旅館の再生についてです。長野県松本市奈川で、5年前から休業中の旅館が、そばの提供を始めました。そばを打つのは、2年前に亡くなった旅館の女将の娘。客を温かく迎えた母親の思いを継いでいきたいとしています。
■奈川に伝わる「とうじそば」
一定のリズムで細く切り分けられる「そば」。
ゆでて水でしめたら、「とうじかご」に入れて、具だくさんの「つゆ」と一緒に味わいます。
松本市奈川地区に伝わる「とうじそば」です。
神奈川から来た客:
「初めていただきました。とてもおいしいです。甘くて山菜たくさんで、また違った味わいがあって」
提供しているのは、松本市奈川の旅館「鳥屋沢」。
5年前から休業していましたが、2026年2月にそばの提供を再開しました。
そばを打つのは、高宮喜恵さん(56)。
旅館は、高宮さんにとって特別な場所です。
鳥屋沢・高宮喜恵さん:
「自分がイメージしていたよりも、すごくオープンしたら楽しい。旅館がキラキラと生き返ったみたいに感じて、それがうれしかった」
■母の思い継ぎ、再開を決意
鳥屋沢は、1992年に高宮さんの父・秀人さん(91)と、母・宗子(享年88)さんが、多くの観光客が訪れるきっかけになればと開業しました。
宗子さんが女将として切り盛りし、温かいもてなしと打ちたてのそばが宿泊客に人気でした。
しかし、宗子さんのけがや、コロナ禍での客足減少などが重なり、2021年1月から休業していました。
当時、波田地区に住み、飲食店で働いていた高宮さん。
2年前に宗子さんが亡くなってから、残された旅館の建物を何とかして残したいと考えるようになりました。
高宮喜恵さん:
「ここがさらに朽ちていってしまう現状を目にしたときに、これは何とかしたいなという思いが一番強かった。(母と)話してもらったり、お土産をいただいたり、それを待ち望んでる客もいたので、母の思いと一緒に(再開したい)」
■旅館再開の足がかりは「そば」
旅館再開の足がかりにと目をつけたのが「そば」です。
2022年から長野県山形村のそば店でアルバイトをしていた高宮さん。
店主からそば打ちを習っていたこともあり、まずは、そばの提供から始めようと決断しました。
高宮喜恵さん:
「大将の方から『旅館がそのまま休んでいるのなら、そこでゆくゆくはやったらどう?』と。奈川のそばを提供できる場所にもなるかな」
■甘みが強い「奈川在来」十割そば
高宮さんが打つのは、奈川で古くから栽培される「奈川在来」の十割そばです。
高宮喜恵さん:
「奈川在来、甘みが強くてすごくおいしいんですよね。大将のようにいかないんですけど。なかなか、まだまだ。やらせてもらいながら」
1時間ほどで10人前を打ちます。
鶏モモ肉や油揚げ、青菜などが入った具だくさんの温かいつゆと一緒に食べる「とうじそば」や、タラの芽やフキノトウなどの季節の食材を使った天ぷらの盛り合わせ。
ざるそばに8つの小鉢が付く「そば御膳」がおすすめです。
■兄も応援「母の思いつなげたい」
2026年2月から土日祝日のランチタイムに営業を始め、少しずつ客も増えてきているということです。
神奈川から来た客:
「うちの方で食べているそば屋とは全然違う。そばの香りがすごくする」
東京から来た客:
「歯応えがあって、そばの風味も感じられて、とてもおいしかった」
普段は一人で切り盛りしていますが、4月29日は、奈川でガソリンスタンドを経営する兄の澄男さん夫婦が手伝いに訪れました。
兄・澄男さん:
「両親が残してくれたこの建物がどんどん朽ちていく。何とか復活させたい、でも手がないな、というところに妹が戻ってきてくれて、母の思いをつなぎたいと。うれしいですね」
■「ここでの時間を楽しめる宿に」
高宮喜恵さん:
「お部屋は変わっていないです」
近く旅館営業も再開します。
業者や友人などにも協力してもらい、2年ほどかけて厨房や部屋の清掃、出入り口の戸の修繕などを進めてきました。
最大3人までの和室を4部屋用意していて、5月15日から宿泊の受け入れも始めます。
温かく客を迎え入れていた母親の思いを受け継ぎ、奈川での滞在を楽しんでもらえる旅館にしたいとしています。
鳥屋沢・高宮喜恵さん:
「お客さんにどうやって喜んでもらえるかを考える、そういう気持ちに常に立っていたい。母がそうだった。そういう思いを大事にして、お客さんになるべく満足していただけるように。旅の途中でただ泊まって帰るのではなくて、ここの時間を楽しんでもらう、そういう宿にできたらいいな」