「トランプ大統領は問題を悪化させているだけだ」

中国が米国に対して追加の報復関税を発表した23日、米国の全国農業者組合(NAU)はロジャー・ジョンソン会長の名前で次のような声明を発表した。

「中国が米国製品にさらなる関税を課すことは予想できたことだ。トランプが貿易戦争をエスカレートしても、中国はそれをハッタリとしか受け止めないからだ。今回も再び農家がその標的になった。行政府は農業部門の問題を解決する前に、新たな問題を作り出している。我々の最大の貿易相手との交流を断ち、米国の穀物燃料産業の基礎をも破壊している。トランプ大統領は問題を悪化させているだけだ」

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中国の課税強化の狙い

新たな報復関税で中国向けの大豆の関税は25%から30%に、トウモロコシや小麦は25%から35%に、豚肉にいたっては50%から60%に引き上げられることになるが、中国はトランプ大統領の支持層である農業者を狙って攻勢をかけているという見方もある。

2016年の大統領選挙でトランプ陣営は、伝統的に共和党支持の農業州の他にアイオワ州やオハイオ州など農業州でありながらオバマ大統領を支持した州も奪取したのが当選に結びついたとされている。次回もそうした地域への選挙運動を強化している中で、中国の農業分野への課税強化はトランプ大統領の再選を妨害するようにも受け取られるのだ。

「中国は民主党が大統領選に勝つことを期待しているのかもしれない。そうすれば彼らは米国からぼったくり続けて何十億ドルも盗むことができると考えているのだろう」

トランプ大統領も11日にこうツィートして中国を牽制していた。



「まさかの友こそ真の友」

こうした折に日米貿易交渉で農産物の輸入関税の引き下げを中心とした合意に達したことは、トランプ大統領にとって「地獄に仏」ではないがとりあえずピンチを脱する助けになったことだろう。その証拠に大統領は、予定になかった日米共同記者会見を行い、農産物の輸入関税の問題だけでなく日本がトウモロコシを大量に購入することを約束したと嬉しそうに語った。

「まさかの友こそ真の友」というのは英語のことわざだが、安倍首相はトランプ大統領に貸しを作ることになったのは確かだ。

二人の首脳会談ではアジア情勢などいいろいろと話題になったらしいが、日本側が懸念していたホルムズ海峡の「有志連合」のことは取り上げられなかったという。また先にボルトン補佐官が韓国に「五倍増」を要求したとされる米軍駐留経費の問題も出なかったようだ。これでしばらくはトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」の矛先が日本に向けられることは避けられたのかもしれない。

今回の日米合意は米国産農産物の関税を引き下げる一方で、日本製乗用車に対する米国の関税は2.5%に据え置くことなど必ずしも公平ではないとも言われるが、日米関係全般を展望すると日本側に得るものが多かったようにも思えるのだが。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】

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木村太郎著
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木村太郎
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理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。