イージス駆逐艦「ステザム」と貨物弾薬補給艦「シーザーチャベス」が台湾海峡通過

米太平洋艦隊は、2月26日、フジテレビの問い合わせに対して、「2月25日から26日に掛けて、国際法に則り、駆逐艦ステザム(DDG63)貨物弾薬補給艦シーザーチャベス(T-AKE14)が、日常的な台湾海峡通過を実施しました。太平洋艦隊は、国際法が許す限り、飛行し、航行し、そして作戦を続けます」と回答した。

 
 
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米太平洋艦隊の軍艦が、台湾海峡を通過するのは、1月24日に駆逐艦「マッキャンベル」と給油艦「ウォルター・S・ディール」以来のことだ。

しかし、1月の台湾海峡通過についての回答に書かれていた「台湾海峡通過は自由で開かれたインド太平洋への米国の関与を示す」との記述はなかった。前回から1か月余りでの行為であり、言葉は少なくてもよい、ということだろうか。

 
 

だが、いずれにせよ、米海軍の台湾海峡通過は、南シナ海での「航行の自由作戦」同様、中国へのけん制と受け取られることが多い。
米国にとって、米海軍及びその配下の軍事海上輸送コマンド所属の艦船の台湾海峡通過は、どのような意味をもつのだろうか。

米国が台湾防衛を重視する理由

中国へのけん制とするなら、それは、同時に台湾防衛への関与とも受け取られるだろう。

昨年10月2日まで防衛大臣の任にあった小野寺五典衆議院議員は、同11日のBSフジ「プライムニュース」で、興味深い発言をしていた。

小野寺前防衛相:
今まで台湾に対して、ずっとアメリカは中国に気を遣って、肩入れしてこなかった。例えば防衛装備についても、私、現場で見させてもらったが、アメリカからの部品補給が無いので、稼働してないものもあった。

小野寺前防衛相
小野寺前防衛相

だが昨年9月24日、米国防省の国防安全保障協力局は、米国務省が米国内での台湾の利益代表部に相当する「台北経済・文化代表部」が、総額3億3000万ドルに及ぶ台湾軍のF-16戦闘機・C-130輸送機・F-5戦闘機、それに台湾国産戦闘機であるIDF=チンクオ戦闘機のスペアパーツを購入することを承認し、米議会に通知した。

中国外務省スポークスマンは翌25日、「米中間に深刻なダメージを与える」と強い異議を唱えた。

小野寺前防衛相:
台湾に対してもしっかり応援をするというトランプ政権の姿勢、中国への1つの、一定のメッセージにもなるんだと思います。
台湾の地政学的な存在って、とても大きくて、台湾には高い山もありますし、アメリカも台湾と、さらに情報共有を含めて連携するのではないでしょうか。

米軍は、台湾軍と情報共有をすすめるだろう、というのである。

台湾の巨大レーダー「EWR」と米本土防衛

ここで気に掛かるのが、小野寺前防衛相が口にした「高い山」という言葉の意味である。

小野寺前防衛相は、その意味を番組内で明らかにすることはなかったが、推測は出来る。

 
 

台湾で標高2500m級の山、樂山の頂上には巨大なレーダーが立っている。このレーダーは、米国が米本土に向かって発射された戦略弾道ミサイルをいち早く捕捉するために開発した、PAVE PAWS戦略レーダーを基に作られたレーダーで、2つあるアンテナの直径は30メートル以上。EWRとも呼ばれていた。
弾道ミサイルだけでなく、巡航ミサイル・航空機を捕捉できるように性能が変更され、探知距離は以前、3500km以上と言われた。

南シナ海の海南島には、核弾頭を搭載した戦略核ミサイル「JL-2」を搭載した戦略ミサイル原潜の基地がある。
樂山から2000kmで、南シナ海全域が監視できる上、このレーダーなら、中国本土から発射されるICBMも捕捉できるかもしれない。

しかも、昨年改修されているので、性能が向上した可能性がある。米国にとっては、米本土防衛のためにも無視できない存在となったのかもしれない。

中国が、このまま戦略核兵器の開発・生産・配備を続けるなら、米本土防衛の観点から、この台湾の山上に立つレーダーは、戦略弾道ミサイルを見張る眼として、米国防当局にとっても、極めて重要な存在に映るだろう。

従って、小野寺前防衛相が「米国と台湾がさらに情報共有を含めて連携」すると発言した背景には、この巨大レーダーの存在があるのかもしれない。

米国は米本土防衛のために台湾を防衛?

では台湾にとって、このレーダーはどんな存在なのか。
もちろん、台湾に向かってくる弾道ミサイル・巡航ミサイル・航空機の捕捉に重要な役目を果たすだろう。
だがそれ以上に、このレーダーが破壊されれば、米本土に向かう戦略弾道ミサイルを見張る眼が効かなくなることを意味しかねない。

この米本土防衛に直結しうる“眼”を米国が防衛するなら、それは米国による台湾防衛にも直結するだろう。
米中がいわゆる貿易戦争のみならず、安全保障でも、緊張する局面に入るなら米国は、台湾を重視せざるを得なくなるーーそれが、小野寺前防衛大臣の読みであり、米海軍/軍事海上輸送コマンド艦船の台湾海峡通過の背景だろうか。

(フジテレビ 解説委員 能勢 伸之)

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能勢伸之
能勢伸之

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フジテレビ報道局上席解説委員。1958年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。報道局勤務、防衛問題担当が長く、1999年のコソボ紛争をベオグラードとNATO本部の双方で取材。著書は「ミサイル防衛」(新潮新書)、「東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか」(PHP新書)、「検証 日本着弾」(共著)など。