東日本大震災から15年。当時、岩手県釜石市では日頃から防災訓練を重ねていた中学生たちが津波から逃げながら沿道の住民に声をかけ続け、その行動が多くの命を救った。「釜石の奇跡」として語り継がれているその出来事を沖縄の中学校の生徒たちが学び、「自分の命・大切な人の命を守る」とはどういうことかを考えている。

「ちゃんと逃げれば、21万人の死者数を7万人に減らせる」

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海が目の前にある豊見城中学校で防災についての講演を行っているのは、東京大学大学院特認教授の片田敏孝さん。長年にわたって地域防災を研究し「自ら命を守る」ことの重要性を訴え続けている。片田さんの言葉を静かに聴く中学生たちは、東日本大震災の後に生まれた世代だ。

しかし「地震大国」と言われる日本では、遠く離れていても時間が隔たれていても、地震災害は他人事とは言えない。
国が発表したマグニチュード9の南海トラフ地震の被害想定では、死者は約30万人にのぼるとされている。そのうち21万人あまりが津波による死者となる見込みだという。

片田さんは生徒たちに向けて「ちゃんと皆さんが対応すれば、被害を7割も減らせるんです。主語は『皆さん』ですよ。皆さんがちゃんと早期避難をすれば、21万人(の死者数)を7万人まで減らすことができる」と強調する。

鍵は、発災から10分以内に避難を始めることだという。

行政が避難ビルを整備し、避難路を確保することも重要だが、それだけでは足りない。最後に命運を分けるのは、一人ひとりが自らの判断で動き出せるかどうか。防災の最大の課題は「主体性のなさ」だと、片田さんは言い切る。

自ら判断することが命を守ることにつながる

2011年3月11日、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の地震が発生。押し寄せた巨大な津波は沿岸の街を飲み込み、1万5千人あまりの命を奪った。15年が経過した現在も約2500人が行方不明のままだ。

岩手県釜石市にある釜石東中学校と鵜住居(うのすまい)小学校では、ふだんから津波を想定した授業や避難訓練が繰り返されていた。

地震の揺れが収まった直後、中学生たちは普段の訓練通りに高台へと走り出した。避難のために走りながら、沿道にいた地域の住民たちにいち早く避難を呼びかける声をかけ続けたという。「逃げてください、早く高台へ」と。

提供:東京大学片田研究室
提供:東京大学片田研究室

中学生や小学校高学年の子たちの中には、小さな子どもたちを抱きかかえながら1.7キロの道のりを走り抜けた人もいた。後に被害状況を確認すると、被災した学校校舎の3階には自動車が突き刺さっていた。もし校舎内に残っていたら……。

そんな状況下で、当時登校していた小中学生全員が津波から命を守ることができたのだった。

海抜5メートル以下の豊崎地区

沖縄県豊見城市の豊崎地区は、地域のほとんどが海抜5メートル以下の沿岸部に位置している。

住宅が立ち並ぶ街中の海抜表示は3.5メートル。津波が来れば、すぐに浸水する高さだ。豊崎中学校は地域の津波避難ビルに指定されている。

2025年7月、ロシアのカムチャツカ半島付近を震源とする地震が発生し、沖縄県全域に津波注意報が発表された。豊見城市には避難指示も出され、地域は緊張に包まれた。その経験を受けて実施された避難訓練には、生徒だけでなく地域住民も参加し、校舎の屋上を目指して歩いた。

自主防災組織のメンバーは「今日は組織のメンバーや防災士がいるから動けましたが、誰もいなければ自分たちで判断しなければいけません。皆さんの中に一人でも覚えていてくれる人がいれば、豊崎中学校の屋上は安全な場所になります」と呼びかけた。

遠い土地の出来事と自分たちの暮らす場所を結びつける

豊崎中学校の生徒たちは、防災訓練に向けた授業のなかで学んだ東日本大震災と「釜石の奇跡」の内容をパンフレットにまとめた。

遠い土地で起きた過去の出来事として終わらせず、自分たちが暮らす豊崎の防災と結びつけて考えることの重要性を実感した豊崎中の生徒からは「自分が防災を怠ることによって、自分の大切な人が亡くなったり、傷ついたりしてしまうことが怖くなりました。あらためて、これから防災に取り組んでいこうと思いました」といった感想が出た。

「奇跡」ではなく、準備の積み重ね

「釜石の奇跡」という言葉には、どこか偶然のニュアンスが漂うが、実は繰り返された授業と訓練によって培われた判断力と行動力が根底にあった。

片田さんは「大きな被害を減らすのは、一人ひとりの行動が大事。皆さん個人の行動が一番重要なんです」と主体的に避難し、自ら命を守ることの大切さを繰り返した。

自分の命を守ることは、大切な人の命を守ることでもある。そのために何を準備し、どう動くかを、今この瞬間に考えておくことが求められている。

沖縄テレビ

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