斜面の一部が剥き出しになっている山が、福岡市にある。崩落なのか?それとも造成工事なのか?その理由については、さまざまな憶測を呼んでいるが、取材すると或る計画が進められているのが分かった。その計画とは…。
「京都の“大文字焼き”みたい」
「あれじゃないですかね?」。福岡市西区の飯盛山の中腹に茶色く大きな穴が開いたような空間。その周囲は緑で覆われているが、その一角だけ木がなくなっている。遠目には崩落や造成工事のようにも見えるが、メガソーラーパネルや重機の往来など、建設の痕跡は見当たらない。

地元の人たちに聞いてみると「全然、気づかなかった。何ですか?あれ」(男性)。「京都の“大文字焼き”みたいな感じ」(女性)と殆どの人は、知らなかった。

なぜあの部分だけ木がなくなっているのか?福岡市の担当者に問い合わせると現場を案内してくれることになった。メガソーラーの建設?土砂災害?さまざまな憶測が広がるが、果たして?

山道を走り、ようやく空が見える開けた場所に辿り着いた。「このあたりが伐採した現場です」と福岡市の担当者。この山林は、個人の所有だが、福岡市が代わりに管理しているという。

案内してくれた福岡市森づくり推進課の雪野智行・課長によると「ヒノキが9千本くらい、スギが千本くらい」と1万本もの木を伐採したという。

しかし、なぜそれほど多くの木を伐採したのか?それは、ズバリ花粉症対策。花粉症の原因となるスギとヒノキを切っていたのだ。
国民の約4割が悩まされている花粉症
国民の約4割が悩まされているという花粉症。国も3年前から対策に力を入れていて、スギの人工林を10年で2割、30年で半分、減らすことを目指している。

戦後、荒廃した山林の復旧や木材需要の増大などに対応するため、盛んに植えられたスギとヒノキ。それが大きく成長し今、花粉を大量に放出しているのだ。

福岡市では国の対策よりも早く2019年から伐採を行っている。これまでに切った面積は、福岡PayPayドームの4つ分、約30ヘクタールにのぼる。

かなり広い面積だが、雪野課長によると「今、市内のスギ、ヒノキは4900ヘクタールあります。920ヘクタールを今後、伐採して植え替えをしていこうと取り組んでいる」という。

伐採が終わったのは920ヘクタールのうちの30ヘクタール。目標の3%ほどにしか過ぎない。もっと早く切って欲しいと望む花粉症の人も多いと思われるが、簡単なことではなく大きな課題が2つあるという。
課題は“高齢化”と“価格低下”
1つ目は林業の従事者の減少だ。

実際にこの場所を伐採した福岡県広域森林組合の高田羽さんによると「人は足りていないですね、間違いなく。やっぱり高齢化もありますし、新しい人はどんどん、どんどん欲しいとは思います。1人前になるまでにやっぱり5年、10年かかる仕事なんで」と話す。

林業従事者は現在、全国で4万4千人ほど。この40年で3分の1に減少した。しかも65歳以上の割合が25%にも達しているのだ。

そして、2つ目の課題は木材の価格低迷だ。

ヒノキは、ピークだった1980年頃には1本8万円近くしていたが、この20年ほどはピーク時の3割ほどの価格に落ちている。しかもアメリカから輸入されるものよりも安いという逆転現象が起きているのだ。

出荷しても赤字になる恐れがあり、伐採に踏み切れないというのが現状だ。この状況をなんとかしようと福岡市では、需要を生み出す取り組みを始めている。

東区のアイランドシティにある『照葉はばたき公民館』。2025年にオープンしたこの公民館には、市内産の木材がふんだんに使用されている。

公民館の松尾栄太館長は「まだ新しいので、木の匂いが残っていて、たくさんの方が利用してくれています。やっぱり温かみですね、大きいのは」と木の温もりを感じると話す。

東京の国立競技場や大阪の関西万博の大屋根リング、そして福岡市天神に建築中の高層ビルでも材料として木材が使用されていて、需要は今後、伸びる可能性もある。
大雨が降ったときに土砂崩れは?
一方、土砂災害を防ぎ、保水機能を保つ山林。市民からは、大雨が降ったときに土砂崩れは?と山の木がなくなることを心配する声も聞かれる。福岡市はどのように伐採を進める計画なのか?

雪野課長は「土砂災害の恐れもありますので、基本、根は残すようにして、あとはその苗木を植えて、苗木が成長して根を張っていけば、どんどん地盤のほうが安定してきますので、そういったのもちょっと配慮しながらやってるところです」と話す。

伐採されたあとをよく見ると、小さな木がたくさん植えられているのが分かる。若い木が根を張っていくと、以前より山の保水機能も高まるという。

「このエリアに植えてる広葉樹が4種類。イロハモミジ、ヤマザクラ、クヌギ、ケヤキを植えています。より自然に近いかたちの森づくりができていくことで、なるべく複数の樹種を植えるようにしています」(福岡市 森づくり推進課 雪野智行・課長)。

花粉症対策という国策を進めながら、同時に国の財産でもある森林をどう守って受け継いでいくのか?しっかり考えなければいけない段階に来ている。
(テレビ西日本)
