関西と徳島を結ぶ唯一の航路として親しまれてきた「南海フェリー」が、2028年3月めどでの撤退を発表しました。
1975年の開業から50年。和歌山港と徳島港を結ぶこの航路には今も利用者が残り、「フェリーを続けてほしい」という声が相次いでいます。
運送業界での労働時間の厳格化によって、利用が増えるかと思いきや、この航路の場合「明石海峡大橋を通った方が短時間」であるなど、利用は増えなかったのです。
さらに徳島県や和歌山県などの周辺自治体も航路の維持を求めたものの、企業などの利用が進まない中で、維持を求めるためには、高額な船の更新費用の負担が必要なことなどもあって断念。
今回の問題は「フェリー」にとどまらず、人口減少に伴う利用者の低迷など地方の公共交通機関が直面する課題の数々が隠れていました。
■和歌山港と徳島港むすぶ南海フェリー「撤退」 「寂しい」別れを惜しむ声
南海フェリーは1975年開業。今は和歌山港と徳島港を結んでいます。
かつて、大阪湾の入口・紀伊水道では多くのフェリーや高速船が運航していましたが、今は関西と徳島をつなぐ唯一の航路となっていました。
突然すぎる撤退の発表に利用者は…。
【南海フェリー利用者】「なくなったら寂しいね。徳島県から出る船がなくなると寂しい」
【南海フェリー利用者】「子供がいつもフェリー楽しみにしてるんで、どうにかしてなくならんようにしてもらえんのかな」
【南海フェリー利用者】「愛媛県に住んでいて、春休みやけん、アドベンチャーワールドに。(なくなると)淡路島を通るので、和歌山には行きにくくなりますね」
【南海フェリー利用者】「Keep the ferry!」
【南海フェリー利用者】「フェリーもっと動かしといてください、やめないでって言ってる」
次々と別れを惜しむ声が…。
■「フェリーがないと困る」125cc以下のバイクは移動手段を失う
フェリー乗り場には、こんな事情を抱えた人もいます
【四国から大阪・藤井寺市へ】「このバイク、橋を渡れないんです。原付なんで。フェリーがないと大変困るんです」
【高知市から静岡・富士市へ】「今、橋をバイクで渡れるのは『しまなみ海道』だけなので、あっち(広島県)経由になると、はるか遠くになっちゃうし、なかなか行く手段がなくなります」
実は125cc以下のバイクは、高速道路を通行できず、フェリーで渡るしかないのです。
■フェリー利用者は家族連れや外国人観光客も
運航を求める声がある中、なぜ撤退が決まったのでしょうか
【記者リポート】「南海フェリーをどんな人が利用しているのか、実際に我々も乗って検証します」
出航すると徳島から和歌山まで、2時間20分の船旅です。
【記者リポート】「船の中には椅子席や絨毯敷きで雑魚寝ができるような空間があるほか、テーブルと椅子が並んでいて、仲間と語らうことができる、そんなスペースもあります」
子供たちは珍しい船の旅に大喜び。
富士山に向かうバイクの男性は、ストレッチで体をほぐします。
最近では、外国人観光客の姿も増えているようです。
【アメリカからの観光客】「巡礼できる限りやりました。お遍路やりましたから、和歌山に行って、もちろん高野山に行かなくちゃでしょ」
■利用者は3分の1に減少 “2024年問題”も影響か
取材をしていて気になったのは、マイカーばかりでトラックが4台しかいないこと。
阪神・淡路大震災があった1995年には、年間97万人を超える乗客がいましたが、今は3分の1ほどに減少。
仕事での利用が減っているのでしょうか?南海フェリーに聞いてみると…
【南海フェリー 福井和明取締役】「何より一番(の減少要因)が、明石海峡大橋の開業でございます。一気に徳島から関西、双方の移動がスムーズになった。フェリーの利用が激減した」
乗船前に話を聞いた運送業者からはこんな声も…。
(Q.よく利用しますか?)
【運送業者】「今うちは使ってないけど、貸切で東京とか大阪に行っている場合は必要やった」
しかし、トラック業界では労働時間を大幅に規制する「2024年問題」が要因で、移動しながら休憩時間の取れるフェリーへの転換が進んでいるはずですが…。
【南海フェリー 福井和明取締役】「弊社の場合、『フェリーに乗らない方が早く帰れる』というのが実はありまして、『“2024年問題”があるので、船に乗れなくなった』という(運送)会社も少なからずいた」
実は、関西-徳島間の航路では、明石海峡大橋を走行する方が早く着く場合が多く、乗船中の2時間余りをドライバーの休憩時間に充てるより、労働時間を短くする方がメリットが大きいというわけです。
■さらに燃料費の高騰も追い打ち
さらに、数年前からは燃料費も高騰し、経営が厳しくなる中、こんな工夫もしていました。
【フェリーあい 清水良洋船長】「スピードを落とせば燃料消費を抑えることはできますけれども、何年も前からそういう省エネダイヤでやっていますので…」
移動時間の長さでフェリーが敬遠される中、燃料節約のためにさらにスピードを落とさざるを得ない現実。
南海フェリーにとっては、様々な逆風を受けた結果の撤退だったのです。
それでもこの日、取材した便の乗客は、普段より多めの86人。フェリーを必要とする人もいる中、国の公的な支援はありません。
■航路維持には40億円以上の費用がかかるも公的な支援はなし
フェリー存続のため、徳島県などの4つの自治体は、かつて国が行った「高速道路1000円」に対抗して「1000円フェリー」キャンペーンをしたり、プレミアム交通券を発行したりと、利用を促してきました。
ただ今回、南海側から提示された運航継続の条件は、かなり厳しいものだったそうです。
【徳島県交通政策課 橋本貴弘課長】「航路を維持していくためには、リプレース(船の更新)費用40億円以上を行政に全額の支援をお願いしたいと。赤字が発生した場合の補てんがあって初めて、この航路を残せる状況ですと」
老朽化した船を新しく造るには40億円以上が必要ですが、それを全額負担することを求められたのです。
7年前は、およそ30億円でしたが、ここにも物価高の影響が重くのしかかります。
【徳島県交通政策課 橋本貴弘課長】「(航路も)なくならない方がいいのは間違いないんですが、それが唯一の移動手段かというと、今は複数の陸路の選択肢がありますので」
■「交通網が1つ欠けることで影響が広く及ぶ」と専門家は懸念
対岸の和歌山県はどうなのでしょうか?
【和歌山県総合交通政策課 石井宏紀課長】「税金を使って支援させていただくので、いろんな観点、影響も含めて考えた」
南海フェリー撤退の影響について専門家は…。
【地方の交通網などに詳しい近畿大学 高橋愛典教授】「関西と四国全体を結ぶ交通網が1つ欠けてしまうという意味では、いろいろな影響が思いのほか、広いところに及ぶのではないか」
また、これは船だけの問題ではないといいます。
【地方の交通網などに詳しい近畿大学 高橋愛典教授】「人口そのものが減少局面に入って、(公共交通を維持するために)打つ手が非常に難しくなっているというのは確かです。地域全体、社会全体で考えて支えていくという必要性が出てくる」
撤退まであと2年、関西で親しまれてきた交通網のひとつが、瀬戸際に立っています。
(関西テレビ「newsランナー」2026年4月3日放送)