ステージ4のがんが「完治」!

「くいしん坊!万才」などで知られる俳優、村野武範さん(72)が、がん闘病していたことを告白、衝撃を広げています。
村野さんは、2015年に受けた精密検査でステージ4の中咽頭がんが発見され、「余命いくばくもない」と宣告されました。
しかし、その後「陽子線治療」を1カ月半受け、すでに仕事復帰。所属事務所によると完治しているということです。
村野さんが受けた「陽子線治療」・・・今注目のがん治療法です。

「陽子線」とは?

 
 
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陽子とは、水素という元素の原子核です。「陽子線」とは、水素原子から電子を取り除いた上で、陽子だけを巨大な装置で加速した、放射線の一つです。その速さは、何と光速の約60%~70%(1秒で地球4周半相当)で、非常に高いエネルギーを持ちます。
通常の放射線治療に使われるX線は、がん細胞だけでなく、周辺の正常細胞や臓器にもダメージを与えるため、照射部位によっては嘔吐や脱毛等の重い副作用を引き起こします 。
一方、「陽子線治療」は、がん病巣に放射線を集中させることが可能で、正常組織への影響を低く抑えることが可能です。なぜそのようなことが可能なのでしょうか?

ピンポイントでがん細胞死滅!

 
 

通常の放射線は、からだの表面に近いところが最も強く、その後徐々に弱くなっていきます。また、放射線は病巣に到達した後も、身体の中を通り抜けていきます。
そのため、周辺の正常細胞等にもダメージを与えてしまうのです。
しかし、陽子線はある深さで放射線量が最大になり、それ以上先には到達しない特性を持っています。
しかも、その最大になるピークの幅や深さは、精密に制御することが出来るのです。
つまり、ピークを腫瘍(がん)に合わせることで、ピンポイントでがん細胞を死滅させることが出来ます
しかも、陽子線は、病巣に到達した後はそこで停止するため、身体の中を通り抜けません。
そのため、副作用も軽度で、例えば頭に照射しなければ脱毛の心配は全くありません。照射で痛みや熱さを感じることもありません。

入院せずに、通院治療も可能!

 
 

「陽子線治療」は、原則として1日1回、週3~5回行い、合計4~40回程度照射して完了します。治療期間は、長い患者さんで約2ヶ月間ほどです。
治療は装置のベッドに寝た姿勢で受けます。実際に照射する時間は1~2分ですが、身体の位置をミリ単位で正確に調整するのに20~30分かかります。
「陽子線治療」は身体の負担が少ない治療のため、通院治療も可能です。

世界初の「切らない乳がん治療」研究進む

適応となるのは、前立腺がん、肝臓がん、肺がん、すい臓がん、脳腫瘍、頭頸部腫瘍、骨軟部腫瘍、小児がんなどです。そして現在、世界に先駆けて、日本の研究チームが進めているのが、陽子線による乳がん治療の実現です。
昨年5月、4名の早期乳がん患者を対象に進めてきた治験の第一段階が終了。全員に良好な治療結果が得られたことから、第二段階の準備を進めているところです。
「切らずに治す乳がん治療」の実現は、そう遠くないかもしれません。

「特約付き保険」なら、高額治療費をカバー

治療にかかる費用はどれくらいでしょうか。
「陽子線治療」は、厚生労働省より先進医療として認可されたもので、「陽子線治療」に関わる費用は保険適応外になります。現在、陽子線治療が受けられる施設は全国で13か所ありますが、費用は約288万円になります。
かなり高額ではありますが、生命保険各社の「先進医療特約付き保険」に加入していれば、その保険会社と協定を結んでいる施設での治療費はカバーされます。
また、小児がん(限局性の固形悪性腫瘍)については、平成27年4月から、「陽子線治療」が保険適応となりました。
他のがんについても、今後、利用患者が増加して治療実績が積み上がれば、いずれは公的な健康保険適用へと格上げされる可能性もあります。


(執筆:Kusaba Gaku)

プライムオンライン編集部
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