
■用語解説
注1)氷河:極地や高山域に降る雪が、数千年から数万年かけて堆積することで形成される流動する巨大な雪と氷の塊。氷河には雪以外にも、大気を介して供給される鉱物粒子や人為的汚染物質も堆積する。氷河に堆積した物質は、氷河内に取り込まれたあと数百年から数万年の間冷凍で保存され、氷河の融解とともに濃縮されたり、氷河外へ融解水とともに排出されたりする。
注2)クリオコナイト: 氷河表面で繁殖する微生物と風で運ばれた有機物や鉱物粒子からなる暗色の集合体。通常は直径2ミリ程度の粒状の構造をもち、氷河上にできた氷の穴(クリオコナイトホール)の底などに溜まる。太陽光を吸収しやすいため、氷河の融解を促進する一因にもなる。クリオコナイトに含まれる有機物成分が、水銀などの金属イオンを吸着すると考えられている。
■参考文献
2025年12月9日公開プレスリース『グリーンランド氷床に広く分布する小さな水たまりと微生物の関係を解明~氷上の生命のホットスポットが氷床の融解を左右する~』
■論文情報
タイトル:Worldwide accumulation of atmospheric mercury in glacial cryoconite
著 者:Edyta Łokas, Agnieszka Pasieka, Caroline Clason, Philip N. Owens, Przemysław Niedzielski, Aleksandra Proch, Nozomu Takeuchi, Roberto Ambrosini, Krzysztof Zawierucha, Giovanni Baccolo, Dylan Beard, Jacob Clement Yde, Kamil Wojciechowski, Kamil Brudecki
雑誌名:Journal of Hazardous Materials
DOI:10.1016/j.jhazmat.2026.142346
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