義足歩行者にとって困難な「走ること」

足を切断した人々に、もう一度自分の足で走る喜びを与えたい。

しかし走るためのスポーツ義足は高価で、簡単には購入できない。

そこで始まったのが、義足をレンタルする「義足の図書館」プロジェクトだ。

このプロジェクトの中心メンバーである、義足開発の「株式会社Xiborg(サイボーグ)」代表取締役の遠藤謙さんにお話を伺った。

 
 
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日本には、足を切断した人がおよそ6万人いると言われている。

しかし、板バネをつかって走ることができる人はほとんどいない。

健常者にとっては当たり前の「走る」という行為が、義足歩行者にとって難しい原因を、遠藤さんは価格や環境面がハードルになっているためだと言う。

「『板バネ』と言われている義足は、保険適用外です。基本的にアスリートは自費で買っていますが、価格が約20万円から50万円なので、ちょっと走りたい人にはなかなか手が出ません。また、練習場所もありません。パラリンピックで盛り上がっているものの、切断患者が走れる環境があるかというと、日本ではまだそこまでいってないのです」(遠藤さん、以下同)

 板バネとは、スキー板を折り曲げたようなかたちの義足で、パラリンピックなどで競技者が使用しているのを見た方も多いだろう。

走行時の荷重で板バネがしなって戻る、反発力を活かす義足だ。

「義足の図書館」プロジェクトとは

Xiborgでは、東京・豊洲にある「新豊洲Brillia(ブリリア)ランニングスタジアム」で、板バネを試し履きできる取り組みを行っている。

「板バネをたくさん用意して、患者が好きなものを選んで、トラックに出て走ってみる。そういうシステムをつくるためのトライアルです」

このトライアルでは、Xiborgのメンバーと義肢装具士、アスリートが協力し、走った経験のない切断患者が簡単に走るためには何が必要なのかを研究している。

「練習メニューとか、パーツの角度調整とか、ぱっと来てぱっと走るには何が必要なのか試行錯誤しています」

ここには足を失った小学校4年生の男の子も来て練習している。

 
 
 
 

「大人用の板バネと子供用の板バネの値段そんなに変わりません。しかし、大人の場合は、同じ板バネを数年間使えますが、子供は成長するので大人と同じような値段の板バネを何本も買わなくてはいけません」

そこで始めたのが、「義足の図書館」プロジェクトだ。

「図書館の本棚に本が並んでいるように、壁一面に板バネを並べて、自分に合ったものを見つけ、レンタルできるようにしたいです」

図書館内には、子ども用から大人用まで、25本程度の板バネを設置する予定だ。

「クラウドファンディングサイト『Readyfor』で、イニシャルコストとして1500万円を募っていて、(6月20日現在)3分の1まで支援金が集まっています。2020年までには5000万円が必要です」

1500万円のうち、Readyforの手数料や支援者へのリターンのための経費を差し引いた1200万円が、義足や取り付けるためのコネクタの購入の一部に使用される予定だ。

遠藤さんは、前述の男の子の一言が忘れられないと言う。

「走ることをあきらめていた彼が、『走るってこんなに気持ちいいんだ』とぽろっと言いました。これは健常者と思っている我々が忘れていた、大事なことを思い出させてくれました」

 東京パラリンピックまであと3年。

2020年に向けて、遠藤さんの望みは、「切断患者が走りたいと思ったときに普通に走れる環境を作る」ことだ。

今回のクラウドファンディングはその大きな一歩となるだろう。

クラウドファンディングはこちら。
https://readyfor.jp/projects/12669

 
 


ランチタグ6/21放送分より

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。