鹿児島のシンボル、桜島。その雄大な姿は多くの人を魅了する一方、活発な噴火がもたらす火山灰は生活の悩みの種でもある。しかし、その「厄介者」をキャンバスに載せ、鹿児島の魅力を発信するアーティストがいる。「見方を変えるといいことやポジティブに考えられることはないか」――火山灰アーティスト・植村恭子さんの活動が、10周年という節目を迎えた。
指先からこぼれ落ちる桜島の粒
「親指と人差し指をすりあわせて灰を落としてキャンバスの上に線を描く」
植村さんはそう言いながら、さらさらと指先から細かな粒を落としていく。キャンバスにはあらかじめ水で薄めた接着剤が塗られており、そこへ火山灰を乗せていくことで絵が形成されていく。ものの数分で、桜島の輪郭が浮かび上がった。

植村さんの技法は独自のものだ。指や爪を使って灰を少しずつ広げ、量を微妙に調整することで濃淡を表現する。横2メートルほどの大きな桜島の作品でも、使用する火山灰はケース1杯ほど。少ない素材から大胆かつ繊細な世界を生み出す。
熊本地震の支援活動がきっかけに
植村さんはもともと、桜島ビジターセンターの職員として働いていた。火山灰はそれ以前から常に身近な存在だったが、アートとして向き合うようになったのは10年前のことだ。
2016年、熊本地震の支援を呼びかけようと、火山灰を使って地面に絵を描いたことが活動のきっかけとなった。その経験が、植村さんにとって火山灰の「見方」を大きく変えるものになった。

「活動をする前も(火山灰は)身近にあったが、自分で描き始めて改めて噴火の威力や気候のタイミングであったり、そういうので全然違う。自然のものなんだなというのを改めて感じながら使っている」

噴火の状況や気候によって、集まる火山灰の質や量は変わる。自然が生み出した素材と向き合うなかで、植村さんは桜島そのものへの理解を深めてきた。
10周年記念個展「Hiway-ともに行きましょう」
活動10周年を記念した個展「Hiway-ともに行きましょう」が、鹿児島市のアート・ギャラリー白樺で4月24日から開かれている。75点の作品が展示された個展には、これまでの歩みが凝縮されている。
近年の作品では水彩絵の具を取り入れ、色彩豊かな表現の幅も広げてきた。そして2026年の新作では、桜島の力強さをこれまで以上に感じられるようにと、火山灰を大胆に使った立体的な仕上がりになっている。進化し続ける表現は、素材への探求が止まっていない証だ。

作品を訪れた人からは「感動。生かされて桜島の灰も喜んでいると思う」という声も上がった。火山灰という日常の産物が、鑑賞者の心を動かすアートへと昇華されている。

「縛られるのではなく、見方を変える」
植村さんが10年間発信し続けてきたのは、技法や作品だけではない。火山灰という存在への問いかけでもある。
「厄介だなというところにだけ固執したり縛られるのではなく、見方を変えるといいことやポジティブに考えられることはないかと作品を見て感じていただけたら」

桜島は今も活発な活動を続け、鹿児島県民の生活に火山灰をもたらし続けている。だからこそ、植村さんのメッセージは地元の人々の心に響く。厄介者とされてきたものが、地域の魅力そのものになり得るという可能性を、75点の作品が静かに語りかけている。

個展は5月5日まで、鹿児島市のアート・ギャラリー白樺で開催中だ。期間中、植村さんはギャラリーに滞在しており、実際に作品が生み出される過程を間近で見ることもできる。
【動画で見る▶「厄介者」桜島の火山灰がアートに 鹿児島市出身の植村恭子さん、活動10周年の個展で75点を展示 】
