福岡ソフトバンクホークスは、王貞治・現会長の指導者としての福岡での歩みを起点に、王さんのもとで築いてきたホークスの野球の歴史と精神を次世代へ継承していく『FUKUOKA OH SADAHARU LEGACY PROJECT(フクオカ・オウ・サダハル・レガシー・プロジェクト)』を始動した。

このプロジェクトは、王さんを象徴としながら積み重ねられてきた“ホークスの文化”を過去の記録や思い出としてとどめるのではなく、次の世代に繋ぎ、地域のレガシー(文化的遺産)として未来へ残す取り組みだ。
福岡の街にとって特別な『89』
福岡市の『みずほPayPayドーム』の選手専用通路。福岡ソフトバンクホークスの選手たちは、試合がある日は必ずここを通ってグラウンドに向かう。
王さんが築いた歴史と精神を次の世代へ継承するプロジェクトに携わったひとり、城島健司・現CBO(チーフ・ベースボール・オフィサー)に案内してもらった。「選手たちに、こういう先輩たちがいたことを知ってほしいし、俺たちもここに載りたいと思えるような場所にしたいと思って…」(城島健司CBO)。

お気に入りのポイントは?と尋ねるとすかさず城島CBOが「僕にとっては、これ」と指を差したのは、通路天井に掲げられた背番号89。番号の上にはOHと記されている。
「1989年にホークスが福岡に来て、以来、王(現)会長も30数年、ホークスを指導して、福岡の街にホークスが根付いたというか『俺らが街の誇りホークス』と、やっと30数年かけてなったと思う。その大きな軸は、30数年やられた王会長。王会長を称えるとともに福岡の街にとって89番という番号が、特別な番号になってほしいなと」

プロジェクトを通して城島CBOが福岡に残したい王さんのレガシーとは。王さんが紡いだ“言葉”を紐解いていく。
グラウンドでファンに夢を売っている
まずはこの言葉。『お前を見に来ているファンがいる』

「自分自身は、現役時代はこの言葉がベースにありました。みんなに言われていたんですが『スコアボードにお前の名前がないのが、ファンが一番がっかりする』と。チームが負けるとか、打つとか打たないとかじゃなくて『試合を見に来ているファンがいるんだよ。そのファンが楽しみに見に来たときに主力がいないってことは、一番ファンをがっかりさせるんだ』。そう監督時代に言われました。『グラウンドで君たちはファンに夢を売っているんだよ』と。王会長は僕らの脳内を変えていったと思います」
「自分にとっては、1年間のうちの1試合かもしれないけれど、ファンのこと考えると、それまでは好きな物だけを食べたり、暑い夜もクーラーをガンガンかけて寝たりしていたが、やはり選手として1年間、試合に出続けるための意識も高くなる。1試合、休むことが。それほど大ごとなんだと思えるようになると、結局、毎日、主力が試合に出るということは、勝つ確率も高くなるし、自分の成績も上がるし、そんなことを言われていたんじゃないかなと思います。だから『全試合、出るんだ』と常に僕は思っていました」
「今は、時代的に休ませながらというのが普通にはなっていますが、選手たちは、根本的にはフル出場するという考えで1年間やって欲しいと思います」
練習の練習をすることが明日へ繋がる
続いての言葉は『練習で楽をするな』

「僕はすぐ楽をする方だったので、すぐに見つかって怒られていました。『何でさぼっているのが分かるんですか』と後年、王会長に聞いたことがありますが『目につく奴はレギュラーだし主力だ』と言われた。僕は野球選手のなかでもそれほど体格的に大きくはないが、練習してて、パッと目が行くから、さぼっているのも気づかれる。それで王会長はレギュラーを決めたとも言っていました」

『練習で楽をするな』の言葉には、通算868本のホームランを放った“世界の王”ならではのエピソードもあるという。

「例えばバッティング練習でも、ホームランになればいいんじゃなくて、もっと遠く、目指すところは遠くで、ホームランもスタンドの中段から上に打ちなさい。それで試合で打ち損ねたら、ギリギリで入るんだ。最初からギリギリでいいと思っていたら、打ち損ねた時にスタンドに入らない。だからバッティング練習でも、より遠くへ、と」

「いうことは、練習の練習をしなければいけないわけですよ。バッティング練習でいきなり遠くへ飛ばそうと思えば、無理をするとケガするし、だからバッティング練習をするための練習を自ずとしなければならなくなる」

「だから僕らは準備するのが早くなり、準備が早くなると当然、ケガのリスクも少なくなる。そうなると休めなくなる。結局、練習で楽をするなという言葉に繋がる。それはホークスの良き伝統なんですよね」
「良きものは今も伝えなくてはいけないので、その時代を一緒に生きた小久保監督と僕が、いかに今の選手たちに伝えるか、それが大きな使命だと思っている。王会長の言葉は、今の選手たちにしっかり伝わっていると思う」
試練は乗り越えられる者にしか…
王さんの“レガシー”を紐解く『王貞治の言葉』。城島CBOを支えた王さんの金言とは…。

「僕が骨折したとかケガをしたとき、試合から離れた、調子が悪くなった、そんなときに王会長から言われて、今もずっと心に在るのは『試練は乗り越えられる者にしかやってこない』という言葉。今は、これは君にとって辛いことかもしれないけれど、君は乗り越えられる。それは君しか乗り越えられない。だから僕は、逆境に立ったり、チームがうまくいかなかったり、ケガしたときは、いつもその言葉を胸に『この試練を乗り越えてやろう』と思ってましたねえ。僕のなかでは重い言葉です」

今なお、城島CBOの心に残る王さんの言葉。その精神を、次の世代へ。今、城島CBOのあらたな“試練”が始まっている。

「福岡のスポーツ界にとって89番が特別な番号であり、子どもたちにも89番という番号を特別なものにしていってもらいたい。別に野球だけで使う番号ではないと思うし、少なからず福岡の街にすごく影響のある番号だと皆さん、知っているし…」

「この30数年でホークスに影響を与えてくれた方たちは、まだまだたくさんいらっしゃいますし、今後それが50年後、100年後、王会長に続く人たちが、ホークスの歴史に名を刻んでいく、そしてその時代を知っているファンの方がしっかりその思いを伝えていってくれる」

プロジェクトは、スタートを切ったばかり。球団は、王さんや選手たちが福岡で切り拓いてきた歴史や体現してきた理念を福岡のスポーツの文化として根付かせるために、今後もさまざまな活動を展開していくとしている。
(テレビ西日本)
