北九州市が2026年度、全国に先駆けて立ち上げたのが『推し活』を支援するというユニークな部署。高齢化も不景気もはね退ける『推し活』のエネルギーを、街のにぎわい作りにつなげようと新たな取り組みをスタートさせた。
『推し活』全力で“おもてなし”
舞台は、Jリーグ『ギラヴァンツ北九州』のホーム『ミクニワールドスタジアム北九州』。この日行われた『ロアッソ熊本』との1戦の前に、ある“異変”が起きていた。

「記念写真撮りましょうか?ご来場の記念で」と来場客に声をかけているのは北九州市の職員。赤いユニフォーム姿の『ロアッソ熊本』サポーターへのサービスだ。入口に掲げられた看板には大きく『大歓迎』の文字も並んでいる。

「アウェーのサポーターを街全体で大歓迎する。大切なゲストとしてお迎えするキャンペーンです」と話すのは、『推し課』の課長、立川直也さん。このイベントを仕掛けたのは、2026年4月に全国で初めて北九州市に誕生した部署、『〇〇推し課』(おしか)なのだ。

課を立ち上げたキックオフミーティングには北九州市の武内和久市長も出席。「何かが好き、誰かが好きという気持ちを都市の活力に変換していく。

これが私たち『推し課』のミッションになっていきます。街を元気に、新しい産業や人の繋がりを作るチャレンジをしていきましょう」とスタッフを激励した。
目指すは“推し”に日本一優しい街
『〇〇推し課』は、アイドルやスポーツチームなどを応援する“推し活”のエネルギーを、街のにぎわいにつなげようと新設された。

狙いはコンサートやスポーツ観戦で北九州市を訪れたファンに市内で宿泊や飲食を楽しんでもらうことだ。

市長と共に集合写真に笑顔でおさまる5人。

『○○推し課』は様々な部署から集められた“精鋭”5人でスタートしたが、配属を伝えられた際には全員が驚いたという。「急な内示だったので、正直びっくり。市民の皆さんに喜んでもらえる事ができるのかなと期待しながら異動してきました」と笑顔で話す小倉成美さん。

市長肝入りの新しい課を任された課長の立川直也さんは、3月まで秘書課に勤務。

“推し”は、娘さんの影響で女性7人組ヒップホップグループの『XG』と、若者のトレンドにも敏感だ。

「北九州市で『推し活』イベントをやると、ここまで街全体が歓迎するムードになるんだ。こういった広がりがあるんだというのを伝えていかないといけない」と立川さんは部下と仕事のイメージの共有を図る。

今後は、ライブやイベント後にファン同士が交流できる“アフターミーティング”の場づくりやコラボグッズの開発なども検討しているという。「北九州市が“推し”に対して、日本一優しい街だなと感じてもらえるような取り組みを進めたい」。

約4兆円の『推し活市場』を狙え
そもそも行政が、なぜ、業務として『推し活』支援をするのか?その背景には、『推し活市場』の拡大がある。民間の『推し活総研』の調査によると、『推し活』の市場規模は約4.1兆円。

なんらかの『推し活』をしている人の数、“推し活人口”は、全国で約1940万人にものぼるという。

さらに『推し活』に使う金額は、1人当たり年間平均で約20万円とされ、高齢化や物価高で節約傾向が続く中でも、“推し”には出費を惜しまない傾向が浮き彫りになった。

街で、男性グループ『THE RAMPAGE』のファンだという女性に話を聞くと、「多い時で、年間200万ぐらい使う時もある。メンバーとしゃべれるイベントもあって、CDを何十枚と一度に買ったりするので…」とサラリと話す。多くの人が、口々に“人生の生き甲斐”と話す『推し活』への“必要経費”は、かなり大きそうだ。

北九州市はこうした『推し活』との相性が抜群だと立川さんは分析する。「九州最大の北九州ポップカルチャーフェスティバルを毎年開催しているし、全国的にも“映画の街”として有名。

『漫画ミュージアム』等もあるので、そもそも『推し活』の土壌が北九州市にはあると感じている」と胸を張る。
そんな『○○推し課』が第1弾プロジェクトとして打ち出したのが、アウェーのサポーターを歓迎する『おもてなしキャンペーン』。

JR小倉駅から『ミクニワールドスタジアム』までのサイネージや看板には、『ロアッソ熊本』サポーターへの歓迎メッセージがずらりと並んでいた。

立川さんは「スポーツにスポットを当てました。数千人が1度に北九州に来てくれる。『また来たい』と思ってもらえる機会を作ることができると思う」とプロジェクトの狙いを語る。

「ハイチーズ!もっと、にっこり。ハイチーズ!オッケーです」。『推し課』の職員たちは記念撮影を手伝うなど、文字通り『おしもてなし』で精一杯ファンを歓迎する。

これには、ロアッソのファンも「『ロアッソさんの歓迎』と書いていて、うれしかった。でも勝負は勝負。それとこれとは別だから」と明るい笑顔を見せた。

この日の試合は2対1で『ロアッソ熊本』が勝利。しかし、職員たちの仕事は、試合後も続く。小倉駅周辺では両チームのサポーターが割引などのサービスを受けられる企画を実施していて、帰宅途中のファンでにぎわっていた。『推し課』が市内52店舗から協賛を募っていたのだ。

「本当はすぐ帰るつもりだったがキャンペーンがあるから、じゃあ祝勝会やろうと」「昼ご飯もキャンペーンの店に来ました。夕飯も絶対ここに来てこれ食べようって」と利用者の反応は上々。見事、『推し課』の狙いがあたった形だ。

「キャンペーンを知って来てくれた人がたくさんいたので、すごくうれしいですね」と手応えを感じた課長の立川さん。「何かを応援する力というのは街を元気にできると考えている。北九州市は『ものづくりの街』として非常に有名だが、『新たなコンテンツ・新たな物語が生まれる街』というものも目指していきたい」と取り組みへの思いを新たにしていた。

全国で初めて行政が『推し活』支援を仕事として掲げた北九州市。5年後を目途にコンテンツ産業誘致やクリエイター育成にもつなげたいと新たな挑戦を進めている。
(テレビ西日本)
