今、世界のファッション界を熱狂させるアイテムがある。

ニューバランスのスニーカーやノースフェイスのジャケットなど、名だたる有名ブランドの「スニーカー」、「ジャケット」、そして「キャップ」に施された精緻な模様。
世界からオーダーが殺到し、グラミー賞10冠のポップスター、ジャスティン・ティンバーレイクやアップルのCEO、ティム・クックまでもが愛用するそのブランドの名は…「サシコギャルズ」。

世界が絶賛する、そのクリエイターは、パリでもニューヨークでもなく、岩手・大槌町(おおつちちょう)の笑顔あふれる、おばあちゃんたちだった!
「サシコギャルズ」がファッション界を熱狂
サシコギャルズ・後藤富子さん(79):
ギャルズへようこそ!
サシコギャルズ・石井ルイ子さん(80):
見るからにギャルズです。
後藤富子さん:
現代風の靴とか帽子に刺し子ができるのは“ギャルズ”だからできるの。
ちなみに、4人の平均年齢は77.5歳。

にぎやかな作業風景からは、想像もつかないが、その指先には決して消えることのない“15年の記憶”が刻まれている。

※「刺し子」とは、補強や保温のため布を重ねて糸を細かく縫い付ける日本の伝統手芸
サシコギャルズ・大澤美惠子さん(75):
津波があったから刺し子がある。
後藤富子さん:
無心になれる。一針一針(することで)。いらないことを考えられないもんね。
岩手・大槌町。
そこは、10メートルを超える津波で町の5割以上の家屋が全壊した。
サシコギャルズの1人、石井ルイ子さんは…、
石井ルイ子さん:
家も全壊、全部流され、夫も流され、すごく落ち込んでたんですよ。本当に何にもできなかったっていうかさ…。
大澤美惠子さん:
手につかないんだもんね…。
石井ルイ子さん:
(亡くなった)旦那のことだけずっと思って…。

寒い避難所で毛布にくるまり、ただ天井を見つめるだけの日々。
そこにやってきたのが、あるボランティアの青年だった。

ボランティアの青年:
お母さん、手持ちぶさたでしょう。これ、やってみませんか…?
石井ルイ子さん:
……。
それが、すべての始まりだった。

石井ルイ子さん:
(ボランティアの青年に)救われたっていう言葉っていうか、やることができたっていうかさ。さしこやってると(嫌なことを)忘れます。
彼女を追うように、参加した人たちも…
後藤富子さん:
無心になれるっていうのかな。(外に)出れば、何にもないでしょ、がれきの町だし。一針一針…みんなそうだったもん、津波のころは…。
誰もが、そうだった…。
悲しみを口にすれば、涙が止まらなくなる。

だから、心を空にして、ただ針を刺した。
刺している間だけは、亡き夫の顔を、なくしてしまった暮らしを忘れられる…。

「大槌復興刺し子プロジェクト」の初めの作品は、「コースター」や「布巾」と言った簡単なものだったが、彼女たちの丁寧な手仕事は復興支援の中で注目され、全国から注文が殺到した。
それが、働く場所さえ津波に流され、外へ出る元気すらなくしていた彼女たちにとってありがたかった。
大澤美惠子さん:
500円もらったんです。1枚につき。まとめて10枚やれば5000円になる、3000円になるっていう楽しみもありましたし、こういう縫うって(仕事は)しばらくぶりって、何年ぶりってうれしさもありましたし。
人に“必要とされている”…それが、生きがいとなり、一時、刺し子は約200人にまで増え、取引先も185店舗にまでのぼった。
だが、時の流れは残酷だった…。
震災から5年、10年とたつうちに、人々の記憶から「被災地」という存在は薄れ、やがて、コロナ禍が追い打ちをかける。
取引先は、わずか28店舗にまで減り、刺し子チームの若手として事務を任されていた佐々木加奈子さん(48)と黒澤かおりさん(48)は、積み上がった在庫を前に頭を抱えていた。
サシコギャルズ・黒澤かおりさん:
もう、限界よね…。
サシコギャルズ・佐々木加奈子さん:
でも、ここを閉めたら、おばあちゃんたちはどうなるのかな…?
佐々木加奈子さん:
毎日毎日、事務所でね、2人で「どうしたらいいんだろうね?」「もうこっちから辞めましょうか」って言った方がいいのかなっていうので、すごくもう迷って迷ってね…。
黒澤かおりさん:
せっかくここまで10年近く、刺し子さんが「できたよ!」って商品とかを持ってきてくれる笑顔とか、そういう楽しそうなところを見て、ここで、なくしたくはないっていう思いも強かったですし…。
思い詰めた2人は、長年取引を続けてくれている東京のアパレル会社の藤原新さんに、すがるように相談を持ちかける。
佐々木加奈子さん:
おばあちゃんたちには申し訳ないけど、やっぱり辞めた方が…。
藤原新さん:
えっ? それはもったいない!私は『大槌の刺し子』に、無限の可能性を感じているんです!
佐々木さん・黒澤さん:
……。
「サシコギャルズ」代表・藤原新さん(47):
相談された時に、「そうだろうなぁ」とは思いつつも、自分たちとしては、逆に可能性しか彼女たちには感じていなかったので。もう技術は一級品なので、あとは見せ方の部分だけじゃないのっていう。
数カ月後、藤原は大槌町を訪ねると、こう切り出した。

藤原新さん:
確かに、布巾やコースターじゃ、もう戦えないかもしれない。でも、スニーカーだったらどうですか?絶対に欲しい人がいるはずです!やってみませんか?

