鹿児島・霧島市の山あいにひっそりと佇む温泉宿「やまのゆ川音(かおん)」。夕暮れ時になると建物を彩る赤い提灯の明かりが、あの人気アニメの世界を思わせる幻想的な風景を生み出している。この美しい光景の背景には、廃墟からの再生と、2025年豪雨災害からの復興への強い想いが込められていた。

10年の眠りから目覚めた湯治宿

2025年の豪雨災害の爪痕がいまだに残る霧島市の国道223号。天降川の渓谷沿いを進むと、黒い壁に赤いちょうちんが映える「やまのゆ川音」の建物が姿を現す。

この記事の画像(15枚)

「こちらは10年以上廃墟だった施設をリノベーションで蘇らせた温泉施設」と話すのは、広報担当で建物をプロデュースした谷之口陽子さんだ。

元は築約60年の湯治宿だったこの建物は、廃屋のように荒れ果てていた。それを2年かけて丁寧にリノベーションし、2024年3月にオープンを果たした。建物の構造はそのままに、天井裏が見える工法などを取り入れながら、どこか懐かしさを感じる和モダンの宿として生まれ変わった。

客室は1人部屋から家族向けまで18室を完備。どの部屋でも川のせせらぎが耳に心地よく響く。温泉は周辺の川の中からも湧き出るほどの豊富な湯量を誇り、やわらかい湯ざわりが特徴だ。浴場と露天風呂は立ち寄り温泉としても大人気で、レストランでは地元産の食材にこだわったメニューを楽しめる。

湯治文化の再生と新たな過ごし方

やまのゆが目指すのは、建物だけでなく温泉文化そのものの再生である。かつての宴会場を改装したリラックススペースには1000冊の漫画が並び、「何もしない」というぜいたくな時間を提供している。これこそが、かつての湯治文化を現代に受け継いだ形だ。

やまのゆが提案する古くて新しい温泉の過ごし方が次第に広がりを見せてきた矢先の2025年8月、施設は豪雨で大きな被害を受けることになった。復旧には2カ月を要した。

「露天風呂に続く通路が全部水の勢いで流されてしまい、内湯にも土砂が流れ込んで撤収作業にかなりの時間を要した」と谷之口さんは当時を振り返る。

支援者の想いが灯す提灯の明かり

「クラウドファンディングで水害の復旧をする中でたくさんの支援をもらい、『このまま足を止めてはいけない』という思いでスタッフ全員ここまでやってこられた」

2025年10月、やまのゆは2度目の再生を果たした。その原動力となったのは、やまのゆを愛し支援する人々の温かい想いだった。そして、この想いこそが夕暮れ時に点灯する提灯の明かりの正体である。

「クラウドファンディングで支援してくれた皆さん一人一人心に刻んでもらいたいと思い、たまたま提灯がアイデアとして挙がり(支援者の)名前を入れて提灯を灯すとその(アニメの)ような景観になったという経緯」と谷之口さんは説明する。

支援者一人ひとりの名前が刻まれた提灯が織りなす幻想的な夜景は、まさに人々の善意と復興への願いが形になったものだった。災害から立ち上がった温泉宿と、それを支えた人々の絆が生み出した美しい光景が、今も多くの人々の心を癒やし続けている。

不思議で暖かい夜景の温泉宿「やまのゆ川音」は、これからも訪れる人々の身も心も癒やしていくことだろう。

(動画で見る▶「提灯の明かりがアニメのように」 廃墟をよみがえらせた温泉宿が伝える“復興の灯”)

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(15枚)
鹿児島テレビ
鹿児島テレビ

鹿児島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。