人口減少が進む中、富山県内では運転手不足による路線バス廃止など、私たちの生活基盤を支えるエッセンシャルワーカーの人手不足が深刻化している。新田知事は「企業の人手不足、農業をはじめ各産業の人手不足。とても深刻な事態だと受け止めている」と危機感を示す。こうした状況を打開するため、県は新年度予算案に277事業、167億円を計上し、注目すべき新たな働き方として「スポットワーク」の全業種展開に乗り出す。

生活インフラを支えるエッセンシャルワーカー不足の現実
富山県が人手不足対応を新年度予算案の大きな柱に掲げる背景には、県民の生活を直撃する深刻な現実がある。



昨年10月、県内で多くの路線バスを担う富山地方鉄道が運転手不足を理由に17の路線を廃止した。バス会社の担当者は「仕事をもらうが、それをさばききれないことも出てきている。仕事があっても、人がいないから(バスを)動かせない」と悲痛な声を漏らす。現場では「高齢化もあって毎日出勤しない人もいるので、あと3、4人はほしいかな」という状況だ。

こうした事態を受け、県は新年度、県外で開かれるバス運転手専門の就職イベントへの参加や運転免許取得費用の一部支援など、担い手確保に本腰を入れる。県交通戦略企画課の黒崎勇一課長は「運転手は身近な存在だが、実際の業務の内容とか、どういう仕事なのかというのをより深く、関心がある人に知ってもらうことが大事」と語る。


先日開催されたバスの運転手仕事相談会では、県内8つのバス会社が一堂にブースを出展。求職者に向けて「途中から入ってこられても、給料それなりにもらえるので」とアピールする光景が見られた。
農業分野で実証された「スキマバイト」の威力

県が人手不足解消の切り札として着目しているのが「スポットワーク」だ。数時間から1日単位での単発の働き方で、最近では「スキマバイト」の呼び方でも親しまれている。


県は2024年から事業所と単発で働きたい人をマッチングさせる「農業専門」の求人サービス「富山あぐりマッチボックス」を運用し、手応えを感じている。これまで掲載された2696件の求人に対し、マッチング率は86%という高い実績を誇る。



高岡市のチューリップ農園で午後1時に出勤する山本英明さん(66)は、このサービスを利用するスポットワーカーの一人だ。機械設計の仕事を定年で退職してから、これまで100回ほど農業の仕事をこなしている。「自分で都合のいい時に働いて、都合のいい時に休めるのがメリット。体が動くうちは働きたい」と山本さんは語る。

利用者は退職者だけではない。松田あつみさん(40)のように「自分はブドウ(農家)です。今自分の仕事がない時期。そこで利用できるのはいい」と、農業従事者が繁忙期と閑散期の違いを活用してスポットワークを利用するケースもある。

堂前農園の高井正行代表は「明日急に人がほしい、足りないという時に、ちょっと求人をかけて、マッチングできて来てもらえてお互い助かる」と、雇用する側のメリットも実感している。繁忙期と閑散期がはっきりと分かれている農業において、単発の柔軟な働き方は雇う側、雇われる側、双方にとって大きなメリットがあることが実証されている。
全業種展開へ 介護・福祉分野での本格始動
農業分野での成功を受け、県は新年度、この求人サービスを全ての業種で展開するためのプラットフォームを創設する。特に力を入れるのが、人手不足が著しい介護や福祉、看護などの分野だ。

これらの分野では、事業者側のマッチングにかかる手数料を県側が負担し、スポットワークの拡大につなげる方針を打ち出した。福祉や教育、公共交通など県民の生活を支えるエッセンシャルワーカーの確保強化の一環として位置づけられている。
県は多様な人材が活躍できる好循環を生み出すための「富山モデル」の確立を目指しており、このスポットワーク展開はその中核を担う施策となる。
全国的な拡大傾向と富山県の挑戦
スポットワークは働き方の柔軟さから全国的にも急速に拡大している。富山県が全業種でのプラットフォーム創設に踏み切る背景には、こうした全国的な潮流がある。
県内での人手不足解消にどうつながるか、その成果が注目される。農業分野での86%という高いマッチング率が示すように、適切な仕組み作りができれば、深刻化する人手不足に対する有効な解決策となる可能性は高い。
人口減少という構造的な課題に直面する富山県が打ち出す「富山モデル」。スポットワークという新たな働き方を核とした人手不足対策が、県民の生活基盤を守り、地域の持続可能性を高める切り札となるか、その行方に期待が集まっている。
(富山テレビ放送)