いったいなぜ、スニーカーだったのか…?

藤原新さん:
スニーカーはやっぱり社会のトレンドの“映し鏡”というか、すごく人々が熱狂するというものであるので。
さらに、マーケティングにたけた藤原にはこんな戦略もあったという。

藤原新さん:
面積が小さいという意味でも、刺し子を表現するうえで、たぶん一番適していた。
面積のある服などは刺し子のイメージを分散させてしまうが、ギュッとデザインが詰まったスニーカーなら、十分に戦えると考えたのだ。
だが…「スニーカー」に「刺し子」。
それは、10年間、柔らかい平面の布にしか針を通したことのない彼女たちにとって、あまりにも無謀な注文だった。
石井ルイ子さん:
こんな厚いのに、針が通るわけないよ。
後藤富子さん:
指、折れちまうよ。
初めは、誰もがそう思った。
だが…
佐々木加奈子さん:
これ、私たちにやらせてください。
黒澤かおりさん:
スニーカーは私たちに任せてもらって、みなさんはやわらかいものをお願いします。
おばあちゃんたち:
あんたたち…。
若い2人は、針を持った。
大きな皿型指ぬきを使って針を押し込み、突き出た針をペンチで引き抜いた。
それでも…
佐々木加奈子さん:
あっ!…また折れた。
黒澤かおりさん:
私も、指ボロボロ…。
針が折れては、ため息をつき、それでも、また新しい針を取ることの繰り返し…。
おばあちゃんたち:
あんたたち、無理し過ぎないでね。
佐々木さん・黒澤さん:
はい、大丈夫です…。

手のひらにはマメができ、指は「ばんそうこう」だらけ…
一足仕上げるのに、40時間かかったが…
こうして完成した刺し子スニーカーが、世界のファッション界に奇跡を起こす…。
その始まりは、あの「HIDDEN NY(ヒドゥン・ニューヨーク)」に取り上げられたことだった。
今や、「ヒドゥン・ニューヨーク」がカッコイイと言えば一流の仲間入りと言われるほどのファッション・ウェブ・メディアが「サシコギャルズ」を認めた。
そのうわさは、すぐに世界を一周し、やがて、ニューバランスが、ノースフェイスが、喜んでタッグを組み始める。
ニューバランス ジャパン マーケティング本部・阪本朋之マネージャー:
私個人としてはすごくカッコイイと思います。ジェラシーもありましたね。わぁ~やられたなという感じというか。すごく自由な発想で、新しい伝統文化、刺し子の形を提案されているなというところが、すごく面白い点でしたね。
また、ザ・ノース・フェイスの飯島和宏マネージャーは…、
ゴールドウィン ザ・ノース・フェイス事業本部・飯島和宏マネージャー:
今ここに掛けているダウンジャケットは、2日間で完売しました。1着50万円と、かなり高額なアイテムだったんですけれども、とても反響があって、特に海外の方にもすごく好評をいただいて。
一見、高すぎると思うだろうが、よくよく考えれば…、
藤原新さん:
例えばスニーカーでいうと、だいたい1足あたり1人ひと月かけているんですよってなったときに、時間に換算で言ったら、決して高いものではないと思います。
だが、そんな世界の熱狂など、お構いなしのおばあちゃんたちは…
ーーディレクター:
ニューバランスとお仕事されてどうでした?
石井ルイ子さん:
私分からないから。とにかく言われた通り、一生懸命やってるだけ…。
後藤富子さん:
知らないと思うのがいいんじゃない(笑)?
ビッグブランドなど気にも留めない、この欲のなさがいいのだろう。

ちなみに、なぜ彼女たちを「サシコギャルズ」と名づけたかというと…、
藤原新さん:
大槌に行くとですね、放課後の女子高校生とかが学校終わったあとになんかこう、ファストフードで、みんなでわちゃわちゃするとか、その情景がすごく、僕の中でオーバーラップして、“ギャルだね”って思って…。
こうして、「サシコギャルズ」と名づけられたカスタムブランドは今、まさかのMLBを手がける「ニューエラ」ともコラボが進み…、
黒澤かおりさん:
すごく楽しかったです、刺していて。ぜひ皆さんに見ていただいて…。
ニューエラ ジャパン プロダクトチーム「サシコギャルズ」担当者:
いや、もう最高でしたね。サンプルの時点で、僕たちもだいぶ(テンションが)上がってましたし、実物も、もう1回まじまじと見てたんですけど、やっぱ最高にカッコイイなっていうのは感じました。
津波で、多くを失ったあの日…。
絶望の底で、すがるように握りしめた小さな針と糸はいつしか、大槌の海を越え、世界をつないだ。

石井ルイ子さん:
15年たったから明るくなるっていうのは、そんなことなくて同じです、気持ちがね。でも、泣くも一生、笑うも一生だから。

後藤富子さん:
そうだ。ギャルズだから。

悲しみの分だけ、強くなれると人は言う…。
そんな強さに裏打ちされた、彼女たちの笑顔はどんなブランドより、まぶしく輝いていた。
(「Mr.サンデー」3月15日放送より)
