広島に住む人にとってなじみ深い「広島弁」。しかし、外国人の介護職員にとっては大きな壁となっている。介護現場の人手不足が深刻化する中、言葉の壁を解消し、働きやすさにつなげようとする取り組みに注目した。
日本語を学んできても「方言」が壁に
「はようようせんけえね。こういうことしよるんじゃけ。紙がありゃーこしらえてね」
早くできないから、こういうことをしている。紙があれば作って――そんな意味の広島弁である。
その言葉の意味を探るように、うなずきながら耳を傾けるロシダさん(22)。広島市安佐北区の介護施設で働く技能実習生だ。インドネシアから来日して3年。文化の違いに戸惑う中、とりわけ苦労しているのが利用者とのコミュニケーションである。

来日前に学んだ日本語は標準語。しかし現場で飛び交うのは広島弁だった。
「初めて来たときは、いろいろな広島弁を利用者さんから言われたけどわからなかった。『ようけ』とか…」
「ようけ」とは「たくさん」のこと。勉強したはずの標準語はほとんど聞こえてこず、意味がつかめないまま会話が進むことも少なくない。職員と利用者の対話が重要となってくる介護現場。コミュニケーションに「方言」という壁が立ちはだかっている現実がある。
「わからない言葉、いっぱい…」
ロシダさんが利用者に話しかけた。
「昔は花火ありましたか?」
利用者は花火を手に持つ格好をしながら答える。
「花火いうて、こうやってやりよったけど、そがーになかったようねえ。うちらがこまーときにゃー」
標準語にすれば、「花火はこうやってやっていたけど、そんなに多くはなかった。私たちが子どものころは」という意味になるが、すべてを理解することはできない。わからない言葉があったかと聞くと、ロシダさんは苦笑しながら話す。
「あります、いっぱい…。『知らん』はわかるけど、ほかはいっぱいわからない言葉あります」
理解できた言葉と言葉を頭の中でつなぎ合わせ、会話の内容を必死にくみ取る。そんな日々が続いている。
この施設に勤めて6年になる職員の栗原優菜さんは、外国人職員の戸惑いを間近で見てきた。
「来たばかりの外国人にとっては、『じゃけえ』(だから)といったつなぎ言葉もわからない。『たいぎい』(面倒くさい)や『てごうして』(手伝って)と言われ、どうしたらいいですかと質問がありました」
栗原さんが会話の間に入り、「外国から来たから広島弁がわからない」と伝えて、利用者に意味を教えてもらいながら話をしている。
68の広島弁をハンドブックで解説
こうした課題を受け、広島市が作成したのが「ひろしま方言ハンドブック」。介護現場でよく使われる68の言葉と例文を、イラスト付きでまとめた。
たとえば「めげる」は壊れる、「はぶてる」は機嫌が悪くなる、といった具合に広島弁を解説している。
ロシダさんもこのハンドブックで広島弁を勉強中。見たり読んだりするだけではない。音声で例文を聞くこともできる。
スマートフォンから流れるのは、広島に暮らす人が話す“生粋の広島弁”だ。
「使いよったら杖の先がはーちびてしもうた。たちまちはこれでえーが、買い替えよーおもーたら、なんぼいるんかいね?」
そのあと、標準語の解説が音声で続く。
――使っていたら杖の先がすり減ってしまった。とりあえずはこれでいいけど、買い替えようと思ったらいくらかかるのか。
「イラストと例文があるからすごくわかりやすい。めっちゃ助かりました」とロシダさん。
その地に根づく言葉を理解することは、相手との距離を縮める一歩にもなる。
県内の外国人介護職員は約4000人
この取り組みの背景には、人手不足が深刻な介護現場で、外国人職員が増え続けている現状がある。
厚生労働省によると、特定技能外国人は2019年の制度開始以降、右肩上がりに増加。2024年12月には4万4367人と過去最多を更新した。
広島県医療福祉人材協会によると、技能実習生や特定技能外国人など合わせて約4000人が県内の介護施設で働いており、2019年ごろと比べて8倍以上に増えている。
広島市は、「ひろしま方言ハンドブック」が外国人の“働きやすさ”につながることを期待している。広島市介護保険課の木原一行課長は「ハンドブックを通じて、外国人の方が少しでも介護の仕事を選択肢に入れていただければ」と話す。
介護現場に関わる団体のほか、県内の大学や地元の人たちの協力を得て制作された一冊。このハンドブックが“広島弁の壁”に悩む外国人を「てごう」してくれるかもしれない。
(テレビ新広島)
