ウクライナから広島へも避難している人たちがいます。
広島県の出入国管理局によりますと、その数は1月末の時点で40人に上ります。
今日の特集はそのうちの一組の家族の願いです。
福山市で暮らすアンナ・セメネンコさん。
娘二人と避難して3年8ヵ月が経ちました。
【長女 エヴァちゃん】
「カメラの前だからって納豆が好きなふりをしているんでしょ。(私は毎日食べてるけど、あなたは)カメラがいなくなったらべ~ってするんでしょう?」
日本食を作るのも食べるのもすっかり日常です。
【アンナ・セメネンコさん】
Q:食品が高騰して大変ですか?
「4年前と違います。物価高だけが問題じゃない。ほかにも大変なことだらけだから。とにかく戦争で生き残りたい」
ウクライナ北東部の町ハルキウ。
およそ200万人が住む2番目に大きな町です。
アンナさん家族は、一家4人、幸せに暮らしていました。
その日常は、突然壊されました。
着の身着のまま昔来たことがあった日本へ一時避難。
当時5歳と1歳だった娘への影響を考えてのことでした。
【ウクライナから避難 アンナ・セメネンコさん】
「もし子供が怪我を負ったり殺されたりしたら自分を責めると思いました。(男性は原則国外に出られないので)夫は避難できない。全部自分ひとりで怖くても逃げるしかなかった」
戦争は終わらず、はからずも知らない土地での一人での子育てが続きました。
生きていくために必死で言葉を覚えます。
アルバイトも始めました。
家賃と光熱費は福山市の支援を受けていますが、民間からの生活費の補助は終わってしまいました。
【アンナさん】
「おいしいのはスマチノホ」
地域の人と交流する機会も…。
日本の生活になじもうと無我夢中でした。
家具職人の夫は、持病のため戦地には行っていませんが、危険と隣り合わせの生活です。
夫と母、姉妹のいる遠い祖国を思う日々。
先はまったく見えません。
生活を変えたあの日から4年。
「おかえり」
子供たちの背がずいぶん伸びました。
【長女 エヴァちゃん(8歳)】
「7×7=49…7×9=63」
「すご~い」
「簡単」
「賞状もらえた」
「お~すごいじゃん、九九マスター」
「校長先生に九九を言わないと3年生になれないって言われた」
日本語もアンナさんより上達しました。
【アンナさん】
「いろいろ書いたらいつも私にいつもいろいろ見せてくれる。今日ももらいました。エヴァちゃんは想像力がすごく豊か面白いストーリーを思いつく」
アンナさんが守りたかった笑顔がそこにあります。
【アンナさん】
「エヴァにとっては、避難先を日本に選んでとてもよかった。この時期にこの教育や環境をで過ごすことができとてもうれしい。彼女にとってはプラスになっています。日本語も身に付き、いろいろな文化を吸収しています」
戦況が変わらない中、アンナさんも踏み出しました。
【アンナ・セメネンコさん】
「みんなに戦争がとっても恐ろしいことと伝えたいです」
この日アンナさんが向き合ったのは原爆の惨禍を生き延びた「被爆ピアノ」です。
音大で学び、ピアノ講師をしていたアンナさん。
福山市の職員の誘いで、ウクライナの現状を知ってもらう演奏に臨みました。
【アンナさん】
「自分が戦争を経験するとは思ってもみませんでした。家族への不安、恐怖、明日がどうなるかわからない中で生きることは耐え難いことです。自分の人生や運命を自分で決めることもできません。人々が幸せな生活を送るために生まれてくることを心から願っています」
これまで物を増やして来なかったアンナさんの家。
そこに今年に入り、チューリップが植えられています。
アンナさんを前向きな気持ちにさせるものができました。
【アンナ・セメネンコさん】
「最近の2年の中では本物の喜びでした。笑顔で生きる希望をこの本は私に与えてくれました」
自らの経験を絵本にしようと創作活動を始めていたのです。
アンナさんの人生を花と重ね合わせ物語にし、イメージを描き夫・アンドリーさんに見せると…パソコンを使って絵を完成させてくれました。
【夫・アンドリーさん】
「愛妻から『描け』と言われたからもう選択肢は無かったんだ。彼女のイメージを形にしなきゃと頑張りました」
タイトルは「ウクライナの美しいお花のものがたり」。
幸せに暮らしてきた花の家族のもとに突然、悪者のスコップが現れ、父親や夫をさらっていきます。
それでも、アンナたちはあきらめずたくましく生き、物語の最後に家族は再びひとつになり、幸せな結末を迎えます。
【夫 アンドリー・セメネンコさん】
「今は私たち家族にとって、それは生きる目標になっています。残念ながら、唯一の生きるための目標です」
Q:今は安全ですか?
「一言でいうとすべてが最低な状況です。電気は切断され、ミサイルは飛んでくる。寒さが厳しく乗り越えるのは大変です。だけど私たちは希望を捨てません。もう少ししたら春が来てあたたかくなる。すべてがうまくいく絶対に。困難の後には必ずいいことがあるからです」
3年8カ月翻弄され続けた一家が絵本に託す思い。
【エヴァちゃん】
「戦争が終わってほしい。ふるさとじゃけぇ」
いつか花開く。
物語が現実になると信じて、今を生き続けます。
【アンナさん】
「この本は私たちの人生の物語です」