「1日あたりおよそ2450億円」
これは花粉症によって労働力が低下したことで生じる経済損失の試算額です。(パナソニック調べ)
もはや”国民病”とも呼ばれる花粉症。厚生労働省の2019年の調査によると、いまや国民の4割以上が発症しているといいます。
スギ、ヒノキ、イネ科の花粉と次々と押し寄せる症状に、人々はどう立ち向かっているのでしょうか。最前線を取材しました。
■「早く終わってほしいです」 スギからヒノキへ、苦難の連続
例年より飛散量が多いとされる今年の花粉。
大阪・豊中市内のクリニックには、花粉症の悩みを抱えた患者が訪れていました。5年ほど前に発症したという40代の男性は、鼻づまりや目のかゆみに悩まされています。
【花粉症で来院(40代)】「ランニングが趣味で、走ると目に来るのが分かるので、飛散量は多いかなと思います。早く終わってほしいです」
おがわ耳鼻科・小川佳伸院長は、症状の深刻さをこう説明します。
「ひどい方になってくると、口の中もかゆいとか、耳もかゆいとか、顔もかゆいとおっしゃる方もおられますね」
さらに、「スギの花粉症が落ち着いてきてますけど、またこれからヒノキの花粉症の方が増えてくる」とも。
スギが終わればヒノキ…花粉症との戦いはまだまだ終わりそうにありません。
花粉症は個人の体調問題にとどまらず、日本経済全体にも深刻な影響を与えています。
パナソニックの試算では、花粉症による経済損失は1日あたりおよそ2450億円。
60日分で換算するとおよそ15兆円にも上り、日本のGDPのおよそ2.5%に相当するともいわれています。
■「1本の木から、これだけの産業に」 秘境・北山村が生んだ”ジャバラ”の力
そんな花粉症によって、むしろ”活性化した”村があります。
和歌山県の”秘境”と呼ばれる北山村です。
全国で唯一の”飛び地”の村として知られ、和歌山県でありながら和歌山から離れた場所に位置しています。
人口はおよそ380人。そんな小さな村の唯一のコンビニには「花粉が飛び始めたら」という文字とともに、「ジャバラ」関連商品が所狭しと並んでいます。
ジャバラとは、柚子とミカンの中間ほどの酸っぱい柑橘系の果実。皮をむいて食べるものではなく、絞ったり加工したりして使います。
じゃばら農園管理責任者の宇城公揮さんは「北山村イコールジャバラっていう感じで、北山村のアイコンというか」と話します。
北山村の1本の原木から生産が拡大したこの果実は、2001年に”花粉症対策として大量購入している人がいる”という話が広まったことで、売り上げがわずか2年間でおよそ4倍に。
その後のマウス実験で、ジャバラに多く含まれる「ナリルチン」がアレルギー症状の原因となるヒスタミンの放出を抑える可能性が指摘され、さらに注目を集めることになりました。
「小さな村なんで、田んぼをしている人もジャバラに切り替えたりだとか、みんなでやっている感じです」と宇城さん。
皮肉にも花粉症が村を動かしたのです。
■「最終的には花粉症対策品種でないと販売しにくくなっていく」 国が進める”少花粉スギ”
根本的な対策として国が力を入れているのが、「少花粉スギ」の普及です。
花粉の量が通常の1%以下に抑えられたスギで、各地で植え替えが進んでいます。
京都府内で苗木店を営む中西至誠園の中西信市郎代表は、少花粉スギの種から育てた苗木を出荷しています。
「これが種で、これが1年経過した状態。もう1年育成して、2年目の秋から出荷できる」といい、今年は去年の倍にあたるおよそ5万本を出荷したといいます。
販売先は主に森林組合や民間の林業事業体で、「補助金の優遇措置がかなりありますので、皆さんそちらを選択されることが多い」とのことです。
国が花粉症対策を本格的に始めたのは3年前。
当時の岸田首相が、「第1に発生源対策を強力に進めます」と宣言し、事業者への補助金交付によってスギの人工林を少花粉スギなどへ植え替えることで、30年後に花粉の発生量を半減させる方針を打ち出しました。
姫路獨協大学の柳澤吉則教授の研究室では、スギなどの表面に植物ホルモンを含んだ薬を塗ることで花粉を減らす研究を去年から実施中だということで、民間・学術の側からも新たなアプローチが始まっています。
■「場所を変えるだけで、こんなにも変わると実感できた」 ”避粉地”という新しい選択肢
対策が少しずつ前進する一方、「戦う」ではなく「逃げる」という新しい発想も生まれています。
いま注目を集めているのが「避粉地」という概念です。
沖縄や北海道など、スギやヒノキがほとんど自然に生えていない地域のことで、花粉症に悩む人にとってはまさに”オアシス”。旅行先としても人気が高まっています。
沖縄・竹富島のリゾート施設「星のや竹富島」では、磯部竜総支配人が「「沖縄の竹富島には、花粉症を避けて滞在するお客さまが結構前からいた。この場所(竹富島)を『避粉地』という言葉を掲げて、『花粉症を避けて快適に過ごすのにぴったりの場所』とお客さまに紹介してます」と話します。
さらに、この流れは旅行にとどまらず”仕事”の場面にも広がっています。
アプリ事業などを手がけるIT企業「アイザック」では、従業員が避粉地でワーケーション(旅行しながら働くスタイル)をする費用を最大30万円補助する福利厚生を導入しました。
社員およそ100人のうち毎年15人ほどが利用し、新たな働き方として定着しつつあるといいます。
実際に利用したマーケティング責任者の村瀬広晃さんは、「鼻水もないし、目のかゆみがないのが本当にありがたい」と笑顔を見せます。
同じく利用した畠山爽さんも、「集中力が続くような状態になって、結構(東京に)帰ってきてからもパフォーマンスのブーストは続いている。花粉症だから、毎年つらいみたいな感じで諦めていたことが、場所を変えるだけで、こんなにも変わると実感できたのが大きいかなと」と語ります。
迎え撃つだけでなく、花粉から”逃げる”という選択肢も現れた花粉症との付き合い方。
薬、ジャバラ、少花粉スギ、そして避粉地…自分に合った戦い方を見つける時代が、すでに始まっています。
(関西テレビ「newsランナー」2026年3月23日放送)