
労働人口の減少や首都圏への一極集中といった構造的な課題を背景に、いま、多くの地方の中小企業は人手不足、組織の停滞に直面している。
こうした中、宮城県内では組織を「外から変える」のではなく、「中から動かす人」を育てる取り組みが始まっている。「変化する企業」と「取り残される企業」、その違いとは。
深刻な中小企業の3大課題 採用・定着・育成

2026年1月、仙台市青葉区で「人材定着」と「組織開発」に関するプログラムの成果発表会が開催された。
仙台市と、組織開発支援を行う太白区の企業「Pallet(パレット)」が共同で実施したもので、建設、医療、専門商社など県内10社から現場のリーダーたちが参加した。
各社が抱える悩みは切実だ。「人材の流出」「社員のやる気が低い」「コミュニケーションが希薄」…
プログラムを主催するPalletの羽山暁子社長は、中小企業が直面する現状をこう分析する。
Pallet 羽山暁子社長:
各社、人と組織の課題で悩んでいます。採用ができない、採用しても定着せずやめる、人が期待通りに育たない。採用できない、定着しない、育成できない、この3大課題を解決していくプログラム。
組織を変えるのは「1人1人の感情への寄り添い」

東北地方で「人手不足」を感じている企業は2025年10月時点で49.5%と、約2社に1社。

厚生労働省の調査によれば、転職理由として「職場の人間関係」が男女ともに2番目に多く、「企業の将来への不安」と回答した人も一定数見られた。
7か月にわたるプログラムでは、専属コーチと共に自社の課題を洗い出し、具体的な改善策を実行する。
羽山さんは、人材が定着しない要因の多くは組織の中における「コミュニケーション」の取り方にあると指摘する。
Pallet 羽山暁子社長:
なぜ人材が定着しないかというと、組織のコミュニケーションの課題が大きな要因。その解決の手段として、組織開発をしていくよりも1人1人の感情に寄り添ったコミュニケーションを組織に増やしていく。1人1人の社員のやりがいを創出していくことにトライしてもらう。
「心の点数」から見える社員の事情
東北で業務用食品スーパーを展開する「サトー商会」では、上司と部下の距離を縮めるため、新たな試みを導入した。
会議の冒頭に行われる「チェックイン」だ。これは、自分の「心」と「身体」の状態を点数化して発表し、場を和らげるものである。
「私の心の点数は8点で…飼っている犬がいて、早朝に散歩するのが日課となっています。」
「心の点数6点で…受験生の娘がいて、家庭内、緊迫したピリピリ感もありながら…犬に癒されながら。」
このわずかな対話が、大きな変化を生んでいる。部門責任者の兼平さんはその効果を実感している。
サトー商会 C&C店舗運営部 兼平晋部長
家庭に受験生がいるとかもわかると、仕事の調整もしてあげられます。
今まで知らなかった、野球の監督をしているとか最近アロマにハマっているとか、今のメンタルの状態もわかりやすいところが、やって良かったなと思うところです。

かつては「重い空気」だった話し合いの場。今では部下が相談しやすい環境に変わりつつあるという。
兼平さんの上司である山本さんも、社内の変化を実感している。
サトー商会 C&C本部 山元勝本部長
中小企業はやはり職場の環境をしっかりしないと、大企業と比較すると選ばれる確率は低いと思うので、そういった意味では組織開発を学ぶべきと思います。
「選ばれる企業」への脱皮が生存の鍵
中小企業は大企業に比べて、あらゆる面でリソースが少ない。自然と売り上げの向上や、取引先への対応などが優先され、社員と向き合う機会は後回しになってしまう。
しかし、だからこそ羽山さんは、社員に選ばれる企業を目指すことで、社員の意識が変わり、最終的には顧客にも選ばれる企業になると話す。組織開発は企業の生き残りをかけた「経営課題」であると強調する。
Pallet 羽山暁子社長:
労働人口が減っていく中で、選ばれる組織になっていくことは、経営の大きな課題だと思います。そこに手をいち早くつけた企業が生き残っていける。
社員が「働き続けたい」と思える組織へと進化できるか。
中小企業の未来を切り拓くヒントは、日々のささやかな対話の中に隠されているのかもしれない。
