日本一の「カツオのまち」に異変

「カツオのまち」に異変が起きている。気仙沼市の菅原茂市長は9月25日に会見を開き、29年連続となる生鮮カツオの水揚げ量・日本一達成が、「厳しい」との見通しを示した。
気仙沼市 菅原茂市長:
自然相手なので、大漁・不漁があるのは仕方ない
気仙沼市とカツオ漁気仙沼市のカツオ漁の歴史は、350年前、江戸時代初期にまでさかのぼる。
1675年、現代の「一本釣り漁」の原型ともいわれる「溜め釣り漁」の漁法が、紀州(現在の和歌山県)から伝わった。
溜め釣り漁は、カツオの群れの近くで生餌をまき、それを捕食しに来た群れを釣り上げるというもの。カツオの群れが来るのを待つ従来の漁に比べ、溜め釣り漁は大量に効率的にカツオを取ることができた。

伝来以降、気仙沼市ではカツオ漁が盛んに。2024年まで生鮮カツオの水揚げ量28年連続日本一となるなど、気仙沼市はまさに「カツオのまち」だ。
2025年は気仙沼市に溜め釣り漁が伝来してから350年の節目となる。これにあわせて、市内の飲食店で特別メニューを提供するなど、様々なイベントが行われている。
ところが、この記念すべき年に、生鮮カツオ水揚げ量日本一の連続記録が途絶える可能性が高まっている。
カツオを巡って“争奪戦”

例年であれば、脂が乗った「戻りガツオ」の水揚げが本格化し、200トンを超える水揚げがある日も珍しくない9月の気仙沼漁港。しかし9月22日、9隻の漁船から水揚げされたカツオは合わせて85トン。漁港には、例年の活気は見られない。
また。水揚げ量の減少に加えて、関係者を悩ませているのが…
カツオ漁船の漁労長:
少ないし、サイズも小さい。今年は大きいカツオは見込めないかもしれない。
飲食店などから引き合いの強い2キロから3キロほどのカツオがほとんど取れないという。
この日も全体の8割が1キロ台かそれ以下の小さいサイズのカツオだった。

小売店や飲食店に卸す仲買人の間では、大きいカツオをめぐって”争奪戦”が起こっている。
仲買人:
我々が買うような3キロ以上のカツオは本当に数匹しかいない。少なければやっぱり値が高騰し、奪い合いになる。
飲食店でも悲鳴「この時期でこのカツオというがっかり感」

カツオが看板メニューの飲食店でも、今年は、質の良いカツオを安定して仕入れるのが難しいという。
『和醸酒一杯屋梟』 小野寺洋さん:
カツオのまち、気仙沼で店を張っている以上は一番良いカツオを使うというのは心に無いと。
カツオの仕入れ値が例年の3倍ほどに上がる中、提供価格も、苦肉の策で約1.5倍に値上げ。
値上げ自体もだが、小野寺さんにとっては「自信を持って出せるカツオが無いこと」が悔しいと話す。
『和醸酒一杯屋梟』 小野寺洋さん:
これだけ立派なカツオでも赤身。本来はこの時期だと脂が乗ってきて、「これぞ」というのが気仙沼のカツオ。だけどこの時期でこのカツオというのはがっかり感があるよね。

去年、同じ店で取材した時と比較してみると、脂の乗りが全く違う。
去年に比べ、今年のカツオはほとんど脂がない。
『和醸酒一杯屋梟』 小野寺洋さん:
『ザ・気仙沼のカツオ』という、食ってみろという押しができない。お客さんに申し訳ない気持ちもあるが、それはそれとして味わってもらいたいというのが飲食店の本音
なぜ水揚げ量が減少?専門家は

なぜ、気仙沼港の水揚げが減少しているのか。専門家は「カツオを北上させる暖流の黒潮の変化」と「そもそもの資源量の減少」の2つが重なったことが要因と分析している。
漁業情報サービスセンター 水野紫津葉さん:
春の時点で、秋に2~3キロになる北上群が全然見えてこなかった。

カツオは例年、春先まで南の暖かい海域で過ごし、夏にかけて若い一部の魚群が豊富なエサを求めて三陸沖まで北上する。この北上する途中の脂乗りが少ないものが「初ガツオ」、北の海で脂を蓄えたものが「戻りガツオ」と呼ばれる。

しかし今年は春先の時点で、今後、北上するとみられるカツオの姿が少なく、そもそも戻りガツオがいない状況となり、気仙沼港の不漁につながっていると言う。
実際にカツオ一本釣り船の漁師は、「漁場は今、千葉県の銚子の近く。東北のほうには何もいない」と話し、春先に見られた兆候を裏付ける結果となっている。
漁業情報サービスセンター 水野紫津葉さん:
今年は暖水が東北海域に流れ込んでくるという状況が解消されてしまった。
南から来るカツオはなかなか東北海域に来遊しにくいという、Wパンチみたいな状況。
28年連続で生鮮カツオの水揚げ量日本一を誇る気仙沼市だが、8月末時点で、去年の同じ時期と比べて2割未満の約3376トンにとどまっている。
首位の千葉県・勝浦港との差は3000トンほどあり、29年連続の日本一には、黄色信号が灯っている。
将来への希望も

一方で、気仙沼市にとって暗い話ばかりがあるわけではない。
専門家によると「10月以降、わずかながら東北沿岸にカツオの漁場が形成される可能性がある」ということで、わずかながら水揚げ量が上向く材料も残されている。
連続記録が途切れても、海洋環境の調査から来シーズンは水揚げ量が回復するとの見方もあり、気仙沼市は、今後も「カツオのまち」としてPRしていく方針だ。
カツオの漁期は10月下旬から11月上旬までと見込まれている。
仙台放送